第8話 バスターソード
さて次の試合は相手がBクラスなので相当な苦戦が予想される。特に相手が貴族や金持ちの子供の場合は装備の差が試合の行方を分けるのだ。学園のクラス分けは試合で決まる、そして勝負は公平に決まるようだが実は公平でもなんでもない、金持ちが優遇されているのだ。まず金持ちは子供の頃から良い教育や戦闘訓練を受けている、そして良い装備を持っているのだ。例えば剣士なら良い鎧に良い剣、魔道士なら魔力上昇の指輪や杖等だ。特に金持ちなら魔法の効かないオリハルコン製の鎧を身につけていたり、馬鹿げた威力を持つ魔剣を持っていたりするのだ。こんな連中に勝つのは飛びぬけた才能か能力の有る人間だけなのだ。つまりこの試合は公平なようで公平では無いのだ、勿論俺も文句を言う気はない、これは実社会と何ら変わらない訳だからだ。
「どう?勝てそう。あいつの鎧は結構いい奴よ」
「そうなのか?」
「まあね、見たら分かるわ。家は貴族じゃない?筋力上昇の腕輪とかも付けてるわ」
「へ~、貴族様のガキか~。俺に負けたら泣くんじゃねえの」
いつの間にか俺の傍にやって来たクリスが相手の事を教えてくれた。流石は学園最強の勇者だな、見ただけで相手の装備や実力が分かるらしい。でも何故か俺の能力は分からないのだそうだ。そりゃあそうだろう、誰も知らない魔法だからな、使ってる本人にも良く分からない魔法だしな。
ここでチョット困った事になった。おれの武器は弓だが相手が鎧を着ていると攻撃が通用しないのだ、金属製の矢を使えればいけるかもしれないが試合用の矢では弾かれるのは間違いない。さてどうするか。
Eクラスの連中は雑魚なのでサクサク試合が進む、健闘する奴も勝つ人間も殆どいない。俺以外に勝ったのは拳闘士が一人だけだった。あいつはEクラスでも腐らずに毎日努力をしていた奴だった、体が小さな拳闘士はパワー不足で損なのだが努力で補った様だ。Eクラスから昇格できるのはたったの2名、競争率20倍の狭き門だが例年こんなものらしい。
さて2回戦だが勝ち残ったのは半数の80名、つまり後1回勝てばCクラス以上は確定するかもしれない筆記試験が有るが今回はレベル上げばかりしてたので出来が悪いのは確定だ、講義もまとも聞いてないので多分酷い点だろうな。
名前を呼ばれたので試合会場へ向かう。相手は既に会場に来て中央に立っていた、相手が俺だと気がつくと急にニヤニヤしだした。簡単に勝てると思っている様だ。
俺は中央に行くのをやめて試合用の武器が置いている場所に向かった。相手は上等な鎧と各種の強化リングを付けているので俺の弓と試合用の矢では確実に負けると思ったからだ。あの鎧に試合用の先の丸くなった矢は通用しない、対オーク変異種用の全金属の矢なら通用するが危険なので使わせてもらえないのだ。
「教官、一番デカイ大剣貸して下さい」
「はあ、お前に持てるわけねーだろ。大剣のスキル持ってるのか?」
「持ってません、でも使います」
大剣は重騎士か剣士の中でも極一部の人間が使う武器なのだ、大きくて重くて使いにくい。普通の人間には持って構えるのも難しい程の重さがある、平均した重さは20キロほど、鍛えた男か大剣装備のスキルが有る者が両手で構えて戦う為の武器だ。
俺は大剣の中でも一際大きい対巨獣用の大剣を選んだ、普通の大剣より幅も重量も2倍位ある奴だ。試合用というよりも授業の中で大剣の種類説明で見せる為のものだ。
「おい!それは対ドラゴン用のバスターソードだぞ!お前なんかに使える訳ねーだろ。構えることすら出来ないぞ」
「それじゃこれ借りますね」
「本当にEクラスってのは馬鹿じゃねーのか」
俺はバスターソードを引きずって会場中央に向かっていった。重すぎて引きずって居るので相手は驚いているし、会場の見学者は笑っていた。俺がウケ狙いでやってると思ってるようだ。
まあ一勝してるので出来る芸当だ、負けられないならやらない戦い方だ、この戦い方は初めてやるので出来るかどうかは分からない。
「お前!舐めてるのか!平民風情が」
「ふん!貴族の癖にBクラスの落ちこぼれが!いい気になるなよ。お前なんて大剣で十分だ」
実際問題としてこの大剣は50キロ位あるので重いのだ、引きずって来るだけで疲れる位だ。背負えば運べるが両手で持って振り回せる様な武器じゃ無かった。それでも俺は両手で一応持っている、重すぎて切っ先は地面に付いたままだが。
「両者前へ!」
「おう!」
「・・重い・・・」
「試合開始!」
審判の声が上がると大剣使いのハワードは激怒してこちらに突っ込んできた、俺と違って片手で大剣を持っている。やっぱり本物の大剣スキルが有ると楽に大剣が持てるようだ。
「おら!」
俺の頭にハワードの大剣が振り下ろされる。そこで初めて俺は能力を使いバスターソードの重さをゼロにした。振り下ろされる大剣は遅い。当たれば威力が有るのだがいきなり当たる様な武器ではないのだ。軽く体をひねってハワードの大剣を躱し、驚いた顔をしているハワードの腹目掛けて俺のバスターソードを全力で振る。
「おおお~!!」
ガキン!
俺の振るった異常な速度のバスターソードは見事にハワードの鎧をぶち壊し相手の腹にかなり食い込んだ。流石にドラゴン用の大剣だ人間の鎧をぶち壊す位は簡単の様だ。
腹を抱えて苦しんでいるハワードの傍に行って見下ろしながら笑いながら言ってやった。
「次は頭を狙う、先に狙ったのはお前だからな」
「・・ひえ・・・俺が悪かった止めてくれ!」
「そこまで!勝者コウ」
試合に勝った俺はそのまま後の試合は棄権した。2勝したので十分だった事も有るのだが体が壊れたからだ、重さをゼロにしたのに全力で振るう大剣は何故か動き始めが異常に重かった。そのせいで俺の腕の筋肉や関節はかなり壊れた様だ、それでハワードに追撃ができなかったのだ。腕が動くなら倒れたあいつの頭は今頃無くなっていたハズだ。
「やるじゃない」
「まあな」
俺の試合を見ていたクリスが又やって来た。なんでこいつは俺に興味を持つんだ?迷惑だ。
「どうかしたの?顔が真っ青じゃない」
「チョット腕が壊れたみたいだ、めちゃくちゃ痛い。腕が動かない」
「普通の人間があれを振り回したらそりゃあ壊れるわね。バーサーカー使った後みたいなものね」
「ふ~ん、無理なスキルを使うと体が壊れるのか」
「さっきの魔法かスキルを教えてくれたら治してあげるわよ、どう?」
「嫌だ、教えない!」
そして俺は薬草を買いに街に向かった。俺の能力は誰にも教えない、俺はこれで生きていかなければならないのだ。しかし筋肉が切れると痛いもんだな、今度金が出来たらポーション買わないとな。