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 修理から帰ってきたばかりのロボットは、その日も朝食をつくろうとしていました。



 自宅のキッチンに立ったロボットの右手には、卵が一個握られています。ロボットはその卵を割ると、あらかじめ用意していた食器の中へと落としました。



 すると、予想外のことが起こります。


 ロボットが割った卵からは、黄身と白身が出てこなかったのです。その代わりに殻の中から出てきたのは、一羽の小さなヒヨコでした。



 ……ピヨ、ピヨ、ピヨ。


 卵から孵ったヒヨコが、小さな鳴き声を上げました。まだ生まれたばかりで上手く身体を動かせないのか、食器の中で手足をばたつかせています。



 そんな光景が突然目の前に現れても、ロボットは全く驚きませんでした。なぜならロボットには、『感情』がなかったからです。



 そのときのロボットは、ただひたすらに想定外のできごとにどう対処するのかだけを考えていました。



 ① 卵を購入した養鶏場に連絡をし、新しい卵と交換してもらう

 ② 新しい卵は諦め、不必要なヒヨコをこの場で殺処分する

 ③ どこにも報告せずにヒヨコを外へ逃がす



 ロボットの頭の中には、この三つの選択肢が浮かんでいました。身体の小さなヒヨコは、ロボットの食用として役に立ちません。だからといって、ヒヨコをその場で殺処分してもゴミが増えるだけです。



 色々と考えた結果、結局ロボットは③の選択肢を選びました。ヒヨコが入ったままの食器を手にとって、ロボットはキッチンを出て、自宅の庭の方へと移動していきます。




「ホラ、アッチヘイキナサイ」


 ロボットは、太陽の光がさす庭に出ると、食器の中にいるヒヨコに向かってそう言いました。


 ヒヨコを外へ放すために、ロボットはその小さな身体を食器からとり出してあげます。

 そして、二本足で立ったヒヨコの小さな背中を、ロボットはそっと手で押してあげました。



 しかしヒヨコは、その場を動こうとはしません。



 ……ピヨ、ピヨ、ピヨ。


 か弱い鳴き声を上げたヒヨコは、外へは向かわず家の方を振り返ってしまいます。そして、その小さな羽を広げてヒヨコは、ロボットの周囲をよちよちと歩きはじめました。どうやらヒヨコは、ロボットのことを自分の親だと思い込んでしまったようです。

 ヒヨコは懸命に足を動かし、やがてロボットの足の上にまで辿り着きました。その場に腰を下ろしたヒヨコは、その温もりに安心したのか、気持ち良さそうにスヤスヤと眠りはじめてしまいました。



 その小さな寝息を聞いて、ロボットは少し考えます。


 自分の足の上で眠っていたヒヨコを両手でそっと持ち上げると、ロボットは自宅の中へと戻っていきました。



 どうやらロボットは、ヒヨコを自分の手で育てることに決めたようです。しかしそれは、ヒヨコに愛情を感じたからではありません。なぜならロボットには、『感情』がなかったからです。

 ヒヨコは成長すれば、いずれは大きなニワトリとなります。そしてニワトリにまで成長すれば、ロボットの立派な食料になります。



 つまりロボットは、ヒヨコが大きくなるまで自分の家の中で育てて、やがてニワトリと呼べるまで成長したら、自分の食料として食べる予定を立てたのです。




 そうして、その日からロボットとヒヨコの共同生活がはじまったのでした――。


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