第5話
‡第五話‡
「で、ここかよアジトって……」
痩せたアフロ少年――チダユゥは、アッキナが提案した場所を見てうんざりと呟いた。
「なんかもんくあるのかよっ! 俺たちのひみつきちだぜ?!」
そんなチダユゥを睨み付け、タクが自慢気に説明する。
「秘密基地ねぇ……」
モラアフローズがアジトに選んだのは、普段からタク、レラッカ、ア・ヤカの三人が遊んでいる、いわゆる秘密基地だ。
ヴァナーシャ特有の低木の木陰に草を敷き、小さなスペースが作られている。
「アタシらのきちになんかけち付ける気ー?」
「けちけちー!」
「いや……もういいわ、疲れた」
囃し立てる二人の少女に軽い頭痛を覚えながら、チダユゥはアッキナの隣に腰をおろした。
「こんなこと考えるお前もお前だけどさ、気付かねー弟も弟だな」
「あら、そこがかわいいんじゃない!」
アッキナは器用に自分の体に縄を巻き付けながらほほえんだ。
「ほんとはね、今のまま、可愛くてちょっと臆病なままでいてほしいわ。でも、それじゃダメなのよね……」
「ふーん……弟思いなこって」
暗やみの中きゃいきゃいとままごとを始めだしたチビーズを眺め、チダユゥは
「くちゅっ!」とくしゃみをした。
もう太陽はとっくに沈み、夜の風は少し冷たい。
「俺はもう寝る。寝ずの番なんてやってられっか」
そう言って基地の裏手に回ろうとしたチダユゥの腕を、小さな手がつかむ。
「ちだゆぅー! あかちゃんやってー!!」
「はぁ?!」
「ア・ヤカがおとーさんでータクちゃんがおかーさんでーレラッカがおねえちゃんだからーちだゆぅがあかちゃんだよ!」
「おい待て、俺がかーちゃん?!」
「チダユゥはやくしてよねー! アタシの弟やく!」
どうやらチビーズは、チダユゥをままごとに参加させたいらしい。
「お、ま、え、ら〜〜! だぁあれがやるかぁぁ!! アッキナに頼めアッキナに!!」
「だってアッキナさんもう寝てるぜ?」
タクの声に振り替えれば、アッキナはすでに寝息をたてている。
「……私が起きてるわ、って言ったのはどこのどいつだ……」
このまま自分も寝てしまえば、チビーズが何をやらかすかわかったもんじゃない。
「あーわかったわかった! やりゃあいんだろ!!」
半ばやけくそでチダユゥがそう言うと、チビーズはにんまり笑った。
「よしよしチダユゥちゃん、おかーさんがいい子いい子してあげるわよ!」
「姉をうやまえよー♪」
「あかちゃんー!」
「うっせー! つかタク! 気色悪い声だすな!!」
チダユゥが叫んだその時。
「何やってるの?」
少年の声が、どこからか聞こえた。
「い、命はない、だと?!」
ご丁寧にメモまで残していってくれた悪者たちになんら疑問を感じることもなく、アッタカは真剣に焦っていた。
「ニシニ……行こうぜ! いますぐ! ただちに!!」
「まてよアッタカー」
自分肩をつかみ激しく揺さ振る友を、ニシニがたしなめる。
「てきはきょーりょくだぞー。このまま行ってもぼこぼこにされるぞー!」
「くっ……」
それに反論できない自分が悔しい。
「俺は、弱くねー」
「うん、知ってるぞー」
「でも、体力ないのはマジだ」
そればかりはどうにもならない。
病気がちなのは自分の責任ではなく、体が細いのもどうしようもない。
だが、自分には知恵がある。
「ニシニ……俺は確かにやりはふりまわせねー。でも」
かつてシャマイ1とうたわれたモランは数知れないが、その中には、アッタカのように体力のないモランもいた。そんな話を聞いたことがある。
彼が使っていた武器は――
「ニシニ、木の枝をさがすの手伝ってくれ」
「おー。何するんだー?」
「……弓矢を作る」
[続く]