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目覚めたら

―――ピチョン。

 滴る水の音で目が覚めた。

 薄暗い中、ぼんやりと天井から染み出た水滴がゆっくりと落ちている。それは地面においてあった陶器の杯に落ちて奏でる音。

 背中がやたら冷たいと思ったら陶器から漏れた水がぐっしょりと服を濡らしていた。

「最悪だ」

 言葉で悪態をつき上半身を起き上がらせると、疑問が浮かび上がる。


 どこだここ?


 周りを見渡すと石造りの部屋で寝ていた。

 部屋には扉があり、出られるようになっている。壁際には毛布にくるまった何かとその横に見慣れない棒のようなものが壁に立てかけてあった。他にも木箱が三段積み重なっており、その上には洋燈のようなものが置いていある。壁の上には灯り。薄暗いと思っていたのは電気が付いていたからだ。ただ、その光は蛍光灯のように真っ白い光ではなく蝋燭の炎のように、風もないのにゆらめている。


「なんだここ? 俺はどうして・・・」


 記憶を辿ろうとしてポッカリと何かが抜け落ちている。

 なんだこれは? 言いようのない不安が襲ってくる。状況が全くつかめない。つかむどころか、自分が何者かさえわか(・・・・・・・・・・)らない(・・・)


 誰かの悪戯か?

 でも誰に? その誰かの記憶さえない。


 着ているジャージのポケットを探っても何も入っていない。

 自分を証明するようなものが何もない。


 くそ・・・。何もないなんて・・・。


「とりあえず、外に出よう。話を聞けば思い出せる」

 自分に言い聞かせながら重い腰を上げる。

 

 部屋は小さい。ほんの六畳ぐらいだ。自分の家を思い出す。

 ん? 家?

 一瞬過ぎ去った光景をつかみ取ろうと記憶を辿っても答えはでない。

 たしか自分は誰かと住んでいたはず。


「まあいいか」

 そう呟いて扉を開けようとするが、何かがつっかえているようで扉は開かない。

 扉には鍵穴がある。


 鍵がかかっているのか?


 また不安が押し寄せる。

 閉じ込められている? こんなところに? なんで?


 しかも扉の下に隙間がない。石の出っ張りが隙間を覆い隠すようにぴっちりと塞いでいる。


 呼ぼう。

 人を呼んでここから出して貰おう。


―――ガンガンガン!

「誰か! 誰かいませんか!」


―――ペタペタペタ。


 木の扉を激しく叩いて騒ぐと、何か扉の向こうから音がする。

 よかった。誰か外にいる。


「あの! すみません! ここから出してください!」

 声を必死でかけるも、外からはなんの声も戻ってこない。


 ただペタペタと扉の向こうに何かが集まる音がしている。

 それが怖くなってきた。

 こういのは映画でみたことがある。あれはゾンビ・・・。


 映画? ゾンビ?


 また一瞬なにかの光景が浮かび上がってくるが、それがわからない。

 たしかに自分はこんなシーンを見たことがある。あれは自分ではなかった。暗い大きな空間で、たくさんの人たちと・・・。


 変なことを考えていると、音が止んだ。

 

 落ち着け。いまは出ることだけを考えよう。

 いまはここから出ることのほうが大事だ。こんな訳の分からないところに閉じ込められるのはまずい。なぜだかわからないが、それは非常にまずい気がする。


 深呼吸をする。


 よし、落ち着いた。

 きっと扉の外にはちゃんとした人がいる。言葉が通じないだけかもしれない。

 そのときはゆっくり考えよう。言葉を交わせばわかりあえるはずだ。


「すみま―――」


―――ガン!!


 言葉をかけた瞬間、扉に何かがぶつかる音が部屋に響き渡った。

 思わず扉から大きく下がる。


 しかもそれが狂ったように何度もぶつかり、その度に扉がミシミシと音を立てる。


 普通じゃない。きっとこの扉の向こうにいるのは普通じゃないものだ。

 怖い。この扉の向こうにいる何かが怖い。

 

 どうする? この扉が壊れたそれが入ってきたらどうする?

 ここから逃げよう。でもどこに? ここは出入り口が扉しかない。

 天井には換気口なんて見当たらない。


 だったら武器だ。武器になるもの。武器なんて使ったことはないけど振り回して当たればいい。少なくとも相手を怯ませるぐらいにはなると、何かで読んでことがある。


 目を部屋に向けると壁際に立てかけてあった棒のようなものを見つける。

 あ、棒があったんだ。


 急いでその棒を手に取るとずっしりと重い。

 これはただの棒じゃない。これは剣だ。両手で握られるほどの柄と手を守る鍔がある。鞘の長さは腕よりもちょっと長いぐらい。

 

 よし、これなら相手はビビるはずだ。

 

 剣を抜こうと鞘を引っ張ると固い。

 剣って抜こうと思ったらこんなにも固いのか。

 でも早くしないといつ扉が壊れるかわからない。

 

 焦って力よく引っ張ると、ザラザラと変な音を立てて鞘がすっぽ抜けた。

 剣が錆び錆びだったのだ。


 しかも鞘は毛布にくるまっていた何かにぶつかり、それが崩れ落ちて露わになった。


「あ・・・」


 頭が真っ白になる。

 呆然として、錆びた剣がカランと床に落ちた。


「骸骨・・・」


 それは人間の白骨死体だった。


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