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恐怖と希望


 怖い。怖い。怖い。

 なんだんだこれは? どうしてこんな白骨死体がある?

 しかもずっと扉を叩くのはなんだ?


 部屋の隅で剣を片手に膝を抱えながらずっと考えていた。

 幸い扉は頑丈みたいで壊されてはいないけど、いつまで続くかわからない。


 わからない。わからなさすぎて怖い。


 もしかして白骨死体は錆びたこの剣で、何か(・・)と戦っていたのか?


 息を殺して、何かがどこかへ行くのを待つしかない。

 出たくない。出たくないけど、あの死体みたいに死にたくない。


 どうしよう。

 どうすればいい?


 しまった。死体を見てしまった。

 でも目を閉じれば余計にこわい。ずっと扉をガンガンと叩く音が部屋中に響き渡っているんだ。


 あ、あれはなんだ?


 鍵とノートだ。


 取りたい。取りたいけど鍵とノートを取るには白骨死体に触らないといけない。

 死体が大事そうに胸に抱えている。


 ああ、くそ! 一体何なんだよ!

 ずっとこのままじゃ気が狂いそうだよ!

 取ってやる!

 

 骸骨が動かないか注意深く見ながらその鍵とノートを取る。


 鍵はきっとこの部屋の鍵だ。扉を叩く何かが怖くて試せないけど、きっそうだ。


 ノート。

 手のひらサイズの革張りの《学生手帳》って書いてある。なんども読み返していたのか、ノートの端はボロボロ、手垢で真っ黒だ。


 表には甲南高等学校と書いてあり、裏には顔写真の学生カード。

 名前は《日村正光》、誕生日は12月1日。


 まさか自分じゃないよな? 白骨死体の顔なんてわからないし、ここは鏡がなくて自分の顔さえもわからない。


 異常な場所で異常な想像をしてしまい思わず顔をしかめる。

 でも、これを見ているだけで、扉をたたく音が少しマシな気がする。


 開くと一番最初のページに驚くべきことが書いてあった。



《これを読んでいる人へ。

 おそらく君はこれを読みながら異常な事態に巻き込まれているだろう。

 ぼくもその事態に巻き込まれた一人だ。

 だが、落ち着いて読んでほしい。ここでは冷静な行動が君の命を救うただひとつの手段だと自分に言い聞かせてくれ。そして、この手帳を読み終えるまでは決して外に出るな》

 くそ、やっぱり扉の向こうには危険なヤツがいるのか。

 でもこれは運が良かった。この《日村正光》っていうヤツが残してくれたノートは役に立つはずだ。


 続きを読み進める。


《ここはおそらく地下五階以上もある迷宮だ。地下かどうかまだわからないが、上に続く階段があるので地下としている。

 そしてぼくはこれをダンジョンと呼んで、その攻略法をすべてこの手帳に書き込んでいる。

 この手帳はぼくが一番最初に目覚めた場所に置いておく。ぼく自身はたぶん最後の番人、ガーディアンと呼んでいるモンスターを倒しに行く。

 だからぼく自身も自分がどうなったかはわからない。

 攻略の途中、いろんな死体を見たが、そのひとつにならないことを願っている。

 もし、ぼくが死体となっていても分かるように首には稲妻型のペンダントをしている。君が見かけることがあれば《日村正光》という男がいたことを思い出し、黙祷のひとつでも上げてくれたら嬉しい。

 逆に、生き残って共にダンジョンから出たら友達になってくれ。

 きっとぼくたちは最高の親友になれるはずだ。

 願わくば、そんな日が来ることを。―――日村正光》


 その一番最初のページを読み終わって、すぐさま白骨死体の首元を探る。

 ペンダントはなかった。


 急に安心した。

 この手帳を残してくれた正光の死体じゃなかった。


 よかった。

 本当に良かった。


 ああ、友達になろう、正光。

 生き残って、ぜったいにこのお礼をするからな。


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