第4話
‡第四話‡
「いって……」
夕方、アッタカは隣で眠る弟に思いっきり腹を蹴られて目を覚ました。
「ばかアッツキ……」
弟の寝相の悪さは天下一品だ。
部屋の窓からは燃えるような夕陽が差し込み、家々で夕飯の準備をする楽しげな音が遠くの方で聞こえる。
「姉さまー」
微妙にお腹の減ってきたアッタカは、姉を探して家のなかを見回す。
「……買い物かな?」
そう呟いた瞬間。
「アッタカアアアア!!!!」
親友の叫び声がこだました。
「ニシニ?! どーしたんだよっ?!」
玄関の扉をあけると、珍しいことにかなり焦った顔をしたニシニが息を切らしていた。
「アッキナねーさんが……ねーさんが大変なんだー!!」
「なにぃっ?!」
ニシニに連れられて広場に向かったアッタカは、その光景に愕然とした。
「アッタカー助けてー!!!」
姉が、羽交い締めにされている。
しかもそいつは、
「な、何者だおまえ?!」
「あー……えーっと……」
「(モラアフローズよ!)」
「あ、ああ、モラアフローズだ」
虹色のアフロヘアに仮面、という出で立ちだった。
アッキナを羽交い締めにしている痩せた少年だけでなく、その後ろに仁王立ちしている三人の子供たちも同じ格好だ。
「もらふ……? おい、ニシニ、聞いたことあるか?!」
「あるぞーえっと……シャマイでもさいきょーのじつりょくをも……つ……えーと、悪いやつらだ! 子供だからってあなな……あなど? っちゃいけないんだぞー!」
所々首を傾げながらの親友の説明に、アッタカは顔色を変える。
「なっ……そんなやつらがいたなんて……!!」
「助けてー!!!!」
姉の悲痛な声に、アッタカは必死で声を絞りだす。
「おいアフロ! 姉さまをはなせ!!」
すると、後ろに控えていた三人が前に出てくる。
「えーはなせって言われてだれがはなすかってのー!」
「てのー!」
どうやら左二人は女の子のようだ。肩をいからせ、あざけるように声を張り上げる。
「大変だぞアッタカー! このままじゃアッキナ姉さんがさられわれ……さらわれてしまうー!」
「なっ……ちくしょおっ!!」
アッタカは、一番小さなアフロに飛び掛かり、
「とぉっ!!」
「ごはぁっ!!」
もう一人のアフロ少年に思いっきり突き飛ばされた。
「アッタカ!!!」
細いアッタカの体が、軽がると吹っ飛ぶ。
「ぶはははは!!」
突き飛ばした方の少年は、両足を開き腰に手をあて、高らかに笑った。
「俺たちモラアフローズにおまえなんかがかなうかな?!」
「くっ……」
見た目自分と同じくらいの年ごろなのに、このアフロはやたらと腕力がある。
「(ほら、そろそろ退場よ!)」
「あ? ああ……えーまぁあれだ、おまえの姉貴はいただいた。かえしてほしけりゃ俺たちのアジトまでくるんだな」
細い少年はそう言うと、一番小さなアフロをだきあげ、次に小さいアフロを背負い、アッキナとまだぶははと笑っている少年の腕をつかんで物凄い勢いで走り去った。
「ま、待てーー!!」
「姉さま……ちくしょおっ!!」
あっさりと姉を連れ去られてしまったアッタカは、自らのこぶしを地面に叩きつけた。
悔しくて仕方がない。
「まただ……また俺はっ……!!」
自分の弱さのせいで、とうとう最悪の事態を招いてしまった。
大切な姉がさらわれるのを、手をこまねいて見ていることしかできなかった……
「アッタカ……ん?」
そんな友を見つめていたニシニが、何かに気づいたように、先程までモラアフローズが立っていた場所に駆け寄る。
「おいアッタカー! こんなものがー!!」
戻ってきたニシニの手には、小さな紙片が握られている。
「え……?」
その紙には、アジトの地図とともにこう書かれていた。
『ここが俺たちのアジトだ。
強い悪者がいっぱいいる。
姉貴を返してほしいなら、明日の昼までにのりこんでこい。
あと、このことを他のやつに言ったら姉貴の命はないと思え』
[続く]