第6話
‡第六話‡
「たのしそうなことやってんじゃん。俺も混ぜてよ」
「なっ……クホ?! このガキいつからっ……」
低木の影から現われたのは、クホ・スマムだった。
「うげっ! クホだっ!! 何しにきたんだよー!!」
レラッカとア・ヤカを背中にかばい(しかしチダユゥの前には出られない)、タクがクホを睨み付ける。
「あおやろーだー!」
「くほー!」
さすがのチビーズたちも、この怖い子供を前に焦っている。
「つめたいなぁ。俺はなかまに入れてほしいだけなんだ」
しかしそんな彼らの様子を気にすることなく、クホは芝居がかった声でそう言うと、縄に自ら絡まって豪快に眠るアッキナにちらりと目をやった。
「ふーん……おもしろそうじゃん。しばったやつが勝ち?」
「違う、これは……!」
やや緊張を感じさせる声で説明しだしたチダユゥの声が、止まった。
「クホくーん、おれらによーじって何ー?」
「なんかまたおもしろい遊びかんがえついたのー?」
なんとクホの背後から、腰巾着たちが3、4人姿を見せたのだ。
「い、何時の間に?!」
「なんか、しばって遊ぶらしい。ゆーかいごっこかな?」
しれっと言うクホの言葉を聞きながら、チダユゥは頭を回転させた。
(俺はともかく、チビーズはシャマイの将来を担うやつらだ、こいつらにとっちゃジャマにちがいねぇ……こいつら連れて逃げてぇとこだが、アッキナは一度寝るとちょっとやそっとじゃ起きねえ……寝てるやつをかつぐとなると一苦労だし……俺だけ残って逃がすか? でもこいつらにとって俺のひとじちの利用価値はねぇし……っあーだからこんなんやだっつったんだ!!)
思考をめぐらせている内に腹が立ってきたチダユゥは、チビーズにだけ聞こえる声でささやいた。
「(俺がこいつら足止めしとくから、おまえら死ぬ気で走れ。んで、アッタカとニシニに知らせてこい!)」
タクとレラッカが緊張した面持ちでうなずく。
「ア・ヤカ、こい」
タクは状況が今一つつかめていないア・ヤカを抱き上げ、なぜか赤面しつつレラッカの手を握ると、
「ぶははは! あでぃおーす!!!」
そう捨て台詞を残し、チダユゥも驚くほどの速さでとっとと逃げ出した。
「あ! クホくんあいつら!!」
「俺たち、おいます!」
口々に叫びながら、腰巾着たちが前に走り出る――が。
「させっか」
目にもとまらぬ速さで左右に走り出るチダユゥのげんこつをくらい、あっけなく倒れる。
「いってー! おとなげねーよー!」
「はやすぎっ!!」
「おまえらが弱すぎだろ……っ?!」
そんな腰巾着たちに呆れ果てていたチダユゥの背に、何かがしがみついた。
「逃げないの?」
「っ?! いつのまに……ぐっ!!」
普段はうざったいくらいの存在感を出しているくせに、いつのまにか気配を消して背後に忍び寄っていたクホの手刀を思いっきりぼんのくぼにくらい、チダユゥはあっけなく倒れた。
「さ、さすがクホくん!」
「強いね!!」
「まぁねー。……アッタカ、とか言ってたなぁ……」
チダユゥを縛りながら、クホが楽しそうにつぶやく。
「アッタカもニシニも……今のうちにつぶしとこ」
「アッタカーこんなんでどーだー?」
「ん、ちょうどいい」
村外れの林でさっそく枝拾いを行った二人は、ほどなくして弓矢を作るのにちょうどいい枝を発見した。
「作り方わかんのかー?」
「前に、ちっちゃいやつを作ったことあるからな」
昔の弓使いの話を知ったとき、すっかり憧れたアッタカは弓矢の作り方を年長者たちに聞いて回り、実際使える大きさより一回り小さいものを作ったのだ。
「すげーなー」
感心するニシニに少し照れながら、アッタカはその場にあぐらをかくと、腰に下げていた短い石刄を手にとり、木を削りはじめた。
「なぁ、ニシニ……俺、あのアフローズにぜってー勝ちたい」
「おー」
「あいつらに勝てたら……俺は、きっと強く……や、ちげーな、じしん、が持てると思う」
「おー」
「んで、今度こそ、クホに勝つんだ」
「勝てるぞーお前なら!」
「ニシニ……」
ニシニを見れば、満面の笑顔を浮かべている。
「あ、ありがとな……」
照れとうれしさから、顔が少し赤くなる。
その時。
「兄しゃまーー!!!」
「うがああああっ!!!」
弟が、背後にアフロを引きつれて全速力でこちらに向かってきた。
[続く]