映画を観に
「――何をしているんだい、トワ君」
トウメ声で俺はハッと我に返った。いぶかしげな表情のトウメと目が合って、俺はとっさに言葉が出ない。口を数度開閉してから、ようやっと、
「あ、いや、どっちに行くんだったかと思ってだな」
俺の言い訳じみた(じみたもなにも、本当に言い訳なんだが)言葉に、トウメはさらに眉をひそめた。
「どっちって何がだい。道ならこの通り、まっすぐ続いているし、行き先ならさっきちゃんと映画館に決めたろうに。やれやれ、今日何度目だろうね、いつもにもましてぼんやりしちゃってまあ。そんなことで映画に集中できるのか、心配でならないよ」
やれやれ、と肩をすくめ、それからこちらをちょっと見上げて、ちいさく口元を歪ませた。
「しかたない、おいトワ君。映画という本番の前に、少々頭をすっきりさせた方が良いようだ、と助言しようじゃないか。さしあたっては、うん、映画館の売店で高いばっかりで甘味料まみれの冷たい飲み物でも買うと良い。もちろんトワ君のおごりだ」
「おい最後。なんで俺がおごりなんだよ。言っただろ、金欠だって。あのなあ、最初に言ったように、財布の中身は映画代で限界ぎりぎりなんだよ。電車代だって残さなきゃならんし」
「くっくっく、安心したまえ、トワ君。今日は水曜日、つまり映画はレディースディだ。1100円になる日だね。それで十分買えるだろうさ」
言われて俺は頭の中で財布の中身を確認した。……たしかに、足りてしまう。何もかも見透かされていると悟った俺は諦めて小さく息をつく。
「……本当に、今回だけだからな」
「くっくっく。恩に着るよ、トワ君」
……一生勝てる気がしない。俺は心からの敗北を悟った。笑って言うトウメの表情を見て、俺は、またしても言葉を失っていた。