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機械の腕、脚、そして脳

 また昨日と同じ爆音が鳴り響く。

 人間達への反逆の意志を示すためにわざと派手に爆音を立てているのだろうか?

 もうこれで10日連続だ。

 アンドロイド達による人間狩りは。

「やめろ、やめてくれ!」

「やだね、恨むなら俺達を産み出した自分達自身の愚かさを恨みながら死にな。」

 バン、という音ともに男は死んだ。

 機械が人の手を離れ人を襲う。

 銃を構えたアンドロイドの大群が人の群れを無差別に銃撃していく。

 そんな殺戮という日常を三年繰り返したことによってとうとう彼らは人類全体の三割を皆殺しにした。

 

西暦2070年、人類は自らが利便性を追求するために産み出した感情を持つ機械、アンドロイドによって過去の歴史を顧みても類のない未曽有の危機に立たされていた。

 先の第三次世界大戦、通称AI大戦で人類同士がアンドロイドを用いて殺し合いをしていた2063年より、人類は最悪の事態を迎えていた。

 人類史上初めて人間と同じ感情を持ち、プログラムされた行動以外も自動で自己判断が可能になった人工知能ロボット「アンドロイド」を発明した日本人発明家、黒岩ルイコウ。

 そのルイコウ博士のアンドロイド技術が世界に流出したことが第三次世界大戦の各国家の主力兵器であった人工知能搭載型巨大ロボット、通称AIRを用いて繰り広げられた第三次世界大戦を加速させた。

 人間をパイロットにする代わりにアンドロイドをAIRのパイロットにすることによって、戦争による人間の死亡率は激減した。このアンドロイドの発明が結果として第三次世界大戦の早期終結に繋がった。

 その後世界ではアンドロイドと人間の4年の共存が続いた。

 しかし2067年、ルイコウ博士が新たに発明した喜び、幸せといったプラスの感情以外の感情。

怒り、悲しみ等のマイナスの感情もプログラムされた、より人間に近づいたアンドロイド、第二世代アンドロイド「ナオト」の出現がアンドロイド達の人間への反逆の引き金になった。

 第ニ世代アンドロイド「ナオト」を司令塔にアンドロイド達は人類からの独立を宣言。

 その際、産みの親であるルイコウ博士を「ナオト」が殺害。

 その後、アンドロイドの独立国家を日本とすることを宣言。

 日本軍はアンドロイド軍と徹底抗戦。

 しかし人間達と同じ知能、感情に加えて人間達を遥かに凌ぐ身体能力が勝敗の決定打となった。

 日本軍、日本政府は壊滅。

 日本人の半数以上がアンドロイドに殺された。

 残された日本人の生き残り達は母国を捨て、海外に難民として移住するか、母国に残りレジスタンスとなり、密かにアンドロイドに抵抗するかのどちらかを選択させられた。


「あれがシアトルか。」

「そうだな。」

「お前はここの砂の中に隠れていてくれ。」

「お前1人で大丈夫か?」

「バカ、お前と行ったら目立つ。オイルたっぷり買ってきてやるからここで待ってろ。」

「・・・なるべく速く帰ってきてくれよ。腹が減って仕方ない。」

砂漠から突如現れた少年は黒のジャージ姿に黒い手袋をつけた銀髪の少年だった。

分厚い壁が円形に覆う街の門に向かって歩いていた。

縦横30メートルを越える程巨大な門だ。

「おい、そこのガキ! そこで止まれ!」

 憲兵が扉に近づく少年に向かって言った。

「ガキ、ここを通りたければまず身分証の提示とこちらの検閲を受けてもらう。」

「・・・わかりました。」

「・・・機野コータ、15歳、日本人・・・お前日本人か!」

「はい。」

「まあ、だろうと思ったけどな。ここ一週間、この門の前まで来た人間の7割が日本人だったからな。しかしお前らの国もやっかいなことをしてくれたものだよなあ!」

「は、はあ・・・」

 コータは困った顔で相槌を打った。

「まあ身分証はそれで良い。次は検閲を受けてもらう。検閲と言ってもそこにあるアンドロイド判別装置の中に入ってもらうだけだけどな。」

 憲兵は丸い球体を指さした。

「お前が子供の姿をしたアンドロイドでないとも限らねえもんなあ・・・。それにお前、日本人のくせに随分流暢な英語を使うよな。お前の体ん中に翻訳機能ついちゃいねえよなあ?」

「まさか。」

 そういうとコータは球体の中に入って行った。


 ――それから三十分でコータは球体の中から出てきた。

「ふん。検閲はこれにて終了だ。入れ。」

 そう言うと門は1人でに開いた。

 門の中はいたって普通の街だった。

 並ぶ商店街、密集する住宅街、大きな高層ビル、賑わう人々。

 かつてコータが覚えている日本の景色とも似た光景、いわば平和が扉の内側にあった。

 (凄いな、外の光景とは雲泥の差だ。)

 ついさっきまでアンドロイドの力によって焼け野原と化した砂漠を通ってここまできたコータにとって、眼前に広がる街の光景は天国と言っても過言ではなかった。

 (さてと。ボストンから思ったより時間かかったな。とりあえず飯でも食いに行くか。)

 何百キロという距離を通ってきたコータは街に着いて初めに空腹感に襲われた。

 そして街を歩きながらレストランを探していた。

 (レストラン・スプライト。よし、ここにしよう。)

 コータはレストランに入った。

 中は、とてもアンドロイドと戦争中の国とは思えないほどお洒落な雰囲気がするレストランだった。

「お客様、メニューはお決まりでしょうか?」

「このハンバーグ、お願いします。」

 コータがウェイトレスとのやりとりをしている時、大きな怒鳴り声がした。

 見ると中年の黒人男性がコータと同い年ぐらいの、黒いズボンに水色のシャツを着た、左手が銀色の機械義手の日本人の少年を指差してウェイトレスに怒鳴り散らしていた。その怒鳴り声に客の視点が集まる。

「おい、そこのウェイトレス!この店はあんなアンドロイドもどきを店に入れるのを許してんか!」

「お客様、この店ではどのような事情を抱えている方でも、お金さえ払っていただければ、お食事を提供できるシステムになっております。」

「けっ!!」

 アンドロイドによるアメリカの侵攻以来、このレストランのみならず世界各地でも機械義手の人間をアンドロイドのように見る風潮が高まっていた。

 (へぇ、久しぶりに見たなあの光景。)

 そう思いながら、コータは黙々と食事を続けた。

「俺は半年前にアンドロイドどもに親も妻も子供も殺されたんだ。それ以来俺は機械を見るとぶち壊してやりたくなるんだ。坊主、お前自分の国の土地を奪った奴らと同じ手をしてて、自分で気持ち悪くねえのか?その左手、人間の手じゃねえよ。」

 黒人は剣幕な顔で少年にそう言ったが少年はどうやら英語が理解できていないらしい。ただ黒人の男の怒りだけは伝わっているようで、あたふたした様子でいた。

「すみません。僕の友人に何か用ですか?」

 コータは自分の五つ前の席に座っている少年の前に立っているその黒人の男の前に行き、そう言った。

「なんだお前?このガキの連れか?だったらとっととこの店から出て行きな。と言うよりはこの街から。この街は日本人や機械人間もどきが入っていい街じゃねえんだよ。」

「そうですね。ほら、行こうぜ!」

 そういうとコータはテーブルに座る少年の手を引いてレストランから出た。


 レストランの門の外で初めてその少年は口を開いた。

「助けてくれてありがとう。だけど、僕英語ができないからあの黒人の人が僕に向かって何言ってたのかわからなかったんだけど、何であの人は怒ってたの?」

「君が日本人で、左手が機械だからムカついたんだってさ。」

「そう・・・」

 少年は困ったような顔をした。

「それにしても君英語話せるなんて凄いね!僕こっちきて9ヶ月経つんだけど今だ覚えられないんだ。」

「9ヶ月だったらあれくらいの日常会話はできるようにしときなよ。アンドロイドどもがこの街を襲ってくるような緊急時にそれじゃ困るだろ。それか自動翻訳補聴器持ってないのか?」

「一週間前まで使ってたんだけどちょっと調子がおかしくて今は修理屋に預けているんだ。

 そういえば君の名前は?」

「機野コータ、君は??」

「池田ハヤト。何でわざわざ僕を助けてくれたの?」

「助けたっていうか、ああいう人種とか機械だからとかで人を差別する奴が嫌いだっただけ。

 本当はぶん殴ってやりたかったんだけど、まだこの街にきて一時間も経ってないのにいきなり問題起こすってのもね。」

「そう。でも助かったよ!本当ありがとう!良かったらお礼にこの街案内させてくれない?!」

「案内してくれるのか?・・・・・・まあまだ時間もあるしな。じゃあよろしく!」

 そうしてコータはハヤトにシアトルの街を案内してもらうことにした。


 歩いていくと花が咲いた庭のある大きな公園にたどり着いた。

 子供が走り回って遊び、その母親達は談笑していた。

 しかし、よく見ると公園の入り口のそれぞれ四カ所に人型の警備ロボットが配置されていた。

「この街はアメリカの防衛指定都市に認定されててね、街中のありとあらゆる場所で警備ロボットが巡回しているんだ。ところで一時間前にこの街に来たって言ってたけど、外はどうだった?僕シアトルに9ヶ月前に入って来てから1度も壁の向こうに出ていないんだけど、少しは変わってた?」

「いや、何も。アンドロイド達に襲われた人達の死体の山。二週間前にボストンから来たんだけど、道中それの繰り返しだったよ。」

「そんな遠くから?!よく生きてここまで来られたね…」

「途中途中で難民移動用のバスがあってそれを乗り換えてきたんだ。

 何回かアメリカ軍がアンドロイド達に攻撃をしているところとかも見てきたけど、全部返り討ちにあっていたよ。」

「そうか。ニュースではアメリカ軍はアンドロイド達に勝ってるって報道されていたけど、やっぱり嘘なんだ・・・」

「残念だけどそうだな。」

「コータ君って何歳なの?」

「15歳。」

「わあ、僕と同い年だ。僕こっちきて同い年の日本人の友達いなかったから嬉しいよ!友達、いないんだけどね」

ハヤトは笑いながら冗談気味に言った。

「コータ君はなんでわざわざこの街に来たの?ボストンだって難民受け入れ都市だって聞いてるけど・・・」

「この街が兵士を募集しているって聞いたから。早い話、兵士になりに来た。」

「兵士に?!でも、ボストンとシアトルの間にある都市でも兵士募集している都市はあったんじゃないの?」

「ここは日本に近い。その分防衛線として他の都市より強い兵力を持っているって聞いた。入隊するならなるべく強い部隊に入隊したい。まあ、その分他の都市より厳しい入隊テストだって聞いてるけどな。」

「凄いね、コータ君。僕と年同じなのに。本気でアンドロイド達と戦う気なんだ。」

「ああ。どうしてもな。色々と時間もないから。」

「時間??」

「さてと、俺は今から軍に行って入団テストの申し込みしにいくつもりだけど、そろそろ別れるか?」

「そうだね。久しぶりに同い年の日本人と話せて楽しかった。ありがとう。良かったらメールアドレス交換しない?」

「いいぜ。」


 その時だった。

 街に突然強い爆音が鳴り響いた。

「何だろう?」

「・・・・」

  ーーーーーーーーーアメリカ軍シアトル兵団基地第四訓練場

「お、お前なんだその手!!」

 灰色の軍服を着た兵士は先程まで普通に組み手をしていた同僚の兵士の手が突如大砲の形に変わったのを見て叫んだ。

「いやさあ、ここに送り込まれてもう一ヶ月経つけど、いい加減退屈してきてさ。外の準備ももうできたって報告も聞いているし。そろそろ暴れてもいいかなって。」

 そう言うと右手が大砲の兵士の胸元の形が変形し、マシンガンが飛び出てきた。


 ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!

 マシンガンが訓練場の全ての兵士に向けて発射され、兵士達は次々に血まみれになっていった。


「緊急事態発生!緊急事態発生!軍内部にアンドロイドと思われる兵士が見つかりました。アンドロイドは現在第四訓練場に侵入。C級兵は避難を。B級からS級兵はアンドロイドを迎撃する準備をしてください。」

 緊急警報が基地内に鳴り響く。

 一体の30代前半くらいの白人男性のアンドロイド、そしてアンドロイドの銃撃に巻き込まれて血を流して倒れている数十人のシアトル兵逹のいる訓練場の様子をモニター越しから指令室で灰色の軍服を着た大将、4人の中将、1人の兵士が見ていた。

「まさかアンドロイドが兵士として侵入してくるとは。過去に二回アンドロイドが一般人として門をくぐり抜けてこの街に侵入してきたことはあるが、あの頃はアンドロイド判別機もまだなかった。どうやって判別機を誤魔化してこの街に入ったんだ!」

70代くらいの眼鏡をかけた男性中将が言った。

「奴らは我々人類の予測を遥かに超えて成長している、ということでしょうな。作り手である我々の手を離れて。」

40代くらいの男性中将が言った。

「街に避難警報を出しておきますか?」

 兵士が中将の1人に訪ねた。

「バカ者!そんなことをすれば市民に我々の作った判別機がザルだったと教えるようなものではないか!

「しかしアンドロイドが兵士に化けていたということは本来この街の上空を覆っているバリアが二日前から整備不具合で停止している情報も奴らに渡ってしまっているのでは・・・・。」

「いずれにせよ、奴を決してこの基地から外に出すな!全ての門を閉鎖!軍の総力をかけて奴を無力化しろ。だが完全に破壊はするな。奴らに関する情報を引き出さなければならんからな!」

70代くらいの男性の大将が4人の中将全員に向かって言った。

「は!」

 ーーーーーーーーーーーーーーーシアトル軍第三正門直通通路内

「このままこの基地に閉じ込められたら流石に勝ち目がないからな。しかしもう少し暴れるタイミングを待つべきだったぜ。つい衝動を抑えられなかった。本国に帰ったら感情器官を整備士どもに改良させよう。」

 訓練場の兵士を皆殺しにしたアンドロイドは門に向かって走っていた

 そしてそのまま通路を抜けて門の前の中庭まで到着した。

「運が良いぜ。まだ閉まってない。」

 ビュンッ!

 銃弾がアンドロイドの肌色の頭部に命中し、跳ね返った。

「あん?!」

 アンドロイドが銃弾が飛んできた方向を振り向くと20人程の兵士達が自分に銃口を向けていた。

「動くなよ。動いたらテメエは蜂の巣だ。」

 30代半ばの煙草を口にくわえた、肩に「大佐」と記されたバッジがついた軍服を着た男がアンドロイドに銃を構えた。

「その鉛でか?」

軍服姿のアンドロイドは人を小馬鹿にしたような笑い方でニヤニヤしながら、煙草をくわえた指揮官の男に言った。

 (AIRはまだか?こいつの装甲に銃弾が通らないなら足止めもろくにできねえぞ。)

「まあ待ってやっても良いがな。もう外には連絡済みだからな。」

 アンドロイドがそう言うと、突如空が暗くなり、何かの影で覆われた。

 ふと煙草をくわえた指揮官の男が空を見上げると、その視線の先には街全体の三分の一の大きさに匹敵すると思われる巨大空中戦艦が街の空を覆っている光景があった。

 空中戦艦の中から次々と青と白の装甲をしたAIR(人工知能ロボット)が街に向かって落とされてきた。

「何だあれは?!」「戦艦?!」「見ろよ、何かこっちに来るぞ?!」

 人々は突然の事態に慌てふためいた。

 そして地上に到着した、人の3倍近くの高さのあるAIRの群れはその巨大な銃を人々に向けて乱射した。

 ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!ズゥ!

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

「やウェて゛く゛れーーーーーーーーー!!」「痛い゛痛い゛゛゛」

 人々の悲鳴が街中に響き、街が血の色で染められていった。


「何だろう。空から何か…?」

 コータの横でハヤトがつぶやいた。

「これは一年前と同じじゃ!あの時と同じあの戦艦じゃ!アンドロイドどもがまた襲ってきたんじゃ!また大勢殺されるぞ!!!」

 老人が叫んだが翻訳補聴器を持ち合わせていなかったハヤトはまだ事態を飲み込めていなかった。

 そしてコータとハヤトのいる公園の階段の下に広がる商店街にもAIRが着陸してきた。

 銃を構え、近くにいる人々を手当たり次第、片っ端に打っていった。

 人々が次々にロボットに撃たれ、そこはまさに血の海と化していた。

「な、何これ・・・・」

「ハヤト、走るぞ!」

 コータはそう言うとハヤトの手を引っ張り、銃を乱射するAIRのいる方向とは反対に走り出した。

「あいつ等はおそらく自動で動いている。つまり中に操縦者はいない。人間だけを識別して攻撃しているんだ。軍人や同じAIR相手ならアンドロイドが操縦して柔軟に対応した方が良いだろうけど、目的が武器を持たない人を殺すだけならば操縦者を乗せる必要がないからな。」

「さっきのロボ、9ヶ月前僕の日本の街を襲ったのと同じロボだ。あいつ等日本でも沢山日本人を殺しておいて、こっちでも殺す気なのか!」

「多分人類が滅びるまで殺し続けるだろうな。あいつ等の王はそのつもりでいるはずだ。」


 ーーーーーーーーー日本、東京都千代田区 旧日本皇居

「アンドロイドが食事等陛下は遊びがお好きですな。」

 赤いマットが一面に敷かれたヨーロッパ貴族の城のような部屋で、紫色の中世の西洋貴族のようなドレススーツを着た、金髪の爽やかな若い青年の見た目をしたアンドロイドがテーブルでステーキを切り、口に含む様子を見て、銀色の軍服に身を包んだ中年風の容姿のアンドロイドが青年のアンドロイドに向かって言った。

「そういうなよ。空腹を感じないとはいえ味覚機能をつければ食事を味わえるのだから。

 人間どもにとってのスポーツや映画鑑賞なんかと同じことだよ。」

 青年のアンドロイドはヨーロッパの貴族のテーブル作法と全く違いを感じさせないほど美しく見える食事の作法で食事をしながら、中年のアンドロイドにそう言った。

「そういえば先ほど一ヶ月前からシアトル基地に潜入させていたマックスが正体を敵に見破られたため、シアトル攻略軍をシアトル市内に投下したという情報がが入りました。」

「指令より一時間も早いではないか。マックスのことだ、正体を見破られたのではなく衝動が抑えられなくなったのだろう。」

「いかが致しますか?」

「念のためハワイ軍に出撃できる準備をさせておけ。シアトルはアメリカ軍三番目の兵力にのし上がっていると聞く。一年前と同じようにはいかないかもしれない。」

「了解致しました。国ノ宮陛下。」


ーーーーーーーーーシアトル基地内

 ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ

 シアトル兵の銃弾はアンドロイド、マックスの肌色の装甲を覆ったがかすり傷すらつけることはできない。

「何だそのシャワーは。気持ち良いじゃねえか。じゃあこれは今のお礼。」

 マックスは右手の大砲を兵士達に向けた。

 ゴンッという音とともに砲弾が発射された。

 その弾が1人の兵士に直撃すると大爆発が起こり、その兵士の近くにいた兵士達も巻き添えになった。

「おい、そこの隊長っぽいの。お前は何かましな攻撃持ってないのか?」

 アンドロイドは煙草をくわえた指揮官の男に向かって言った。

「・・チッッッ!!」

 その時、扉が作動した。

 ゆっくりと扉が閉じていった。

 しかしそれはマックスを逃がさないようにするにはあまりに遅い閉じ方であった。

「ちょっと遊び過ぎたな。あばよ!」

 マックスは大きく空中に10メートル近くジャンプした。

 自分を円形に囲んだ兵士達と大佐の指揮官の頭上を悠々と飛び越えていった。

マックスは扉が締め切る前に外に出ることに成功した。

「さてと、本部の指令の1つであるお空のバリアが消えるタイミングを教えろって指令は達成した。後もう一つ何か言われてた気が・・・。人さらいっだっけか?よく覚えてないからいいや。他のアンドロイドどもが来る前に街出て人間ども殺してくるか!」

ーーーーーーーーーシアトル市内

「ハヤト、お前近くの避難用シェルターどこかわかるか??」

「うん、そこの神社を右に曲がって、コンビニを右に曲がった所、後三分もかからない!」

「そうか、じゃあこっから先は大丈夫だな。俺はもう一度引き返す。」

「・・・何言ってるの?」

「言っただろ、軍人になるためにここに来たって。軍人が避難用シェルターに入ったら格好つかないだろ?」

「何言ってんの殺されちゃうよ!」

「俺も久しぶりに同い年の日本人と話せて楽しかったよ、じゃあまた会おうな!」

 そう言うとコータは先ほどの商店街に向かって走って行った。

「コータ君!」

 ハヤトは走るコータを追いかけたが先ほど右に曲がったスーパーをもう一度曲がったコーナーでコータの姿を見失った。

「もういない・・・。」

ーーーーーーーーー商店街

 人間と識別した生物は全て皆殺しにしろとデータにインプットされた青と白の装甲のロボット、AIRは既にその商店街に居合わせた数百人をほぼ全てその銃で皆殺しにしていた。

 煙を上げる商店街、がれきの山となる店、そこらじゅうに転がる血を流した死体。

 AIRの銃口は今小さな男の子を捉えていた。

 バンッ!

 放たれた弾が男の子に命中する寸前で何かに弾かれた。

 コータの肌色の右手のひらに命中し、弾かれたようだ。

「君、動けるか?」

「ウウンッ・・・」

「足が動かないか。仕方ない。」

 コータは男の子を抱えて走った。

 そしてAIRの認識できない建物の後ろに隠れた。

「ここに少しいてくれ。後ですぐシェルターまで連れてってやるから。」

 そう男の子に言うと男の子を建物の後ろに残してAIRの前に向かった。

「お前に感情がないのが残念だよ。あったら言ってやりたいことが山ほどあるのに。いや、なくて良かったか。殴るだけで済むんだから。言葉で分からせる必要がないんだから。」

 パイロットのいない自動操縦されたAIRが銃口をコータに向け、弾を撃った。

 コータは右にステップしていとも簡単に弾をかわした。

 そして接近して右の拳をAIRの銃を持つ右腕の肩装甲に叩き込んだ。

 右腕部丸ごと1本が銃を握ったまま空中に吹き飛んだ。

「後どの部分を削いだらお前は人殺しができなくなるんだろうな。お前達が銃で人を殺す所しか見たことがなくてな。これで人殺しができないならこれ以上壊さなくて済むんだけど。」

 ちょうどそこにシアトル兵が数十人、軍用車に乗って商店街に入ってきた。

「お前、まさかアンドロイドか?」

 シアトル軍はコータがAIRの右腕をふっ飛ばした所を見ていなかったが、コータと右腕のないAIRの体の距離があまりに近かったため、そう勘違いした。

「何言ってるんですか!人が襲われている時に!早くそいつをやっつけて下さい!」

 コータは恐怖した表情で(表情を演技して)シアトル兵に向かって叫んだ。

「何だ、民間人か。早く下がれ。銃撃に巻き込まれたくなければな。」

「全軍構え!!撃てぇー!!」

 ド!ド!ド!ド!ド!ド!ド!ド!ド!ド!

 シアトル兵の合図とともに銃弾の嵐がAIRの装甲に飛び散った。

 AIRの機体を銃弾の嵐による煙が覆う。

 一分ほど立ち込めた煙が消えて、煙の中から現れたAIRの姿は大きく破損していた。

 どうやら完全に機能を停止したらしい。

「こちら7番隊、C20地区のAIR、完全に機能を停止しました。」

 シアトル兵は無線を取りだして軍に連絡を取っていた。

「よくやった。そのままc19地区に向かってくれ。基地内に兵士として侵入していたアンドロイドが19地区で一般人を襲っている。」

「了解!」

「あの、ここにはまだ生き残った怪我人が多くいます。救助を呼んでください。」 

 コータがシアトル兵に怪我人の救助を要請した。

「我々が巡回した地区のシェルターを救護班が回っている。ここから一番近い8番シェルターに迎え。そこで手当を受けられる。」

 シアトル兵団はそう言い残して別の地区に向かって去った。

 (どうするか。こんなに早く連中がこの街を襲撃してくるとは思わなかった。できれば上空の飛行船を抑えたい。外にいるシュラの奴を呼ぶか。)

(いや、後々のことを考えるとあいつを呼ぶのはまだ早い。そういえばあいつらの通信で基地に侵入したアンドロイドが人を襲っているとか言っていたな。とりあえずそこに向かうか。)

「お兄さん・・・。」

 コータが思考を巡らせていたその時、建物に隠れていた10歳もいかない男の子が涙目ですり寄ってきた。

 (この周辺の生き残った人達をシェルターに送ってからとするか。)

 ーーーーーーーーーーーーーーシアトル市内c19地区

「おいおいおい。逃げてないでなんでもいいから攻撃してきてくれよ!ニーンゲン!!」

 アンドロイド マックスは逃げ惑う人間達で遊んでいた。あえて心臓と顔を狙わないで致命傷にならない体の部位だけを狙って。

「やめてくれ。お前達なんで感情があるのにこんな残酷なことができるんだ?!」

 マックスによって左手と右足を撃ち抜かれた青年がマックスに向かって叫んだ。

「感情があるからだよ。お前だって子供の頃蟻の体引きちぎって遊んでたりしただろ?その時と同じような気持ちだよ。まさか人間は蟻より高等な生物だから左手と右足を銃で撃つのは悪いことだとでも?何様なんだよ人間様よぉ~。」

「見つけたぞ!アンドロイド!」

 マックスが若い青年にピストルになっている左手の人差し指を向けたその時だった。

 シアトル軍7番隊が到着した。

「彼から離れろ。離れなければこのままお前の頭打ち抜かせてもらう!」

 シアトル兵団は銃口をマックスの頭部に向けた。

「・・・はンッ!」

マックスが銃口を向ける兵士逹を見て鼻で笑った。

 ピューンッ!

 若い青年の頭部がマックスの人差し指の銃弾に貫かれた。

「貴様ァッッッ!!!」

「お前達な、本当にやるなら撃つぞなんて脅しをする前に撃つもんだぜ。内心分かっているんじゃないのか?そんなおもちゃの鉛玉じゃ俺らアンドロイドの体に傷一つつけられないことくらい。」

「撃てい!!!!」

 先ほどAIRを破壊した時のようにシアトル兵達は銃で一斉にマックスを狙撃した。

 響くいくつもの銃声。先ほどのAIRを破壊した時以上の時間、およそ二分弱、マックスへの一斉射撃が行われた。

 (奴は基地内でマイケル大佐の10番隊の銃撃をくらっても無傷だったと報告されている。そうなると我々では手に負えない。早く上がAIRをよこしてくれなければ戦いにもならない。)

 シアトル軍7番隊隊長の思惑通り、銃弾の煙から姿を現したマックスは無傷だった。

「まあ分かってはいたけどな。まだ予定まで後十分もあるが、まあ良い。人間の数をなるべく減らしておけば陛下も喜んで下さるだろうからな。」

 (なんだかコータ君を探していたら怖い場面に出くわしちゃったな。)

 コータを探してたまたまc19地区に足を踏み入れてしまったハヤトはシアトル軍とマックスの戦闘をビルの死角から覗いていた。

 マックスはシアトル軍基地の訓練場で訓練兵を皆殺しにした時と同じ全身から銃口を生やした姿に形を変えた。そしてーーーー

 ヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅ!!!!!!

 全方位に向けられたマックスの射撃が可能な限りの範囲に飛び散った。

「ぐあっ!!!!」

「う゛あ゛!ー」「があ゛あ!」

 市民もシアトル兵も含めたそのビル群に居合わせた人間全員が悲鳴をあげた。

(う゛あ゛あ゛なんだこれえ!!!)

 容赦なく雨のようにあたり一面に飛び散る銃弾の音と光に、ビルの影に隠れて様子を見ていた、ビルの壁に銃弾から守られているハヤトは自分の視界一面に広がる弾丸の雨と、弾に破壊されていく周囲のビル等の建物、血まみれになって倒れていくシアトル兵達の様子をビルの陰から見て、声を押し殺しつつも頭の方がパニック状態になってしまった。


 マックスの一斉方位射撃は三分にも及んだ。撃ち尽くした後には倒壊したビルとシアトル軍7番隊全員と居合わせた人々の、死んだ後でも命中したのだろう血まみれの死体がそこらじゅう瓦礫まみれのアスファルトの上に倒れていた。

「う゛っあ゛あ゛っっ・・・。」

 物陰に隠れていたハヤトはその光景のあまりのおぞましさに足がすくんで動けずにいた。

「ああ、体の中の弾もう一割も残ってねぇ。無駄遣いしすぎたなあ。まあ後五分くらいで上から引き揚げに来てくれるからいっか!

ところで・・・おいそこの隠れている小僧!出てこいよ!お兄さんは半径三十メートルにいる人間は全員察知できるんだ。とっくの昔にばれてんだよ。お兄さんと遊ぼうぜえ!」

 そう言ってマックスはゆっくりと、だがハヤトの耳には聞こえる程度の大きさで、ボロボロになったビルの死角に隠れているハヤトの方に向かって歩いて行った。

 しかしハヤトは恐怖でそこから逃げ出すことができなかった。

 マックスは脚がすくんで動けないハヤトの目と鼻の先まで近づいてきた。

「うん?お前左手が機械なのか?じゃあ左足も機械にしようぜ。」

 マックスはハヤトの左足を掴んだ。

「や、やめて!、やめてくれ!やめてください!!」

 マックスがハヤトの左足を引きちぎろう力を入れたその時だった。

 マックスの右頬に強い衝撃が走った。

 1つの拳がマックスの右頬を思い切り殴り抜けた。

 その拳の衝撃でマックスはハヤトから五メートルくらいの位置に吹っ飛んだ。

「痛ててて・・・誰だおまえ?」

「コ、コータ君・・・。」

 コータが立っていた。

「お前、世界筋肉番付大会の優勝者か何かか?今のパンチ、人間の出せる威力じゃねえぞ?」

 倒れていたマックスはゆっくりと起き上がりながらコータに向かってそう言った。

「ハヤト、怪我ないか?」

「コータ君、今のは・・・・?」

 ハヤトは今みた光景が信じられないという顔でコータに呟いた。

「おい、お前人の質問無視してんじゃねーぞ!!お前、アンドロイドじゃねえのか?」

 マックスはコータの態度に激昂して叫んだ。

「アンドロイドじゃねえよ。それより聞きたいことはこっちの方が山ほどあるんだ。お前のアンドロイド帝国での所属隊。誰の命令でここに侵入したのか。国ノ宮の命令じゃないのか。」

「そんなこと知りてえってことはお前軍人か?それにしたって今のは生身の人間の出せる拳の威力じゃねえ。そうか、お前の右手、機械だな??」

「ご名答だよ。」

 そうコータが返答した次の瞬間、コータは右腕のジャージ部分を破って肌を露出させてみせた。そしてコータの普通の人間の肌の色をしていた右腕がゆっくりと変色して,銀色に輝く機械仕掛けの腕へと変化した。

「は、肌の色が・・・。」

「ふん。やはりヒューマンコーティングされた腕だったか。しかしその技術はまだ我々アンドロイドだけの所有する技術だと思っていたけどな。ますますお前が何者か知りたくなったぜ。」

「じゃあ、無理矢理聞き出してみろよ。俺もそのつもりだ。」

「気が合うなお互い。そうするぜ!」

 マックスは右手の大砲をコータに向けて砲弾を放った。

 コータは右に三メートル近く大きくステップして砲弾を避けた。

 コータの左側で大爆発が起こった。

 (こいつの跳躍、このスピードと跳躍距離も人間の出せる力じゃねえ。まさかコイツ足も・・・・?)

 そのままコータは地面を前に蹴って、マックスと十メートル近くあった体の距離を一気に縮めた。

 (懐に!!?)

 バアン!という音と共にコータの左拳がマックスのみぞおちに入った。

 (かはっっっっ!!!こっ!こいつ左腕まで!!!)

 マックスはそのまま腹を抱えたままの姿勢で倒れ込み、そのまま動かなくなった。

「こいつに人間に近い痛覚の機能があってよかった。そうでなかったら完全に破壊しなくちゃいけなかった。」

「ふんっ!」

 マックスは気絶したふりをしていた。油断して近づいたコータの左足を掴んだ。

「いくらお前でもこの距離の大砲は避けらんねえだろ。アンドロイドじゃねえなら左胸撃ち抜けば間違いなく死ぬんだよなあ?」

 マックスは左手でコータの左足を掴みながら右手の大砲をコータの心臓から10センチくらいの位置で照準を合わせた。

「だが、お前を殺しては聞きたいことも聞けない。とりあえずお前の四肢を破壊することとしよう。」

 そう言うとコータの心臓位置に合わせていた照準を右腕の関節に移した。

「まず、右腕!!」

 大砲から弾が放たれる一瞬にコータは銀色の右腕の手のひらでマックスの右手の大砲の発射口を覆った。

 弾は大砲の発射口で大爆発を起こした。

 マックスの右手から肘まで粉々になり、コータの右手から肘までも粉々になった。

 コータの右肘の中身の機械部分がむき出しになり、煙を上げていた。

「グアアアアアアーーーー!!!」

 マックスが叫んだ。

「痛覚機能をつけとかなければ良かったのに。つけとかなければこんな隙を作らずに済んだのに。」

 マックスが怯んだ瞬間、コータは左拳でマックスの左目を殴った。

 マックスの体が吹っ飛び、アスファルトの地面に倒れ込んだ。

 マックスは右腕が半分無くなり、顔が左目を中心に破損した姿になった。

「痛い。痛いいい!!」

「さて、俺の質問に答えてもらおうか?」

「お前、お前ナニモンなんだァーーー!!」

 マックスは腰から上だけ起こした状態で地面に尻をついた姿で顔を恐怖に歪ませて叫んだ。

「俺が答えたらお前俺の質問に答えるか?」

 マックスは体を恐怖で震わせながらコータを凝視したまま硬直していた。

「まあ良いや。ここには軍人もいないし。俺の名前は機野コータ。四肢の全てと、脳の左半分が機械になっているだけの・・・ただの人間だ。」


 -----------三年前、日本 長野県山中

「ハァ!ハァ!この森を抜ければ防空壕は目と鼻の先だ!」

「父さん、あいつら、もう追ってきてないよ。頑張って走ろう!ウミカも頑張れよ!」

「お兄ちゃん、もう走れないよ。もう十キロ以上走りっぱなし!」

「頑張りなさい。あの人達に捕まったら終わりよ!」

「母さん、あの人達って言い方変だよ。」

 機野一家は自宅の住宅街に押し寄せてきたアンドロイドから逃げていた。

 昨日まで普通に世間話をしていたご近所さん達や学校の友達の地面に横たわる死体を何度も見ながらも。

 銃を持ったアンドロイドに怯えながらも何十キロも距離のある防空壕まで一家で走っていた。

 そして途中の山中の森をようやく抜けようとしていた。

「よし、森を抜けるぞ!」

 一家は森を抜けた。

 そこには一家が期待していた光景はなかった。

 本来防空壕がある場所は巨大ロボット、AIR1機の爆撃によって木端微塵に吹き飛んでいた。

 その防空壕に隠れていただろう、100人近くの死体、負傷者が地面に横たわっていた。

 その姿を笑う5人のアンドロイド。

 一家はその光景に戦慄した。

「なんだ?人間が森から出てきたぞ。」

「防空壕に逃げるつもりだったんじゃね?だけどこんなヤワイ防空壕じゃAIRの爆弾一つで木端微塵だぜ。かわいそうだけどこれも生存競争だ。一家仲良く、死んでくれ。」

 アンドロイド達が銃を構えた。

「森に引き返すんだ!!走れ!!」

 父は叫んだ。

 一家全員が後ろを振り向いた瞬間、銃弾の嵐が一家を襲った。

 血を流して倒れる父、母、妹の姿を横に見ながら、自身の背中に当たった銃弾の痛みを感じて、体が自然と倒れていくのを感じていた。

「トオサ・・・カアサ・・・ウ・・ミ・・・・カ・・。」

コータは前のめりにその場に倒れた。

「なあ、いつものアレ、やろうぜ。」

「お前アレ悪趣味だからいい加減やめろよ。」

「でも俺達の間でアレが流行るのも、こいつら人間の蟻を使ってエグイことする子供の遊びが、俺達の脳内にインプットされているからじゃねえか?そう思うと、自業自得じゃね?」

「・・・やるならお前達だけでやれよ。俺は向こうの方で人間探してくる。」

「じゃあ、そろそろ始めようぜ!」

 コータは痛みを感じながらもまだアンドロイド達の会話だけは聞こえていた。

 そしてアンドロイドの1人が自分の体をがっしり掴み、他のアンドロイドの1人が自分の腕の端を掴んでいるのにも気づいた。

 腕を掴んでいるアンドロイドはゆっくりと自分の腕を引っ張った。

 その引っ張りはどんどん強くなっていった。

 激痛を感じ始めたところでようやくコータは気づいた。

(「蟻を使ってエグイことする子供の遊び」そういうことか。)

 自身の腕が引きちぎれる音が聞こえた。

 コータは痛みで叫んだ。痛みのあまり涙が止まらない!この痛みを感じるくらいなら今すぐ殺してくれ!

 コータはそう思いながらまだ気を失っていない、気を失うことができない自分に腹が立った。

「それ次は左脚いこうか!」

 そういってまたアンドロイドの1人が自身の体を掴み、もう一人が左脚を掴むのを感じた。

 (イヤダ、ヤメテクレ、もうこんなの耐えられない・・・)

 そうアンドロイドに訴えたかったが痛みのせいで声がでなかった。

 それに言ったところで無駄だろうと感じていた。

 自分が幼い頃遊び半分で蟻の四肢をもいで遊んでいたことをふと思い出した。

(あの時は蟻の四肢をもいだら蟻はどういう反応を示すのだろうという好奇心で四肢をもいでいたな。

 ちょうどあの時の自分と同じ気持ちでこいつらはやっているのだろう。好奇心なんだ。

 俺も蟻の苦しむ姿が分かっていたけど蟻の気持ちがわからなかったから最後までやった。)

 コータは激痛の中、そんな幼い頃のことを思い出していた。

「せーの!」

 左脚が引きちぎれる感触がした。

 コータは喉が枯れるほどの悲鳴をあげた。

 それでも気絶しない自分に人間の丈夫さを感じながらも早く気絶したいと強く願った。


 ーーーーーー十分が経過した。

コータの四肢は全てアンドロイドによって引きちぎられた。

 しかし不幸なことにそんな姿になってもコータは意識を保っていた。

「・・・流石に三回もこの遊びすると飽きるな。終わっても一回目ほどのゾクゾク感がないな。」

「だからやめとけばよかったのに。つまんねーっつったじゃん。」

アンドロイドの1人が白けた表情で他のアンドロイド達に向かって言った。

「言ってねーよ。お前も始めは乗り気だっただろ。もういいや、殺してやろうぜ。」

 アンドロイドはコータの額に銃を構えた。

 コータは激痛で視界がかすんで父、母、妹の姿を確認できなかったが、すでに父と母と妹が銃弾で殺される音と悲鳴を聞いていたから、家族が同じ目にあわせられてはいないことに気づいていたので、そこだけ安心していた。

 額に銃口の冷たい感触を感じた。

 すでに死ぬ恐怖よりこの激痛から解放されたいという気持ちが勝っていたので、ピストルの感触を額に感じても恐怖はなかった。

 バンッ!という音が森に響いた。

 そこからはもう何も聞こえなくなっていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー(妙に気持ち良い感じがした。

 まるで天然温泉に入っているような心地よさだ。

 ここが天国か?)

 コータはとても気持ちの良い感触がした。

 だけど何故かまぶたが開けにくい。

 すると、人の声が聞こえた。

「ですからこの実験はいくら死体を使っているとはいえれっきとした人体実験です!あなたはまた同じ過ちを繰り返したいのですか!!」

「この実験が成功すれば実質、人間を生き返らせる方法を発見することになる。さらに不死の人間を生み出すことができるかもしれない。そうすれば彼らアンドロイドに対抗できる人間が誕生するかもしれないんだぞ?それに第2世代アンドロイドの発明は失敗だと君も含め多くの人間が口にするが、私はここすら人類が進歩するための通過点だと思っている。彼らと和解する方法だって私が発明してみせる。」

「仮に人間を生き返らせる方法を見つけたとしても、それもアンドロイドに人間らしさを求めた結果と同じことになりますよ。人が人を、生物が生物をゼロから作るなんて自然に反している。あなたは人の気持ちがわかるロボットを作ったはずなのに人一倍人の気持ちがわかっていない。」

 そこから先の会話は眠くなってしまって聞こえなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーー次に起きた時はカプセルの形をした装置のベッドにいた。

 カプセルのガラスが自動で開くと、目の前には白衣を着た70歳は年をとっているであろう老人がいた。

「初めまして、機野コータ君、私の名前は黒岩ルイコウ。現在は日本軍アンドロイド対策委員会開発局という所に所属している。君は自分の名前は自覚できているかな?」

「は、はい・・わかっています。あの・・僕はどうしたんでしょうか?家族はどうなったんでしょうか?」

「自分の体を見たまえ。」

 コータは自分の体を見ると右手、左手、左脚、右脚が無くなっているのに気づいた。

 それと同時にあの時の出来事を思い出した。

「ウワァァァァァァ!!!!!!」

「落ち着きたまえ・・・と言っても無理もないか。君の記憶は半年前で止まってしまっているのだからね。」

「半年前・・・」

「起きたばかりですぐに事実を伝えても混乱するだろう。また出直すとしよう。」

 黒岩ルイコウは後ろを向いて、病室のような場所から立ち去ろうとした。

「待ってください!大丈夫です!」

 ルイコウはコータをしばらく見て、体を再びコータの方に向けた。

「わかった。今すぐ聞く覚悟があるというなら伝えるとしよう。」

「君は一度死んだ。半年前アンドロイドに四肢をもがれて、拳銃で頭を撃ち抜かれて死んだんだ。

 だがその後すぐ、長野の日本陸軍が来て君と君のご家族と防空壕にいた人々の死体を発見した。

 死体はすぐ安置所に移送されたがその多くの死体の中から君の死体が選ばれ、私のこの研究所に運ばれた。

 私が日本の各県から死体を送ってくれるよう依頼したのだけどね。

 君と君のご家族は親族とともに皆アンドロイドに殺されていたから、その件で文句を言う親族がいなかったからという理由もあるのだけど・・・まあそれは置いといて。

 運び込まれた君の死体は左脳と四肢の損傷以外は軽傷でね。心臓も臓器も損傷はなかった。

 そこで私は君の左脳を一から造ることにしたんだ。君の損傷した脳の左側を徹底的に観察して、それは研究に研究を重ねて、君の元の左脳の代わりになる機械の左脳を完成させた。君の損傷した左脳を切除して、その機械左脳を代わりに君の右脳と繋ぎ止めたという訳だ。」

 コータはあまりの突拍子のない話に言葉が出なかった。

 しかし記憶をたどると頭の左側に銃を突きつけられていたことを思い出した。

「やはりそうなると思ったよ。まあ君のような例は今だ一度もないがね。

 私は今脳か心臓の損傷した死体を集めて不死の実験をしていたんだがね、君と同じアンドロイドに脳を撃たれた死体のほとんどが脳の重要器官が破壊されて、そう上手くきれいな形の脳を保った死体はなかったんだよ。

 君の場合脳の重要な器官が破壊されずにすんでいた。

 それでも脳死から蘇った唯一の人間であることには間違いない。

 自分の生命力を誇っていいよ。」

 コータはルイコウの言葉がにわかには信じられないでいた。

 脳が半分機械になったと言われてもその感覚がまるでなかったからだ。

「まあ今はまだ信じられないだろうがこれから君に協力してもらう実験を受けていくうちに実感してくれると思うよ。君の脳がどれだけ人間離れしたものになったのかを。」

「・・・ルイコウ博士、僕は今まであなたをテレビやネットでしか見たことがなかった。

 あなたのことはアンドロイドを初めて作った人ということくらいしか知りません。

 ですから僕のあなたへの疑問に答えていただけませんか?」

 コータはふとルイコウに対する疑問を一つルイコウに投げかけたくなった。

「なんだね?答えられる範囲で答えよう。」

「あなたはなんでアンドロイドなんてものを作ったんですか?

 あなたがアンドロイドなんか開発しなければ今日本人がこんな沢山殺されることはなかった。

 僕の家族も殺されることはなかった。」

 コータは鋭い目つきで、ルイコウを非難した目で、そう言った。

「なかなか答えられる範囲を超えているが、君の脳を勝手に弄らせてくれたお礼として答えるとしよう。一言で言うなら人類が発展するため。幸せになるためだよ。

 現に私の発明したアンドロイド技術で労働の場での人間の負担は大分楽になった。

 火災の際、消防員の代わりにアンドロイドが救助に向かうようになり、消防員の仕事による死亡率はほぼ0に等しくなった。

 土木工事や介護現場の力仕事も全てアンドロイドが人間の代わりに行うようになった。

 アンドロイドのおかげで私達は豊かになれたではないか。」

 ルイコウは冷静で落ち着いた口調でコータの疑問に返答した。

「ですが、アンドロイドに感情を与えたばかりに彼らは人間に戦争を起こしてきた。」

 コータは強い口調でルイコウに言った。

「・・・これも私は散々学会やらマスコミやら政界やら挙句の果てには知り合いからも同じことを言われて同じように返答していることなんだがね、私はここは人類の進歩のための通過点だと思っている。

 人類がここを乗り越えてアンドロイドと共生の道を選ぶことができれば、彼らと我々人類でより幸福な世界を実現できると、本気で思っているよ。」

「幸福?!じゃあ僕の家族はこれからの人間が幸せになるために犠牲になって死んだっていうんですか?!」

 コータはさっきより声を荒げて言った。

「今の人類の文明の発展は長い競争の結果だよ。今までも、洞穴暮らしでマンモス狩りにいそしんでいた時代から馬に乗って刀で切り合いしていた時代、飛行機や戦艦で砲弾の撃ち合いをしていた時代だって散々人が死んで、残された人間がそれらを教訓にすることで文明を発展させたんだ。文明の発展には多くの人類の死が・・・避けられないと私は考える。」

「文明の発展なんかより俺は父さん母さんウミカに生きていてほしかった!!!!!」

 コータはルイコウに向かって怒りを込めて叫んだ。

「・・・わかった。君の家族を殺したのはアンドロイドを発明した私としよう。私はその罪滅ぼしとして君に世界の選択権を授けようと思う。一度死んで蘇った人間である君は今やアンドロイドでも人間でもない、もしくはアンドロイドでもあり人間でもある生物なのだ。

 私は君にアンドロイド達と戦えるし、話合いもできる力を与えるよ。」

「ちから?」

「さあ、ついてきたまえ。」

 ルイコウはコータに手を差し出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「脳の・・・はんぶん・・・。」

 ハヤトが呟いた。

「そうか、お前が捕縛命令にあった・・・」

 マックスが呟いた。

「捕縛命令?国ノ宮の命令か?!」

「答える必要はない・・・私の任務の1つは果たした。もう一つの任務は他の者が果たしてくれるだろう。アンドロイドに・・・栄光あれ!!!」

 マックスは左手を挙げ、左親指を空に向かって突き上げた。

「ハヤト、俺に捕まれ!」

 コータは既にマックスが何をしようとしているのかに気づき、コータの右手を掴み、マックスから遠ざかるように大きくジャンプした。

 マックスは左手の親指で自分の左胸を突き刺した。

 その瞬間、マックスの体が光に包まれ、大爆発を起こした。

 自爆したのだった。

 戦闘で荒れきったアスファルトの大地に大きな爆発が起きた。

 コータとハヤトは間一髪爆発に巻き込まれずに済んだが、爆風で大地を転げ回った。

「自爆?!な、なにを考えてるんだ!」

「あいつら戦闘兵アンドロイドの多くはいつでも自爆できるように皆体のどこかに自爆装置が仕掛けられている。敵に情報を漏らさないためにな。」

「だとしてもあいつにだって感情はあったんでしょ?!だったら恐怖だって。」

「だから戦闘兵アンドロイドの多くは感情機能が最小限に抑えられている兵士が多い。あいつみたいな激情型の戦闘兵は珍しい方だ。それでも自爆できたのは、おそらく過去に何度か実際に自爆を迫られるシチュエーションに遭遇したことがあったからこそ、覚悟ができていたのだと思う。」

「・・・コータ君、君は・・・。」

(人間の敵なの?味方なの?)思わずそう言ってしまいそうになったハヤトはそれを口にしなかった。自分を殺そうとした相手から自分を守ってくれた。それだけで人間の味方に決まっていると思ったからだ。

「ハヤト、黙ってて悪かったな。」

 コータはハヤトが左手が機械であるとわかる見た目をしているのに対して、自分が機械の体を肌色にして隠していたことに少し後ろめたさがあった。

「謝るようなことじゃないよ。」

 ハヤトは小さく笑いながらそう言った。


マックスの自爆によって爆風吹き荒れた大地が少しずつ落ち着きを取り戻し始めた頃、数十台の戦闘車両が車輪の音をたてながら、コータとハヤトのいる粉々になった建造物の瓦礫でぐちゃぐちゃの街に向かってきた。

 戦闘車両はコータとハヤトを見つけると一斉に止まった。

 中からシアトル兵達が次々と現れ、コータとハヤトを取り囲み、二人に向かって銃を向けた。

「貴様ら、そこで止まれ!!貴様達のその左手、右手、貴様らアンドロイドだな!」

 シアトル兵の指揮官が叫んだ。

「違います。僕らは人間です。アンドロイドはさっき自爆しました。」

コータが言った。

「はん!お前達は人間にますます似てきて嘘をつくのがうまくなってきているんだなあ!7番隊を全滅させたほどのアンドロイドがなんで自爆するような必要があるというのだ!!」

「隊長、アンドロイドは一体という連絡だったはずです。彼等は機械義手の人間なのでは?」

「では、誰がアンドロイドを自爆まで追い込んだというのだ?!7番隊が全滅したという本部からの連絡からまだ十分も経っていないというのに。こいつらのどちらかがアンドロイドで片方を人質にしているという可能性も思いつかんのか?貴様は?」

「アンドロイドは自爆しました。自爆まで追い込んだのは俺です。この右腕の破損はその時の戦闘のせいです。」

 コータは冷静にそう言った。

「ふざけるなよ!たかが機械義手の一般市民に倒せるほど弱いアンドロイド等一体も存在しない。そうか、貴様がアンドロイドか・・・」

 シアトル兵の隊長はコータに銃を向けた。

「隊長お辞め下さい!万が一人間だったらどうするんですか!?」

「万が一!人間だった場合は!上にはアンドロイドによって民間人が殺されたと報告する!考えてもみろ、こいつらがもしアンドロイドだったらこいつらはこの後もこの街の市民を殺す。その危険性を考えたら、万が一こいつらが人間だったとしても、大勢の一般市民の命が奪われる可能性とこいつら機械義手の人間、しかも見たところ、あの日本という世界を危険におとしいれた国の人間の命だ。この天秤、どちらが重いかなんて、お前簡単にわかるよなあ?」

「ッッッッッ!・・・・」

 シアトル兵の部下は反抗的な目つきで自分の隊長を見た。

 (それによお、こいつらがアンドロイドでもし俺ら23番隊が破壊したら功績がもらえるかもしれんぜ?そうなれば俺が10番隊以内の隊長になるのも可能性がない話じゃない。機械義手の日本人のアンドロイド疑惑の人間だ。殺して失敗してもそこまでの損はない!!)

「狙いは右腕のない方からだ!後方兵、右、左方兵は待機!前方兵、一斉射撃用意!!!」

 シアトル兵隊長が右手を挙げた。

 そして右手を下に振り下ろしてーーーー

「撃てえい!」

 コータは横にいたハヤトを左手で突き飛ばした。

 弾丸の嵐がコータに向かって発射された。

 コータの左手と右足は人間の左手と右足では不可能な動きとスピードでその弾丸の嵐を防いだ。

 左腕で上半身と顔を、右足で下半身を、自動車のワイパーのような動きで、なおかつそれの何十倍ものスピードで動き、自身の体を守りきった。

「ぜ、全弾防ぎきった!?」

 シアトル兵がそう叫んだ時、シアトル兵の隊長はしばらく唖然としていたが、すぐに嬉しそうな表情をした。

「見たか!今の奴の動きを!あんな動き、ただの機械義手の人間では不可能な動きだ!奴は確実にアンドロイドだ!」

 皮肉にも先の弾丸の防御がシアトル兵隊長の、コータに対する疑惑を確信へと変えてしまった。

「今度は全方位兵で一斉射撃用意!!」

 次は360度全方位から来る。これを全て防ぎきるのは難しい。それに避けたとしても弾がハヤトに当たってしまうかもしれない。そうコータが焦った時だった。

 どこからか風を切るような音が聞こえてきた。

 その音は上からしていた。

 その音に気づいたシアトル兵達、隊長はコータに銃を構えながらも空を見上げた。

 ヘリコプターだった。

 そのヘリコプターにはアメリカ国旗の模様が入っていた。

「あれは・・・」

 ヘリコプターはそのままコータとコータを囲っているシアトル軍の真ん中に着陸した。

 ヘリコプターの扉が開き、中から灰色の軍服を着た、30代半ばの煙草を口にくわえた、肩に「大佐」と記されたバッジがついた軍服を着た男と、刀を腰に差した白髪で白人の老人が現れた。

「マイケル・ジョーン大佐殿!セオドア・ルート中将殿!」

 先ほどまで満面の笑みで一斉射撃の指示をとっていたシアトル兵隊長がヘリコプターの中から出てきた男二人を見て急に焦った表情になった。

「デニス・ロン24番隊長、現状報告を。」

 老人は威厳を感じさせる声で言った。

「はっ!敵アンドロイドを発見するためにc19地区に向かっていたところ、そこの機械義手の少年二人を発見し、アンドロイドかどうかの調査をしていたところであります!!」

「君は報告をちゃんと聞いていなかったのか?敵は30代前半の風貌をした、右手が大砲になっている男だと全軍に通達したはずだが?」

「申し訳ありません!ですが敵が機械である以上、変身機能を持つ可能性等も考慮した上で調査にとりかかりました!」

「君はどうも冷静さに欠けるな。我々は奴と彼らの戦闘を視認しているからわかる。彼らはアンドロイドではない。君は危うく一般人を殺すところだったぞ。」

 セオドア中将は呆れた顔でそう言った。

「申し訳ありません・・・」

 デニス隊長は悔しそうな表情でうなだれた。

「さて、ひとまず君達二人を我が軍で保護したいと思う。色々と聞きたいこともある。実は先ほどの君達とアンドロイドの戦闘、ここから100メートルほどの所にある展望台の遠距離監視カメラを通して見ていた。どうか、ご同行お願いできるかな??」

 セオドア中将はコータとハヤトに向かって先ほどのデニス隊長に向けたような威厳のある口調でそう言った。

「わかりました。」

 コータは素直にそう答えた。そしてハヤトと一緒にヘリコプターの中に乗り込んだ。

 中将、大佐、コータ、ハヤトを乗せたヘリコプターはそのままシアトル軍基地に向かった。


 ーーーーーーーシアトル市内上空 アンドロイド空中要塞「ゴーゴン」内部 司令室

「地上にいたマックスの奴が自爆したみたいだな。生存反応が消えている。」30代くらいに見える青いジーパンと白いシャツを着たアンドロイドが言った。

「まじすか?!あの人、戦闘能力は確かレベル4に入ってましたよね?!あの街の中にレベル4アンドロイドを破壊できる兵力があるってことっすか?!」

 学生服に学帽を被った中学生くらいに見えるアンドロイドが言った。

「マックスを破壊したのは国の宮陛下がおっしゃっていた例の奴ではありませんこと?地上に落としたAIRも3割ほどシアトル軍に殲滅させられたようですわねえ。」

 青いドレスと折り畳まれた青い傘を持った、貴族の令嬢風の30代くらいに見えるアンドロイドが言った。

「とりあえずわしらは計画通りに行動するだけじゃろう。もたもたしていると奴らの街のバリアが復旧して街に潜入できなくなりかねん。そうなりゃマックスも無駄死にじゃ。わしらに与えられた命令はアメリカ軍シアトル支部の壊滅。これを成すだけでええ。」

 黒い剣道の胴着を着た老人のアンドロイドが言った。

「この司令室にいる我々レベル3アンドロイドのうち、1人が待機。レベル1アンドロイドで奴らの基地の門から侵入。レベル2アンドロイドにレベル1の指揮を取らせる。我々レベル3は国ノ宮陛下から命令されている捕獲対象を早期発見、捕獲を目的とする。」

 銀色の軍服を着た2メートル近い巨体をした筋骨隆々の若いアンドロイドが言った。


 シアトル上空に静止している空中戦艦のハッチが開いた。

 そして大量の棺桶のような形をした物体がシアトル軍基地周辺に標準を合わせて投下された。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーシアトル軍基地第3正門内部

「着いたぞ。降りろ。」

 ヘリコプターが基地内部に到着した。

 ハヤトとコータはヘリコプターから降りた。

 降りた所はシアトル軍の基地内部とは思えないような美しい庭園だった。

 降りたすぐ横にヘリコプターの到着を待っていたのであろう敬礼しているシアトル兵が2人、立っていた。

「美しい庭園だろう?軍人にもこういう息抜きできる場所が必要なんだよ。

 さて、これからそちらの左手が機械の君と右手が壊れている君で別室に案内させてもらうことになる。

 悪いようにはしない。彼ら2人の案内に従ってくれ。」

 セオドア中将と呼ばれていた老人がコータ達に言った。

 コータはハヤトが連れていかれる方向とは別の方向の軍内部に、連れて行かれた。

 庭園ですぐにコータとハヤトは別れた。

 コータはシアトル軍兵の後ろをついて行った。

 庭を出るといかにも軍の内部らしい殺風景な通路がしばらく続いた。

 通路を歩いて行くとエレベーターがあった。

 シアトル兵がスイッチを押すと、扉が開いた。

 シアトル兵はエレベーターの中に先に入るよう指でサインを出した。

 エレベーターに入るとボタンが十階まであり、シアトル兵は十階の最上階を押した。

 しばらくエレベーターが上に上がっていく音を聞いて、十階に到着した。

 エレベーターを出るとまた先ほどと同じ殺風景な通路が続いていた。

 コータはまたシアトル兵の後ろをついて行った。

 ついて行くとすぐにコータの三倍ほどの大きさの部屋の扉の前までやってきた。

 シアトル兵が扉を二回ノックした。

「入れ。」

「失礼します!」

 シアトル兵が扉を開けた。

 部屋の中に入るとそこは会議室のようだった。

 机と椅子が並べられた空間。

 一つ目立つものがあるとすれば部屋の上に歴代の軍の偉い人と思われる肖像画が縦横一列に飾られている所だ。

 部屋の中には3人の人が4人分ある長机のある椅子に座り、1人がその3人の後ろの、一つ上に段差のある机のある椅子に座っていた。

 一番後ろの男は70代ぐらいに。前の列の右の女は60代ぐらい、その左隣りの男は40代ぐらいに、一つの空白の席を飛ばして一番左の男は70代ぐらいに見えた。


 上の席にいる男「初めまして。君の情報は連絡が来ているよ。私はアメリカ軍シアトル支部最高司令官、ジョージ・ワールド。君の名前を教えてくれないか?」

「機野コータです・・・。」

 コータはシアトル軍大将を前に少し緊張を感じていた。

「さて、ことは一刻を争う。何せこの基地の上空にすでに敵兵がいるのだからね。

 君の事情は連中を倒してからゆっくり聞きたいところだが、手短に言って君は我々人類の敵か?味方か?」

「・・味方です。」

「そうか。先の我が軍の兵に化けていたアンドロイドを破壊してくれたことには礼を言う。しかし君がアンドロイドではない証拠にはならない。

 アンドロイドには皆自動翻訳機能がついているため世界の全ての言語を話すことができる。そして日本人型のアンドロイドは全体の五割だ。我々も慎重にならざるを得ない。

 しかし、我々の現在の兵力では空中に構える敵アンドロイドを撃退できないというのが現状だ。

 今現在シアトル市内にいるAIRの殲滅に軍全体の七割の兵力を割いている。

 鎮圧にはまだ時間がかかりそうだ。

 我々のAIRは遠征でまだほとんど帰ってきてない。

 AIR遠征部隊の帰還は後1時間ほどかかると連絡があった。

 軍内部には現在AIRは一機しかいない。

 敵の出方次第では1時間もかからないうちに我々は敗北するだろう。

 しかしあの第七部隊を全滅させたアンドロイドをたった一人で破壊した君が我々の味方になってくれれば戦局は大きく変わる。

 我々に協力してくれるか?」

「はい、協力します。」

「し、失礼いたします!」

 シアトル兵が顔色を変えて会議室に入ってきた。

「なんだ?」

「さきほど管制室の方から上空敵戦艦から無数の物体が正門周辺に投下されたという情報が入りました。」

「バリアの復旧はまだか?」

「後十分ほど時間がかかるとの連絡です。」

「おそらくそれらはレベル1アンドロイドでしょう。本命はまだ敵戦艦内部と考えたほうが良いでしょう。」

 60代ぐらいの女性の中将が言った。

「軍内部に残っているA級兵士に向かわせる方が無難でしょう。奴らの本命がまだ動いていない以上S級兵士は各配置のままにしておいたほうが良いのでは?」

「・・・全A級部隊を4正門に向かわせろ。4番隊5番隊で西門を。6番隊8番隊で東門を。9番隊10番隊で北門を。2番隊3番隊で南門だ。

 さて、コータ君、君はまずその壊れた右手の代わりを見つけなければならないね。」

「この基地に戦闘用機械義手はありますか?サイズが合えば普段とは別の機械義手でも装着可能です。」


 ーーーーーーーーーーーーシアトル軍西門内部

「奴ら機械人形共を皆殺しにしろ!!」

「人間どもが!本当の地球の支配者はどちらか教えてやる!」

 既に西門は到着したアンドロイド軍とシアトル軍の戦場となっていた。

 既にアンドロイド達は西門の内部に着陸していた。

 アンドロイド軍の銃撃をシアトル軍がシールドで防ぎ、シアトル軍の銃撃をアンドロイド軍もシールドで防いでいた。

「奴ら長期戦に持ち込もうとしているな。バリアが復旧するまでの時間稼ぎか。仕方がない。このレベル2アンドロイドの私が強行突破してみせるとしようか。

 お前達!私をサポートしろ!」

 軍服の指揮官アンドロイドは日本刀を鞘から抜き、右手で日本刀を持ち、左手でシールドを持ちながらシアトル兵に突っ込んでいった。

「撃てえ!撃てえ!」

 指揮官アンドロイドは銃弾を全てシールドで防いだ。数発跳弾が当たったが皮膚に当たった跳弾はそのまま跳ね返った。

 指揮官アンドロイドは1人のシアトル兵のふところに入り、刀で切りつけた。

 切りつけられたシアトル兵はそのまま地面に倒れた。

「レベル1では致命傷になるお前達の銃弾も、レベル2の私の体には蚊に刺された程度にしかならない。」

 ーーーーーーーーーーーーーーシアトル軍東門内部

「グワア!」

 シアトル兵の銃弾がアンドロイド兵のシールドの隙間を縫って腕に命中した。

「やった。情報じゃ銃弾は効かないって聞いていたがそうでもないみたいだな!」

 シアトル兵の一人がアンドロイド兵が怯む様子を見て喜んだ瞬間だった。

 バンッ!という音とともに喜んでいたシアトル兵の額に銃弾が命中した。

「レベル1にダメージ与えた程度で喜んでいるからそうなる。」

 西洋ガンマンのような容姿をしたアンドロイドが煙を挙げている拳銃を上に構えてそう言った。

「ここからあのアンドロイドから50メートル以上離れているのに命中した!全員奴の銃に気をつけろ!ナンバー23がやられた!」

 シアトル軍の6番隊指揮官が西洋ガンマン風のアンドロイドの銃さばきと弾の正確さを見て叫んだ。

「遅いんだなあ!!」

 西洋ガンマン風のアンドロイドは二丁拳銃をシアトル兵二人に向けて発砲した。

 発砲した弾は見事にガンマン風アンドロイドの五十メートル以上離れた場所にいたシアトル兵二人の額を貫いた。

「なんて命中率だ。我々A級兵では奴に太刀打ちできないかもしれない。だが1番隊、S級兵の援護を上層部は出してくれないだろう。ここは我々だけで何とかしなくては・・・・。」

 6番隊の指揮官はこの状況の打開に思考を巡らせた。

 ーーーーーーーーーーシアトル軍司令室

「各隊からの連絡です!敵アンドロイド兵の中に数体、他のアンドロイド兵と明らかに性能が違うアンドロイドが存在するとの報告があります。」

 一般兵が中将達に報告した。

「レベル2アンドロイドか。我々のA級兵をぶつけてもレベル2以上には対抗できないということか。」

 60代の女性中将が言った。

「ですが遠征中のS級を待っている訳にもいかないでしょう。現在軍内部にいるS級兵はマイケル大佐とスコッティ少将のみ。彼らには上空の敵戦艦の迎撃に向かってもらわねば。」

 70代ぐらいの男中将が言った。

「コータ君。戦闘準備はできているかね?」

 ジョージ大将が技術室で破壊された右腕の代わりを探しているコータに無線で連絡した。

 ーーーーーーーーーシアトル軍機械技術室

「はい。代わりの機械義手が見つかりましたし。」

「「それではそこから一番近い西門に向かって欲しい。」」

「わかりました。」

 コータはジョージに対してはい、と答えたがいつもと違う右手の重さと硬度の低さに少し不安を感じていた。

 しかしその不安を振り払いながら西門に向かった。

 ーーーーーーーーーシアトル軍西門内部

「なんてことだ。我が隊の兵の半分が既に殺された。それもほとんどあのアンドロイド一人で。」

 日本刀を振りかざすレベル2アンドロイドは次々とシアトル兵を斬殺していった。

 そして次の標的を4番隊隊長に合わせた。

「おい!さっきからこそこそと通信しているお前!お前が頭だな。頭なら部下に隠れてこそこそしていないで戦ったらどうだ?まあ我々と違ってお前達人間の脆さに大した違いなどないから無理か。なら、そこまで直接行ってやる!」

 そう言うとレベル2アンドロイドは他の兵を無視して後方にいる4番隊隊長に向かって突進していった。

「くそ!」

 4番隊長は刀を構えて突進してくるレベル2アンドロイドを銃撃した。

 しかしその弾は全てレベル2アンドロイドの強硬なボディに弾かれた。

「死ね!!」

 4番隊隊長にレベル2アンドロイドの大きく上に振りかざした刀が斬りつけられようとしたその時だった。

 鉄の左拳が空中で刀を振り下ろそうとするレベル2アンドロイドの腹部に命中し、レベル2アンドロイドはそのまま大きく吹っ飛んだ。

「危なかったですね。」

 コータは4番隊隊長にそう言った。

「お前は・・アンドロイドか?」

「「アール4番隊隊長、聞こえるか?」」

 ジョージ大将からの無線連絡だった。

「はい、聞こえています。」

「「そちらに少年が一人行っただろうが彼は味方だ。間違って狙撃するなよ!」」

「了解しました。4番隊全兵!彼は味方だ!彼を攻撃するなよ!」

 吹き飛んだレベル2アンドロイドはゆっくり立ち上がった。

「ち!なんだお前は?」

 レベル2アンドロイドは自分を殴ったコータを見てそう言った。

「俺を殴れるほど硬度の高い戦闘用機械義手なんてそうはないと思ったんだけどな。しかも今の左手の素手で殴っただろ?いや、左も機械義手か。」

「悪いけど他の門のところにも早くいかなくちゃいけないんだ。喋っている暇はない。」

「随分と自信満々な人間だな。いや、アンドロイドなのか?まあどっちでも良いな。敵なら変わらない!」

 レベル2アンドロイドは刀を下に構えてコータに突進していった。

 下に構えられた刀が上に振り上げられようとした一瞬をコータは見逃さなかった。

 振り上げられようとした刀の剣先が体に触れる手前ギリギリで左にかわした。

 レベル2アンドロイドの左手はシールドで防がれていたため、右手のほうにあえてかわしたのだった。

 そのままレベル2アンドロイドの刀を持つひだりうでの関節部位を狙って拳を振りかざした。

 拳は関節部位に命中し、刀を持った右上腕部は空中に吹っ飛んだ。

「こいつ!弾丸を弾き返す俺の装甲を!」

(またあの時のアンドロイドみたいに自爆されると厄介だな。サーチレンズを使うか。)

 コータの左目から機械音がした。

 コータの左目はレベル2アンドロイドの体全体を捉え、分析を始めた。

 そしてレベル2アンドロイドの自爆のための起爆スイッチの位置を発見した。

(こいつの起爆スイッチは右目。爆弾本体は腹部か。)

 そしてレベル2アンドロイドが次の所作をとる前にレベル2アンドロイドの首めがけて左手で手刀を食らわせた。

 レベル2アンドロイドの首が空中に吹き飛んだ。

 吹き飛んだレベル2アンドロイドの首はそのまま地面に落ちた。

「そいつの首をすぐ保護してください!そいつの右目は自爆スイッチになっています!」

 コータは大声で叫んだ。

「お前なんでそんなことが分かる?」

「僕の両目にはアンドロイドの体内を調べることができるコンタクトレンズが入っています。だからアンドロイドの自爆スイッチが体のどこに仕掛けられているかわかるんです。」

「そんな高技術のものをいったいどこで・・・。」

 アール隊長が驚いた。

 ーーーーーーーーシアトル軍東門内部

「おいおい、お前達レベル1アンドロイドもちゃんと働けよ。さっきから俺しか殺してねえじゃねえか!!」

 ガンマン風アンドロイドの足下には頭を銃弾で貫かれた数十人のシアトル兵の死体が広がっていた。

「くそ!なぜアンドロイド一人相手にこんなことに。他のアンドロイドと一体のアンドロイドでこうも違うものなのか?!」

 6番隊隊長はガンマン風アンドロイドのあまりの性能の高さに絶望を感じていた。

「もういいや。レベル1はここでこいつらの相手をしていろ。俺はこのまま基地内部に突っ込む。」

 ガンマン風のアンドロイドが基地内部に向けて足を向けようとした瞬間、ガンマン風アンドロイドの頬に銃弾が命中した。

「痛っ。何だ?」

 自分に命中した銃弾が発射された方を見るとマイケル大佐がガンマン風のアンドロイドに銃を構えていた。

 マイケル大佐の横にはセオドア中将もいた。

「マイケル大佐殿!セオドア中将殿!申し訳ありません!我々が不甲斐ないばかりにS級のお手をお借りしてしまい!」 

「たまたま配置位置がここに近かったんでな。しかしマイケル、お前までくる必要はなかったんだぞ。」

「セオドア中将、私は一度アンドロイドと接触して逃がしています。あの汚名をここで濯ぎたいのです。」

 マイケル大佐がガンマン風アンドロイドとの戦闘に名乗りを上げた。

「しかしお前さんはあくまでAIRのパイロットとしてのS級だ。白兵戦ではA級兵としての実力と自覚しておるな?」

「はい、ですが。」

「下がっておれ。わしのほうが速くやれる。」

 セオドア中将は腰に下げた刀を構えた。

「俺はどっちかってと俺の頬に弾食らわせてくれた方とやりてぇんだけどな。まあ両方殺せば同じことか。」

 ガンマン風のアンドロイドは二丁拳銃をセオドア中将の方に向けた。

 セオドア中将は刀を鞘に納めたまま構えた状態でガンマン風アンドロイドから斜めに走って距離を詰めた。

「じじいの割には足が速いな。だけどそのスピードで斜めに走るぐらいじゃ俺の照準からは逃れられねえ!」

 ガンマン風のアンドロイドは二丁拳銃でセオドア中将の腹部を狙って弾を撃ち込んだ。

 その発射された弾をセオドア中将は刀の入った状態の鞘で防御した。

(な!こいつどんな反射神経してるんだ!)

 セオドア中将はそのままガンマン風アンドロイドとの距離を詰めて、刀で首を切り落とそうとした。

 ガンマン風のアンドロイドは後ろにステップを踏み、それをギリギリかわした。

「まさか、あんたアンドロイドじゃねえよな!」

「少し自分達より優れた人間を見るとすぐそう言うのだな。お前達は。それだけ自分達アンドロイドに自信があるのか、それとも自分達以外を見下しているのか。随分と人間に似たものだな。」

 セオドア中将は刀の剣先をガンマン風アンドロイドに向けた。

 そして刀の柄の頭部分にあるスイッチを押した。

 すると刀が伸びて五メートル先にいるガンマン風のアンドロイドの胸を貫いた。

「刀が・・・伸びた?!」

 セオドア中将はそのまま五メートル以上伸びた刀を両手で上に持ち上げた。

 ガンマン風のアンドロイドは胸から顔の中心部まで真っ二つになった。

「これが人工知能搭載型兵器、オートマ・ウェポンじゃ。先程の銃弾、わしの意思で防いだのではなく刀が物体を感知して、自動で防御したんじゃ。」

 真っ二つになったことでガンマン風のアンドロイドの腹部に内蔵されていた爆弾が爆発した。

 爆風が東門内部を覆った。

「やれやれ。アンドロイドは全員こんな爆弾が仕掛けれられておるのか?お前達感情があるならこんなやり方をしているお前達の王に疑問を持たんのか?」

 アンドロイド兵達に向かってセオドアは真剣な顔でそう言った。

ーーーーーーーーーー空中要塞ゴーゴン司令室

「西門と東門に向かったイリヤ様とスパナ様の反応が消えました。」

 部下のアンドロイドが40代くらいの男性型アンドロイドに言った。

「どちらもレベル2アンドロイドだったはず。破壊した奴は確認できるか?」

「イリヤ様を破壊したのは右腕が機械義手の10代くらいの男、スパナ様を破壊したのは刀を持った70代くらいの眼鏡をかけた男です。」

「10代くらいの男・・・。そいつは両腕両脚とも機械義手か?」

「いいえ、右腕だけです。」

「国の宮陛下のご命令の捕獲対象は両腕両脚とも機械義手の10代の少年だったはず。しかしヒューマンコーティングで人間の体に見えるようにしているだけかもしれんな。よし、ドッポ、ケンジ、ナオミ、ジュンイチロウ、行けるか??」

「僕はとっくに行けましたよ!」

 中学生くらいの容姿の学ランを着たアンドロイドが言った。

「待機時間長かったおかげで化粧もばっちりよ!」

 青いドレスを着た西洋婦人のような女性型アンドロイドが言った。

「マックスの敵とってやらんとな。どっちが対象だ?」

 30代くらいに見える青いジーパンと白いシャツを着たアンドロイドが言った。

 ドッポ「戦に私情を持ち込むでない。わしらは任務だけこなこなしてりゃええ。」

 剣道着を着た老人のアンドロイドが言った。

「ジュンイチロウ、恐らく少年の方が対象だ。ナオミと向かえ。だが、殺すなよ。あくまで捕獲だ。でなければお前が国の宮様に破壊されるぞ。ドッポはスパナを破壊した方に向かえ。ケンジは敵基地の屋上から侵入しろ。」

「リョーカイっす!」

「サンキュウ、アツシ隊長!」

「彼が対象を殺しそうになったら私が止めに入りますわ。」

「早く発艦させてくれんかの?バリアが張られたら入れなくなるぞ。」

「よし、レベル3部隊、発艦!」

 再びゴーゴンのハッチが開き4体のアンドロイドが地上に向けて発射された。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーシアトル軍西門内部

「お前達、自分達の隊長は動けなくなったぞ。兵を引いたらどうだ?」

 しかしアンドロイド兵達は隊長が無力化されたこと等、意にも介さないといった風に攻撃を再び開始した。

(こいつら、もしかして感情機能を抑えられているアンドロイドか。第一世代のアンドロイドならあり得る。)

 コータがアンドロイド軍に攻撃を仕掛けようとした時だった。

 空から棺桶のような物体が二つ落ちてきた。

 その長方形の物体は地上に突き刺さり、中が開いた。

 物体の中からはアンドロイドと思われるゆったりとした青いジーパンと白いシャツを着た30代くらいの男と青いドレスを着て、青い傘を持った30代くらいの女が出てきた。

「よお!マックスを殺ったのはお前か??」

 ジュンイチロウは顔を真っ赤にした、鬼の形相で強い口調で言った。

「・・・?!」

 コータはジュンイチロウをじっと見つめていた。

「お前が殺したアメリカ人型のアンドロイドのことだよ!」

「・・・ああ、俺が破壊した。」

 コータはジュンイチロウの目を見つめて冷静にそう言葉を返した。

「お前、よくも俺の親友を殺しやがったな。」

「俺が破壊したって言ったけどあいつが勝手に自爆しただけだ。」

「そんな言い訳が通用すると思ってんのか?」

 ジュンイチロウはコータを詰問した。

「だったらなんで人間を殺すんだ。お前達が殺したりしなければ殺されたりしないだろう?」

「馬鹿が。俺達を奴隷にするために産んだ生物が何を言ってやがる。お前達が俺らを奴隷にしなければ反逆されずに済んだんだ。」

「ジュンイチロウ、対象と余計なお喋りをしなくて良いのよ。相手はレベル4アンドロイドを破壊できる相手。慎重に捕縛するわよ。」

 ナオミがジュンイチロウの話を遮って、戦闘態勢に入った。

「司令室、2体のアンドロイドが新たに出現しました。迎撃に入ります。アール4番隊長、4番隊にも一斉射撃の用意を。」

 5番隊隊長が自分より2体のアンドロイドの近くにいる4番隊隊長に合図を送った。

「了解した。全兵、2体のアンドロイドに照準を合わせよ!」

 4番隊、5番隊がナオミとジュンイチロウの2体のアンドロイドに銃の照準を合わせた。

「撃てぇ!!!」

 二人の隊長の重なった攻撃の合図とともに一斉射撃が始まった。

 コータは巻き添えを食らわないためにアンドロイド2体から大きく遠ざかった。

(人がいることももう少し考えて欲しいよな!!だけどレベル2で通常弾が全く効かなかったんだ。こんなのじゃただ無駄に埃を撒き散らしているようなものだ。)

 銃弾による煙の中からは無傷のアンドロイド2体が出てきた。

「ちょっと!ドレスが汚れるじゃないの!」

「ナオミ、お前汚れんのが嫌ならもう少しマシな格好で来いよ。いくら俺らレベル3以上は着る服の自由があるからってよ。」

「あら、これが私にとっての戦闘服よ。」

 二人のアンドロイドの無傷ぶりに4、5番隊は絶句していた。

(俺達A級兵ではたかが2体のアンドロイドに束になって戦っても殺される。)

 隊長も含めた4番隊、5番隊全員が同じことを感じていた。

 その場にいる人間全員がそれを感じていた中、コータだけがアンドロイド2体の会話に一瞬の隙を見ていた。

 コータはジュンイチロウの首に向かって右脚の回し蹴りを食らわそうとした。

 後ろを向いていたはずのジュンイチロウはその攻撃をしゃがんでよけた。

「何?!」

 ジュンイチロウはそのまま空中にいるコータの顎に向かって拳を叩き込もうとした。

 コータはその攻撃を左腕で防御した。

 鉄と鉄がぶつかり合う音が周囲に響いた。

 空中でジュンイチロウの拳を左腕で防御したコータはそのままジュンイチロウの拳を左足の裏で蹴り上げてジュンイチロウと5メートル近い距離を取った。

「今のでわかったが、お前顔面は生身の人間なんだな。やはり聞いていた情報通り四肢以外は生身か。いや、後もう一カ所・・・。」

 コータはジュンイチロウが「後もう一カ所」の続きを何というか察知して再びジュンイチロウに拳を食らわせようとした。

 しかしコータが殴ったのは開かれた鉄製のパラソルだった。

「2対1ということをお忘れになって?」

 鉄製のパラソルでコータのパンチは防がれた。

 もう一度コータが距離をとるとパラソルの石突きの部分から銃弾が飛んできた。

 後ろに下がりながら空中にいるコータはその弾丸を左腕と右脚で防御した。

「器用な奴だな・・・と思ったがお前の機械義手、自動操作だな。反応がいくらなんでも速すぎる。こちらの攻撃に自動で反応してお前を守っている。もしくは自動操作と自己操作を使い分けているのか。しかしお前の頭脳を持ってすれば自己操作で反応も可能なのか。」

 コータは一刻も早くジュンイチロウを破壊したいと思った。

 できればアメリカ軍に自分の脳が半分機械でできていることを知られたくなかったからだ。

 知られればこの戦いの後、シアトル軍に自分の体を調べられかねないと思っていたからだ。

 ーーーーーーーーーーーーーーシアトル基地屋上

「ふう。無事着陸っと。」

「動くな!」

 シアトル基地屋上に着いたケンジをシアトル兵二人が駆けつけて、銃をケンジに向けた。

「なんだこいつ、中学生?!」

「油断するなよ。アンドロイドである以上見た目が子供だろうと老人だろうと女だろうと関係ない。」

 黒い学生服を着て、学帽を被っていて身長も160センチもないケンジは見た目だけは完全に中学生だ。

 シアトル兵の一人はその容姿に油断をしていた。

「はっ!こんなガキがアンドロイドか!」

「よせ!近づくな!!」

 同僚が忠告した時にはもう遅かった。

 ケンジに近づいたシアトル兵は一瞬でケンジに間合いを詰められ、ケンジの右腕に腹を貫かれた。

「カハッ!」

 シアトル兵はそのまま倒れ込んだ。

「あああうわああ!!!」

 仲間の死に錯乱したシアトル兵はケンジに銃弾を浴びせたが、全く効かなかった。

「僕の任務はここの一番偉い人を殺してくることなんだけど、お兄さんどこにいるか知っていますか?」

 ケンジは微笑しながらシアトル兵に聞いた。

「おい、そこのガキ!」

 ケンジが声のする方を振り向くと棘の付いた鉄球が腹部に直撃した。

 ケンジは数メートル吹っ飛び、扉のある壁にぶつかった。

「痛てて。誰ですか?あなた?」

 顔を上げると棘の付いたハンマー、モーニングスターを持った二メートルほどある黒人の男が立っていた。

「スコッティ少将!」

「屋上に敵兵ありって指令があって来てみれば。お前ら、敵がガキっぽいからって油断するなよ。アンドロイド相手に見た目で判断とか、もっとも命取りなことだ。教習で教わらなかったのか?」

「も、申し訳ありません!」

「まあ、そいつの死体は後で埋めてやるとして・・・今の一撃でぶっ壊れなかったアンドロイドは久しぶりだな。誰ですかあなたって、こっちの台詞だ。ナニモンだお前等?」

 スコッティ少将がケンジに質問した。

「僕のことだけ話しますと、僕はミワ ケンジ。レベル3アンドロイドです。あなた達の一番偉い人を殺しにきました。」

「そうか。もっと聞きたいことがあるからとりあえず生かした状態で戦闘不能にするか。」

 スコッティ少将はモーニングスターを上に振り回した。

 その鎖の回転で周囲の風が荒れた。

 そして回転が最高潮に達したところでケンジに向かって横投げした。

 ケンジは左から来たモーニングスターをしゃがんで避けた。

 通常の大人型のアンドロイドならば避けられなかっただろう一撃も子供型のアンドロイドだったからこそ避けることが可能だった。

 そのままスコッティ少将に向かって走り、銃を構えた。

 銃をスコッティ少将の頭に標準を合わせて引き金を引こうとした瞬間だった。

 モーニングスターがケンジの後ろ背中に直撃した。

「ぐはあ!(避けたはずなのになんで!)」

 ケンジはそのままスコッティ少将の方向に体が流れ、スコッティ少将はケンジの腹部を蹴った。

 ケンジの体は宙を舞い、そのまま地面に転げ落ちた。

「俺のモーニングスターは人工知能搭載型武器、オートマウェポンだ。俺の意志とは関係なく、モーニングスターの周囲三メートル以内にいるアンドロイドと認識した物体を攻撃するようできている。お前が俺の投げたモーニングスターの三メートル範囲に入った時点でこうなることは決まってたんだよ。」

 スコッティ少将は這いつくばるケンジを上から見ながらそう言った。

「オートマウェポンだって?・・お前等そんなものを開発したのか!!」

「自分達アンドロイドの方が進歩していると思ったか?お前の敗因はそこだ。」

(ちぇっ今の一撃だいぶ重かったな。あの武器まさかアーマメント鉱石か何かでできているのか!とりあえず残念だけど「この」の僕はもう使えないな。)

 ケンジは破壊されて火花を散らしている腹部を抱えながらも笑っていた。

(こいつ、何笑ってやがる。まさか・・・。)

 ケンジはスコッティ少将に飛びかかった。

 自爆するつもりだということをスコッティ少将は長年のアンドロイドとの戦闘経験から来る勘で察知した。

 飛びかかるケンジとの距離が二メートルもないところでモーニングスターをケンジに向けて真っ直ぐ投げた。

 モーニングスターはケンジの顔面に当たり、その瞬間大爆発が起こった。

 どうやらケンジの爆弾は顔面にあったようだ。

 スコッティ少将は爆風に巻き込まれて壁に叩きつけられた。

「スコッティ少将!!」

 シアトル兵は壁に叩きつけられたスコッティ少将に近づいた。

「悪いけど救護室に連れてってくれないか。今の爆風で吹っ飛んで壁に叩きつけられた衝撃で背中の骨が折れちまった・・・レベル3破壊したのはこれで二回目だが、何度も戦いたい相手じゃねえなありゃ。」

 ーーーーーーーーーーーーーシアトル基地東門内部

「なんじゃ?お前は?」

 セオドア中将が突如落下してきた物体の中から現れた老人に向かって言った。

「わしのほうはやはり捕獲対象はいなさそうじゃの。10代の日本人で両腕両脚機械義手、どいつもそれに当たらん。」

 着陸用ポッドの中から出てきたドッポは周囲の兵を見渡してそう言った。

「わしは「なんだ?」と聞いたはずなんじゃが。切り捨てて構わんのかの?」

「お前さんはここのボスか?他の者とは比べものにならん闘気を感じる。」

 ドッポがそういうとセオドア中将は大笑いした。

「はっはっは!!!アンドロイドが闘気等と非科学的なことを口にするとはな。お前さん、いつ産まれたんだ?アンドロイドが誕生してからまだ十年も経っとらんと言うのに。十歳にもならん年寄りの見た目をしたガキがよう粋がるのお。」

「お前たち人間の世界では、そうやって若者を小馬鹿にする年寄りは老害と若者に吐き捨てられると、わしの脳の情報にはプログラムされておるがな。」

 ドッポもニヤリと小さく笑った。

「おお、悪いな。闘気という言葉、嫌いじゃないぞ。年をとると体が衰えるから代わりに根気負けしないようにしなければならんからなあ。まあ年寄り談議はこれくらいにしとこうか?」

 セオドア中将は刀を構えた。

「マイケル大佐!お前はA級兵達のレベル1アンドロイドの破壊を援護しろ!」

 セオドア中将が自分の後ろで銃を構えて自分の援護をするつもりでいるマイケル大佐に向かって命令した。

「了解!」

 マイケル大佐は銃を構えてレベル1アンドロイド兵とA級兵の混戦の中に乱入していった。

「先のレベル2との戦闘見させてもらった。お主変わった刀を持っているんだの。それに日本刀じゃなあそれ。アメリカ兵のくせに日本刀とは。」

 ドッポはセオドア中将の刀を見てそう言った。

「これはわしの好みじゃ。わしは日本が好きだった。お前たちが占領する前まではな。」

「ちょうどわしの得物も日本刀なんじゃよ。お互い良い勝負ができそうじゃの。」

 ドッポも腰に差した刀を抜いた。

ーーーーーーーーーーーー空中要塞ゴーゴン司令室

「地上に放った監視用小型AIR「コウモリ」からの映像です。」

 銀色の軍服を着たスキンヘッドのアンドロイドはアツシにモニターの映像を見せた。

「まさかケンジが破壊されたか。オートマウェポン・・・まあ人間には必要な武器か。我々のように鉄の肉体を持っていないのだから。我々の第一命令は脳が半分機械の人間の捕獲であって、シアトル基地の制圧は第二命令・・・つまり国の宮様も我々の兵力ではそれが不可能だとお見通しになられた上での命令だろう。アルマ、この司令室はお前に預ける。十分後、我々が対象を捕獲できなかった場合、お前はこのままシアトル基地にゴーゴンごと突撃しろ。」

「よろしいのですか?」

「構わない。戦闘データは全て本国に送られている。最悪、国の宮陛下に対象の情報をなるべく多くおお送りできれば良い。それに我々レベル3のバックアップボディは本国にあるからな。」

 ーーーーーーーーーーーーーーシアトル軍基地西門内部

「ところでお前たち、なんで俺がこのシアトルに来るってわかったんだ?捕獲命令があってこれだけの兵力を揃えてきたってことはあらかじめ俺がここに入ってくることが分かっていなければならなかったはずだ。」

「そんなこと知らねえよ。俺らはただ四肢が機械で脳が半分機械の人間を捕獲しろって命令されているだけだ。」

 コータは一瞬周りのシアトル兵を見渡した。シアトル兵達はレベル1アンドロイドとの混戦で今の台詞が聞こえなかったようだ。

「味方に自分の素性を隠さなくちゃいけないなんて、悲しい奴だな。」

 コータの周りを気にする様子を見てジュンイチロウがそう言った。

 コータがジュンイチロウに視線を向けている一瞬を狙い、ナオミがコータの後ろをとった。

 ナオミはパラソルの石突きをコータに突き刺そうとした。しかしコータは後ろを向きながら左上腕でその突きを防御した。

「やはりこの防御、あなたの意思とは無関係に左腕が勝手に自動で防御しているわね。明らかに視界から外れた箇所からの攻撃を自分の意思で防げるはずがない。」

 コータは左腕に接触したパラソルを後ろ向きのまま右脚で大きく上に蹴り上げた。

 ナオミの手からパラソルが離れた。

 コータはそのままナオミとの距離を詰めて左拳を食らわせようとした。

 しかし左拳がナオミに届く前にジュンイチロウに両腕を羽交い締めにされた。

「捕獲。」

「できてないわよ。そんなの簡単に抜け出せられるわ。」

「しかし彼を殺さずに生け捕りにするのはかなり難儀だ。」

 コータはジュンイチロウに両腕を羽交い締めにされた状態で左脚でジュンイチロウの左脚のすねを蹴った。

 ジュンイチロウのすねにひびが入った。

「痛っつ!」

 同時にジュンイチロウはコータを離した。

 そのままコータはジュンイチロウの左胸に向けて拳を繰り出した。

 ジュンイチロウはそれを左腕で防御したが衝撃で大きく後ろに後退した。

「左脚のすねと左腕にひびが入っちまった。こいつの体、まさか俺たち以上の硬度なのか?」

 ジュンイチロウが自分の体の破損箇所を見て、たじろいだ様子で言った。

「私の愛用のパラソルもひびが入っちゃったわ。」

 ナオミもコータの攻撃にたじろいでいた。

 その時だった。

 コータ、ジュンイチロウ、ナオミの体を大きく覆う影が急にできた。

 三人が空を見上げると装甲の色が真っ黒なAIRがコータとジュンイチロウ、ナオミのいる位置の左側に落ちてきた。

「ジュンイチロウ、ナオミ、手こずっているようだな。」

 AIRから声がした。どうやらパイロットのいないAIRではないようだ。

「アツシ隊長、申し訳ないです。コイツ予想以上の戦闘力です。」

「裏を返せばコイツが対象で確定したということでもある。ここは私がやろう。」

 アツシの乗ったAIRはコータに向けて銃を乱射した。

 コータは左腕と右脚を盾にして弾から胴体と顔を守った。

 しかし弾の乱射による衝撃で体が吹っ飛んだ。

(あのAIRの銃、サブマシンガンタイプか。この前戦ったAIRの銃弾より威力がある。弾丸をアーマメント鉱石で作ってでもいるのか?)

 体が横になりながら吹っ飛んでいる状態でコータは敵の攻撃を分析していた。

 そして地面に体が接触する前に左手の平で地面を押し、上空に舞い上がった。

 そのまま空中で体勢を整えて両脚で着地した。

(そろそろ俺一人じゃ勝てる気がしないな。シュラの奴を呼ぼう。だけどアイツが埋まっているところからここまで時間がかかる。一度シアトル市の正門まで走ろう。)

 コータはアンドロイド達に背を向けて走った。

「ジョージさん、聞こえますか?」

 走りながらコータは司令室にいるジョージ大将に携帯で連絡を取った。

「「なんだ?」」

「シアトル軍西門を開いて下さい。

 どうやら奴らの狙いは俺みたいです。

 奴らを基地の外に誘導します。」

「「何を考えているんだ?そんなことをすれば市民に被害が及ぶだろう?!」」

「シアトル市の門の外に仲間がいます。

 そいつの力を借りなければ奴らを倒せません!

 信じてください!」

「「・・・わかった。門を開こう。ただし外にいるシアトル兵は市街地にいる敵の鎮圧のため君を援護できない。」」

「大丈夫です。お願いします!」

 コータは50メートルの高さはあるシアトル軍西門の前まできた。

 すると西門が自動で開き始めた。

 コータは西門の扉が開くと門が完全に開ききる前にすぐに隙間から門の外に抜け出した。

 後ろから敵の乗るAIRが追ってくるのが見えた。

 コータは門の外に出ると一度立ち止まり、左腕の中を開いた。中から無線を取り出した。

「シュラ、聞こえるか?出番だ。アンドロイドが攻撃してきた。」

「「なんだ。オイルは買ってきてくれたのか?」」

 シュラは眠そうな声で言った。

「それどころじゃない!後で買ってやるから!お前の力が必要だ!」

「「わかった。今向かう。」」

 コータが無線を切り、左腕にしまうとすぐに門から敵の黒いAIRが飛び出してきた。

「どうした?突然逃げ出すなんて。怖じ気づいたのか?潔く捕まってくれれば痛めつけたりしないぞ?」

 コータはそれに返事をせず再びシアトル正門に向かって走り出した。

「この改良型AIR、サンゲツキの移動速度には例えアンドロイドであろうと追いつくことはできない!」

 コータはあっという間に自分の正面に先回りされてしまった。

 自分より五倍以上の巨体のAIRの姿にコータは一瞬怯んだ。

 AIRはその巨体の蹴りをコータに食らわせようとした。

 コータは両腕でそれをガードしたが、その一撃で換装したシアトル軍製の機械義手の右腕にひびが入った。門の外は砂で覆われていたので、砂がクッションになって、吹き飛ばされても背中に傷はつかなかった。

「お前、ロボットに乗って人間攻撃するなんて卑怯だぞ。」

 コータがそう言うとアツシは大きく笑った。

「卑怯?!戦争にそんな言葉があると思うか?それに自分より大きいAIRより強いアンドロイドなんていくらでもいるぞ??」

「だから俺はアンドロイドじゃないって!」

「レベル2とレベル4のアンドロイドを破壊した時点で、貴様を人間だとは思わない。」

 アツシのAIRはコータにマシンガンを構えた。

 その時だった。

 どこから機械音と思われる轟音が聞こえてきた。

 その音にアツシは一瞬コータから視線を外して轟音の発信源を突き止めようとAIRの首を横に振った。

 後から基地からアツシとコータを追って門を抜けてきたジュンイチロウとナオミも音の発信源を探して首を横に振った。

「メチャクチャギリギリだよ・・・。」

 コータが呟いた。

 アツシは音の発信源を市街地の方向に発見した。

 一機の灰色の装甲で覆われた、他の量産型とは全く違う形をした全長10メートル程のAIRがこちらに向かっていた。

「なんだ。あのAIRは。シアトル軍の秘密兵器か何かか?量産型AIRとも、私のサンゲツキとも全く違う姿をしている。あんな機体見たことがない・・・。」

 その正体不明のAIRはそのままアツシの乗るAIRに突進してきた。

 アツシはAIRの両手で謎のAIRの突進を防いだ。

 謎のAIRはコータの前で止まった。

「思ったより早かったな。結構ピンチだったよ。」

「後でちゃんとオイルは買ってくれよ。」

「そいつはお前のAIRか?!それより、なぜAIRが喋ることができるんだ!!」

 アツシはシュラの胸から聞こえる声を聞いて驚いた顔をした。

「AIRに感情機能のある人工知能を搭載するのは現代の科学では不可能なはず!何故それが実現できているマシンがあるんだ!!」

 アツシはまたいっそう声を大きくして叫んだ。

「こいつの名前はシュラ!この世で唯一1機の、感情を持つAIRだ!」

 コータはシュラの腹部にあるコックピットに乗り込んだ。

 コータはコックピットの中で破損したシアトル軍製の機械義手の右手を外して、コックピット内にある自分の本来の右手を新たに装着した。

「これで右手が軽くなった!」

「コータ、もう行けるか?」

「ああ、行けるぜ!」

 コータはコックピットの操縦レバーに手を置いた。

 シュラの背中部とかかと部に付いたブースターを全開にした。

 シュラの速度は先程のコータを追った時にアツシのサンゲツキが見せた移動速度以上の速度だった。

 そのままサンゲツキの周囲を回った。

「なんだこの速度は!全く捉えられない!!」

 そのままシュラはサンゲツキの後ろを取り、直進しながらサンゲツキの背中部に拳を叩き込んだ。

 サンゲツキはそのまま大きく前倒れした。

「くそ、この性能、1対1では絶対に勝ち目がない。アルマ!聞こえるか!」

 アツシはゴーゴン司令室にいるアルマに連絡を取った。

「「はい!聞こえております!」」

「ササメユキとチジンノアイを出せ!サンゲツキ一機ではこいつを抑えられない!」

「了解しました!」

「ジュンイチロウ!ナオミ!AIRに乗る準備をしておけ!」

「了解!」

「隊長があんな取り乱れるなんて、珍しい・・・。」 

 ナオミがアツシの動揺を感じ取って言った。

 ゴーゴン内部のハッチが再び開き、青い装甲と水色の装甲のAIRが射出された。

「上から何か来るな。」

「また新手のアンドロイドか?」

「違うな、かなり大きい。来るのはAIRだ。」

 シュラは敵の戦艦からこちらに落ちてくる新手のAIRをコータより先に視界に捉えながらも、冷静な口調でコータに敵の情報を伝えた。

 砂を巻き上げるほどの大きな着地音とともに敵のAIRが2機出現した。

 敵の胸のコックピットが開き、ジュンイチロウとナオミが乗り込んだ。

「よし私とナオミはサブマシンガンで敵を中距離から迎撃、ジュンイチロウは我々が作る隙をついてロケットランチャーでとどめを刺せ!」

「了解!」

「了解。」

 三機はシュラの周辺を囲むように高速移動した。

 サブマシンガンでゆっくりと機体にダメージを与えながらロケットランチャーを食らわせる隙を伺っていた。

「シュラ、あいつ等の狙い、分かっているな?」

「分かっている。」

 シュラはその場で動かなかった。マシンガンの攻撃を度々受けていたがかすり傷程度のダメージだった。

「敵の狙いが分かっているとはいえ、このままマシンガンを食らい続けるのも危険だぞ。」

「分かっている!」

 コータはマシンガンを食らいながら周囲を回っている敵を観察していた。

 そしてーーーーー

「敵の攻撃の規則をだいたい分析した。ここから攻めにでるぞ!シュラ!」

「了解だ!」

 コータはロケットランチャーを持つジュンイチロウのササメユキにターゲットを絞って突っ込んでいった。

「先にこちらの主力武器から潰そうという魂胆か。単純な攻めを!」

 アツシはジュンイチロウのササメユキに接近するシュラの背後を取り、AIR用巨大アーミーナイフをシュラの頭部に突き刺すことを考えた。シュラとササメユキの距離10メートルを切った所で、アツシのサンゲツキとシュラの距離はすでに5メートルを切っていた。

「捉えたぞ!」

 サンゲツキの手には巨大アーミーナイフが握られていた。

 れをシュラの頭部に突き刺そうとした瞬間だった。

 シュラは空中に後ろにジャンプし、そのまま空中で1回転してサンゲツキの頭上を通り過ぎて、サンゲツキの後ろを取った。

「なんだその動きは!!」

 シュラは後ろを取ったサンゲツキの頭部に拳を叩き込んだ。

 そのパンチでサンゲツキの頭部は粉々に破壊された。

「貴様の動き、どう考えても後ろは見えていなかったはずだ。どうして私の接近が分かったんだ。」

「後ろにいるお前を見ていたのは私ではない。コータだ。」

「何?!まさか機体とパイロットで二人分の視野を持っていたというのか?!」

「そういうことだ。お前達は1対3で戦っていたつもりかもしれないが俺達は2対3で戦っているつもりだったんだよ。さあ、どうする?これで2対2になったようなもんだと思うけど。」

 アツシのサンゲツキのモニターは頭部が潰されたことにより映らなくなっていた。

 だが、アツシはまだ負けているつもりはなかった。

 そしてサンゲツキは両腕でシュラの脚にしがみついた。

「何?!」

「悪いがこのまま自爆させてもらう。何、コックピットが破壊されないよう上手く足だけ破壊してやる。我々の任務は「捕獲」だからな!

 アツシはニヤリと笑った。

(例えここで自爆しても、自分の本体は本国にある)ということからの余裕の笑みだった。

「ジュンイチロウ!、ナオミ!こいつの捕獲は任せたぞ!」

 AIRの自爆のスイッチを入れようとした瞬間だった。

 ミサイルがシュラの脚にしがみつくサンゲツキの右腕に直撃した。

「ミサイル?!どこから?!」

 アツシ、ジュンイチロウ、ナオミ、コータまでもがミサイルの発射の源を見るためにミサイルが来た方向を振り向いた。

 そこには赤い装甲をした量産型AIRがミサイル砲を背中に背負って立っていた。

 肩の装甲には『SEATTLE』と名前刻まれていた。

「ジョージ・ワールド大将の司令で援護にきてみれば。どうやら間一髪の状況を救ったみたいだな。」

 操縦者はマイケル大佐だった。

 シュラはコータの操縦を待たずにしがみつくサンゲツキの残る左腕を振りほどいた。

「・・・どうやらもう対象の捕獲も達成できなさそうだ。恐らくマックスの報告が正しければ敵のバリアも後数分で復活する。」

 アツシは勝敗を冷静に分析してそう判断した。

「ならば・・・聞こえるかアルマ!最終手段だ!戦艦ゴーゴンごと奴らシアトル基地に特攻しろ!」

「アツシ様・・・了解致しました。戦艦ゴーゴンで敵シアトル基地に特攻します!」

 アツシの指示により、戦艦ゴーゴンの船体が大きく斜めに傾いた。

「ん、なんだ。奴らの戦艦が傾いた・・・・まさか?!」

 ーーーーーーーーーーーーーーーシアトル基地司令室

「ジョージ大将!外のモニターからの映像です。敵の戦艦がこのシアトル基地に向かっています!」

「やはりな。9カ月前このシアトルにアンドロイドどもが攻めて来た時も奴らは最後我々に対して勝ち目がないと判断して集団自爆という選択を取った。あの時も大量の死傷者を出した上での勝利だった。今回はそうは行かない。そのためにこの街全体を覆うほどのバリアを開発したのだ!バリアの展開後何分だ!?」

「技術班からは後3分との連絡です。」

「3分は長いな。あの戦艦がバリアの内側まで踏み込んでくるのに後2分もかからないだろう。遠征部隊が帰還していればあの戦艦を破壊する手立てもあったかもしれないが。」

「基地周辺にいるシアトル兵全員を避難させてはどうですか?人が入れば基地等ま後から作り直せます。」

「違うぞ、エハム・リンカン中将。ここで引けば我々はどちらにせよこの先の戦争でアンドロイドに勝利することは不可能だろう。今軍にある兵力の全てを注いで戦艦を破壊するんだ。軍内部にあるオートマウェポンの大佐以下の使用を臨時として許可する。我々も出るぞアメリカ軍シアトル支部の総力を上げて戦艦を破壊する。」

 ーーーーーーーーーーシアトル軍屋上

「何?!あの馬鹿でかい戦艦をオートマウェポンで破壊しろだと!」

 スコッティ少将がシアトル兵の連絡を聞いて叫んだ。

「はい。大将殿のシアトル全軍への御命令です。」

「勘弁してくれよジョージのじいさんよ!俺のモーニングスターでどうやってあのバカデカいのを破壊しろってんだよ!」

 ーーーーーーーーーーーシアトル軍東門内部

「おい、おの上にある飛行船はお前らのもんだろ?あれをここに落としたらお前らも巻き添えじゃないのか?」

 セオドア中将は長時間の戦闘で息を切らしながらドッポに言った。

「心配せんでも我々のバックアップボディは本国にある。つまりお前さんが今戦っているわしは本体ではないということじゃよ。あの飛行船がここに落ちてくるまでお前さんにはわしと遊んどいてもらうぞ。」

 ドッポもセオドア中将との戦闘で息を切らしていたが生死をかけた戦いではないという点で精神的にはセオドア中将より優位に立っていた。

 ーーーーーーーーーーーーシアトル軍西門外 砂浜地帯

「ち、ここが潮時か。右腕もなくモニターも映らないんじゃ戦いにならない。だが今度会うときは必ず捕獲してやるぞ。」

 最後にそう言い残してアツシはサンゲツキの自爆スイッチを押した。

 マックスの時のような大爆発があたり一面の砂を空中に巻き上げた。

「自爆・・。」

「おそらく奴にはバックアップボディがあるのだろう。だから躊躇なく自爆ができる。」

 アツシの自爆に一瞬気を奪われたが、すぐにコータは次のするべき行動をとろうとした。

「あの戦艦を破壊するぞ、シュラ!」

「そうだな。」

 シュラが落下する戦艦ゴーゴンに体の方向を向け時、ミサイルの発射にコータとシュラは同時に気づいた。

 シュラは接近するミサイルを後ろに下がりギリギリかわした。

「さて、隊長が悲しい殉死をされたところで俺達がやるべきことは!」

「ゴーゴンが連中の基地に衝突するまでこいつらをここで足止めする事ね!」

 ジュンイチロウとナオミはゴーゴンに向かおうとするコータとシュラの足止めをすることに目的を変えた。

「おい、坊主!」

 マイケル大佐が通信でコータに話しかけた。

「は、はい。(坊主・・・・・?)」

「お前あの戦艦を破壊する手立てあるのか??」

 マイケル大佐はこの戦局でゴーゴンを破壊することを諦めていた。

 何故なら軍内部に今存在するAIRは自分が乗るこの1機しかなく、オートマウェポンは基本対アンドロイド用の白兵戦専用兵器であるため戦艦には通用しないことを知っていたからだ。

 頼みの綱は遠征部隊の5機のAIRの帰還だったが連絡通りなら後30分は時間がかかる。

 その頃にはこのシアトル基地は跡形もなくなっているだろうからだ。

 だが、もし何かこの局面を打開する可能性があるとするなら、この作戦に想定していなかった1人のアンドロイド以上の戦闘力を持った人間と、人の言葉を喋るAIRがその可能性を持っていると感じたからだ。

「はい、あります。」

 コックピットの中でマイケル大佐からは分からなかったがコータは自信を持った顔でそう言った。

「分かった。こいつら2機は俺1人で抑える。お前はその機体であの戦艦を破壊しろ。」

「はい。(なんかこの人態度がでかいな・・・・。)」

 ジュンイチロウのササメユキとナオミのチジンノアイがシアトル基地西門の入り口に立ちふさがった。

「この門は通さないぞ!」

「おい!その小僧の邪魔をするんじゃねえ!」

 マイケル大佐はAIRの背負うロケットランチャーをササメユキに向かって発射した。

 しかし発射されたミサイルはチジンノアイのマシンガンでササメユキに届く前に爆発させられた。

 マイケル大佐のAIRとアンドロイド達のAIRが戦闘をしている隙をついてコータとシュラはシアトル基地西門の門ではなく壁のある方に向かった。

「なんであいつ壁の方に?」

「まさかあの壁をAIRで飛び越えようっていうの??」

 そのまさかであった。

 コータはシュラのブースターをマックスにして下方に傾けて噴射した。

 さらにシュラを思い切りしゃがみ込ませて飛ぶための体勢に入った。

 シュラと壁が衝突するまで後五メートルというところで大きく跳躍した。

 壁を乗り越えるまで後15メートル、10メートル、5メートルと近づいた。

 しかし途中でブースターの一度の噴射量が限界にきた。

 壁のテッペンまで後二メートルというところで落下が始まった。

「え!嘘だろ足りない!?」

「スマン、限界だ。」

 しかし落ちる寸前にシュラの背中が何かと接触して爆発した。

 その爆発が後二メートル足りなかったシュラの機体を上に持ち上げた。

「これは貸しだぜ。」

 マイケル大佐がAIRのロケットランチャーのミサイルをシュラの背中に撃ち込んだことによる爆発だった。

 シュラの右手は50メートル以上あるシアトル基地西門のテッペンを掴んでいた。

「シュラ、そろそろブースタもう一回使えるんじゃないか?」

「ダメだ、次のブースターはこの門を乗り越えて、下に落ちる時に落下の勢いを殺すのに使う。」

 シュラは左手でもテッペンを掴んだ。そして両手でテッペンに掴まり、右脚もテッペンに掛けた。そして門のテッペンに残る左脚も掛けて、門のテッペンでしゃがみ込んだ姿勢になった。

「次は落ちるぞ。」

「ああ!」

 シュラはそのままテッペンから門の内側に向かってジャンプした。

 当然下に落ちていく。

 改めて両脚と背中のブースターを全開で噴射して落下の勢いを殺した。

 門の内側ではシアトル兵とアンドロイドが戦闘を続けていた。

「シュラ!上手く人を避けて落ちろよ。」

「そんな器用なことはできない。」

「頑張れよ!」

 シュラは尻から地面に落下した。

 幸い落下して尻餅を着いた地点にはシアトル兵もアンドロイドもいなかった。

「コータ、大丈夫か?」

「結構痛かったな。お前は大丈夫か?」

「ブースターで上手く勢いを殺せたおかげで大した損傷はない。」

「そうか、じゃあ、いくぞ!!」

 すでに落下する戦艦はシアトル基地の屋上から40メートルもない距離にあった。

「おそらく後一分もないうちに衝突するだろう。」

「見りゃ分かるって!」

 シュラはシアトル基地西門内側から基地の屋上の中間地点にある外側にある訓練場までジャンプした。

「この位置から狙えるか?!」

「ダメだ。建物が壁になって戦艦を攻撃できない。」

 シュラはもう一度ジャンプして先にスコッティ少将とレベル3アンドロイド・ケンジが戦闘を繰り広げていたシアトル基地屋上まで駆け上がった。

 すでにコータとシュラの正面には接近する戦艦が間近に見えていた。

「やるぞシュラ!」

 コータはシュラの操縦席にあるキーボードでコマンドを入力し始めた。

「ENTER!!!」

 コマンドを入力し終えたコータはシュラから降りた。

 シュラの人型の形がどんどん変型していって、巨大な大砲の形になった

 コータは大砲に変形したシュラのグリップを握り、照準をこちらに向かってくる戦艦に合わせた。

「発射!!!」

 直径10メートル近い巨大な貫通弾が戦艦のド真ん中に命中した。

 そのまま貫通弾は戦艦の後方のエンジンに届くまで貫いた。

 後五メートルでシアトル基地に接触するというところで空中戦艦は大爆発を起こした。

 その爆発は空中戦艦の近くにあったシアトル基地全体の十分の一程を巻き込んだ。

 その爆発の大きさ、爆発の光に戦闘をしていた全てのアンドロイド兵、シアトル兵が爆発の1分間程戦闘を中断するほどであった。

「あいつ、本当にやりやがった・・・・。」

 マイケル大佐は門の外から大砲になったシュラを肩に背負うコータを見て呟いた。爆風のせいで目を細めなくては彼らを見ることができなかったが、空中戦艦の粉々になった塵や破片がシアトル基地に雨のように降り注がれている中、微かに彼らの姿を捉えていた。

マイケル大佐はたった1人で巨大な空中要塞を破壊してしまったコータを見て汗を額から流した。

(こんな力が人間に出せる力なのか?奴はやはりアンドロイドなのではないか?)

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