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 朝、ロボットが目を覚ますと、ヒヨコの鳴き声が聞こえてきました。


 ピヨ、ピヨ、ピヨ。



「マダ、オオキクナラナイナ」


 ロボットはそう呟くと、いつものように床から身体を起こし、キッチンへと向かいます。そしてキッチンに立つと、野菜やパンを手にとって朝食の準備をはじめました。

 しかしこのときにも、ロボットには空腹感はありません。ロボットの身体は食べ物を摂取しなくてもいいようにできているからです。それでもこのロボットは、まな板の上で器用に野菜を切り、ガスコンロに火をつけていました。



 そのときヒヨコは、同じ家のリビングで元気よく走り回っていました。いずれ自分が食べられてしまう運命だとは知らずに、羽をパタパタと動かして色々な景色をその目で確かめています。



 そのうちに、リビングにいい匂いが漂ってきました。

 どうやらそれは、ロボットがつくった野菜スープの香りのようです。ロボットは、完成させた朝食をリビングにあるダイニングテーブルへと運んできました。


 その匂いに誘われるように、ヒヨコもダイニングテーブルへと近づいてきます。ヒヨコはロボットのことをすっかり信頼しきっているようで、近くにいても全く怖がることはありません。



 そんな様子のヒヨコを、ロボットはただ無表情で見下ろしました。

 そして自分の足元に立っていたヒヨコの身体を、ロボットは静かに両手で持ち上げます。持ち上げたヒヨコを、今度はダイニングテーブルの上にそっとのせました。



 そこには、ロボットの朝食の他に、ヒヨコの分の餌も用意されていました。

 その餌が入った小さな食器は、その日からヒヨコ専用のお皿となります。ヒヨコが大きくなってニワトリと呼ばれるまで成長するには、餌をたくさん食べてもらわなければなりません。そのためにロボットは、その日から毎日、自分とヒヨコの二人分の食事を用意することにしたのです。



 ピヨ、ピヨ、ピヨ♪


 ヒヨコは嬉しそうに羽を広げて、食器の中に頭を突っ込み夢中で餌を食べていました。その横でロボットも、自分の席に座って朝食を食べはじめます。



 少し経つと、ヒヨコがロボットの方へ歩み寄ってきました。そしてヒヨコは、ロボットが食べようとしていたパンを、こっそりと盗み食いをします。


 ふと見ると、ヒヨコ専用のお皿はもうすでに空になっていました。ヒヨコは餌が足りなかったのでしょうか。物足りなさそうにロボットの顔を見つめています。そして、ロボットが食べようとしていたパンを小さなくちばしで勝手につついたのでした。



 それに気がついたロボットは、ヒヨコからパンをとり返します。必要以上の餌を与えては、ヒヨコが健全に育たなくなるのではないかと危惧したからです。しかし、ヒヨコも負けていません。ロボットからまたパンを奪いとろうとします。

 ロボットも諦めませんでした。ヒヨコに奪われたパンを、またとり返します。それでもヒヨコはまだパンを諦めずに、必死に羽をパタパタと動かしていました。



 結局、ダイニングテーブルの上にあった野菜スープが冷めてしまうまで、その行為は繰り返されたのでした。


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