第9話
‡第九話‡
「あ、あれがアジト……」
走りに走ったアッタカたちは、やっとアフローズのアジト――チビーズの秘密基地――の手前まで辿り着いた。
「そうだぞー」
地図を確認しながら、ニシニも頷く。
視力7.0の瞳はすでに、縛られたまま座っている姉とチダユゥを捉えていた。
「どぉするアッタカー?」
「うーん……」
やはり、単純な殴り合いでは自分は彼らにはかなわない。頭を使わなければ。この弓矢を使って、何ができるだろう……。
誇り高きシャマイのモランは、無用な殺生は絶対にしない。それは人間はもちろん、動物もだ。
いかに相手が青派連中だとは言え、射殺すなどもってのほか。
「どうすれば……」
「ぶーんぐるぐるー」
暇になったのか、ニシニの背中から降りたアッツキが、近くにあった長い蔓を手に遊びだす。
アッタカたちが身を隠している茂みから伸びる、長い蔓……
「……それだ!!」
「おー?」
まるでヴァナーシャの神が味方してくれたかのように、突如アッタカの頭にアイディアが閃いた。
「アッツキ、そのつるかせ!」
「ふえ?」
半ば強引にアッツキの手中から蔓を奪いとり、アッタカはその長さを確かめる。
「よし、こんだけ長けりゃだいじょーぶだ!」
「何するんだー?」
不思議そうな友人に、アッタカは嬉々として説明した。
「この矢尻につるをつけてさ、あのアジトの木に向けて射るんだ! んで、あの木に矢が突きたったら、俺がそのつるにつかまって、あの木の上にいるクホをけりおとす!」
「おおっ! かっこいーなー!」
「そんで、青派のやつらが混乱してる中につっこんでくの、ニシニにまかせてーんだ。ニシニがあいつら追っ払ってる間に、俺が姉さまとチダユゥさんを助ける!」
「まかせとけー!」
親友が笑顔で頷くのを確認すると、アッタカはアッツキを片手に抱き、えっちらおっちら低木の上にのぼった。
「兄しゃま、おしっこしたいー」
「がまんしろ!」
軽くアッツキの頭をこづくと、アッタカは蔓の片端を矢尻にしっかりと結び付け、もう一方の端をアッツキに巻き付けた。
「うごくなよ、アッツキ」
そして、深呼吸を2回。
背筋を伸ばし、弓に矢をつがえる。視界に、こちらに背を向けて座るクホをとらえる。
「ヴァナーシャのかみよ…」
小さな弓矢で幾度か練習したとは言え、実践用サイズは初めてだ。
「……ふっ!」
短い気合いの呼気とともに、蔓を結び付けた矢は一直線にアジトの低木へと飛翔した。
「……ん?」
何かが頭上を飛んだ気がして、チダユゥは天を仰いだ。
そして。
「!」
頭上にいつのまにか、ピンと張られた蔓が出現しているのを捉えた瞬間。
「アーーアァアァー!!!!!」
その蔓が一気に撓み、甲高い声とともに、小さな影が月明かりの下を舞う。
「ほら、言ったでしょ?」
隣でアッキナがほほ笑み、鈍い音に続いて
「ぐぁ」とつぶれたような声を出したクホが樹上から蹴り落とされ、
「ぎゃああっ!」
「いてーー!!」
「クホくん?!」
クホが固まって眠る部下たちの上に落下し、
「たーーー!!」
そのカオスの中に気の抜けた雄叫びをあげるニシニが突っ込み、
「姉さま! チダユゥさん!!」
耳元で、自信に満ちあふれた少年の声が響いた。
[続く]