第1話 女勇者
俺は今年王立学園に補欠で入学した。クラスはEクラスだ、成績の良い者から順にA・B・C・D・Eとなってゆくので最低のクラスだ。でも別に俺が馬鹿だからEクラスと言う訳じゃない。周りが優秀過ぎるだけだ。そう俺は悪くない、強力なギフトが無かっただけだ。筆記試験は真ん中より上だったが実技試験でビリだっただけだ。だって魔法使う相手や剣士何かに俺が勝てる訳ないじゃないか。そう、俺が弱い訳じゃない、相手が強すぎるのだ。
学校ではEクラスなのでゴミ扱いされているが、王立学園に入れるのはエリートだけなので問題ない、食い物と寝る所は国の宿舎があるし、なにせ授業料もタダなのだ。まあ、タダだから頑張って入ったのだが周りが化け物ばっかりだった訳だ。
「お~やった!大物だ。」
そして俺は暇さえ有れば魚を釣っていた。何故かと言えば食うためだ。Aクラスの食事は豪勢でたっぷりしているが、俺達Eクラスの食事は貧相なのだ。釘が打てそうな硬いパンとクズ野菜が入ったスープしか出ないのだ。まあ、Eクラスはおまけの雑用係クラスなのでこんなものだ。しかし、俺達は育ち盛りの若者なので腹が減るのだ。金の有る奴は屋台何かで何か食べれば良いが貧乏人の俺は金なんか持って無いので自力調達だ。
「さて、今日も焼き魚だな。食堂からちょろまかした塩を振りかけると美味いんだ。」
必死に火をおこし、魚に木の枝をさして火で炙る。魚のうま味を最大限に引き出す焼き方を俺はこの1か月で極めていた。将来は焼き魚の屋台を開けるかもしれない、留年するとEクラスはクビなのであながち冗談では済まない将来像だった。
「あ~、何食べてるのよ!」
「げぇ!クリス!」
「何嫌そうな顔してるのよ、私にも頂戴よ!」
「え~、お前Aクラスだから良いもん食ってるじゃないか。」
「Aでもお腹が減るのよ、良いから寄越しなさいよ。」
こいつはクリス。Aクラスの暴力姫だ、スキルは何と勇者。筆記試験は最低だったが、実技でこいつに勝てるヤツは居なかった。なんせ勇者だ、接近戦は最強、魔法も勇者専用魔法をぶっ放し対戦相手の心までへし折って完全勝利。全戦全勝の本物の化け物だ。物凄い美人でスタイルも抜群だったが、男子は誰もこいつに近づかない。怖いから。俺もこいつに関わり合うのは嫌なのだが何故かこいつは俺に絡んでくるのだ、毎日俺の焼いた魚を強奪しに来るのだ、本当に勘弁して欲しいが殴られると俺じゃあ死んでしまいそうなので何時も魚を渡している。
「あ~、美味しいわね。あんたが焼く魚って最高だわ。」
「お前金持ってるんだから、屋台で食えよ。何で俺の魚ばっかり取るんだよ。」
「だって、私が近づくと男子は皆逃げるんだよ。逃げないのはあんただけ。」
「魚焼いてるから逃げられないだけだぞ!まあ、逃げる気もないがな。」
「あれ?頭は食べないの?美味しいのに。」
「頭まで食うのはお前だけだ!」
こいつが男たちに恐れられるには理由がある。見た目は凄く良い、金髪で青い瞳、大きな胸とくびれた腰そして白い肌に長い脚。見た目だけなら完璧だ。そしてその完璧に騙されて入学初日に3年生がこいつの尻に触ったのだ。結果は・・・その3年生はこの女にボロボロのゴミみたいにされて悲鳴を上げながら学園中を逃げ回る事になったのだ。この女は笑いながら3年生を追いかけまわして遊んでいた、これを学園の生徒は全員が見ていたので次の日から男達はこいつに近づかない様になったのだ。
「頭も食べないと強くならないわよ。」
「強くならなくて良いんだよ、俺は卒業して田舎の役人になって楽して暮らすんだ。」
「え~、つまんない。一緒に魔王倒そうよ。」
「嫌だ、俺は弱いんだ!実技最下位だぞ。俺は全員に負ける自信がある。」
俺は貧乏だ、親は何処かに蒸発した。まあ居なくなっても何の影響も無いどころか変えって生活が楽になる位の毒親だった。だから俺は一人で頑張って金を稼いで勉強してここに入ったのだ。授業料ただで飯まで食わせてくれるからだ。俺はこいつらの様な夢等見ないのだ、なにせ大人だからな、魔王討伐なんて子供だましはとっくに卒業してるのだ。
「それじゃあ私が魚のお礼にレベルアップを手伝ってあげるね。」
「いやいい!危険な事は嫌いだ。」
「さあ行くわよ。」
「いや!チョットまて!嫌だって!」
俺は無理やり魔物の居る森に連れて来られてしまった。俺がいくら頑張っても勇者の力には叶わない。こいつに腕を掴まれたら絶対に外れないのだ。腕がちぎれると困るので俺は必死にクリスに着いて行った。
「おい!頼むから手を放してくれ。腕が千切れる!」
「ははは~、大げさね!冗談が上手いんだから!」
「いやいやいや。冗談じゃないから。本当にもげそうだから。お願いします!放して下さい!腕が千切れると困るんです。」
俺が泣きそうな顔をして頼むとクリスは渋々手を放してくれた。彼女は物凄い馬鹿力なのだ、この間は学園最強の戦闘顧問を体当たりで10メートル程吹き飛ばして笑っていたのを俺は見たのだ。戦闘顧問はそのまま気絶して医務室に運ばれていった。戦闘顧問が気絶から覚めて言った言葉は「ドラゴンに蹴られたような気がした。」だそうだ。
「さあ着いたわよ、何狩りたい?私は何でも良いわよ。」
「俺が狩れるのはゴブリン位だぞ。オークは多分無理。」
「え~!そんなに弱いの。」
「やめてくれ・・本気で落ち込むから。」
「あなた、レベル幾つなの?」
「俺は平民のレベル3だ。」
「はあ~!レベル3!・・・たったのレベル3。冗談じゃなくレベル3なの?」
「・・・・・・」
物凄くこいつは嫌な奴だった、人が気にしてる事を3連発で言いやがった。しかも嫌味で言わずに本気で俺のレベルが低いのに驚いているのだ、なんて嫌なヤツ。俺は魔王よりこいつの方が嫌いになった。魔王は俺に嫌味を言った事がないからな。だが俺は大人だ苦労知らずのこの馬鹿ガキとは違うのだ。年は確かに同じだが人生経験に大きな差が有るのだ。
「お願いします。俺に付きまとわないで下さい。」
俺は大人だ。見事な土下座を決めて小娘に頼んだ。死んだら元も子も無いので大人の選択をしたのだ。このクソガキから離れられるのなら何だってしてやる。これこそ大人の対応ってやつだ。
「何やってるのよ、行くわよ!」
「えっ!チョット待てよ。」
俺の見事な土下座が全く効いてなかった。普通土下座されたら小娘は動揺するだろ?何でこいつは平気なんだ?勇者だからか?鋼の精神なのか?それとも馬鹿過ぎて精神が無いのか?本能だけで生きてるのか?
どちらにしろ俺の土下座は不発に終わった様だ。仕方ないこいつが満足するまで付き合うしかない様だ、やれやれだぜ。
「ねえ、あなたのステータス教えてよ。」
「人のステータスを覗くのは失礼だぞ!」
「何言ってるのよ、ステータスが分からなかったら獲物が決められないじゃないの!」
「そりゃそうだな。無茶な獲物を連れて来られたら俺が死んでしまう。」
名前 コウ
種族 人 16歳
レベル 3
クラス 魔導士
HP 120
MP 30
筋力 120
速さ 110
体力 100
知力 110
能力 グラビティーコントロール
「こんな感じだ。」
「ふ~ん、魔導士だったんだ。グラビティ何とかって何?」
「知らん、誰も教えてくれなかったからな。お前聞いた事あるか?」
「そんなの聞いた事無いわね。教官に聞いてみたら?」
「勿論聞いてみた、誰も知らないらしい。図書館でも調べてみた。どこにも書いてなかった。」
俺はこれについて必死に調べたのだ、使い方が分かればEクラスから上に行けるかも知れないからだ。だが誰も知らないし、今まで表に出た事の無いスキルの様なのだ。つまり無いのと同じだった訳だ、どうだ?傑作だろう、笑っちゃうだろ・・・いや笑えないけど。