第3話
‡第三話‡
「大丈夫かーアッタカー?!」
いつものんびりした声にわずかな焦りの色をにじませながら、ニシニは地にひれ伏すアッタカの背を擦った。
「アッタカ!」
「兄しゃまぁ!!」
そして、はらはらと様子を見守っていた二人も急いで駆け寄ってくる。
「に、ニシニ……」
ニシニは、アッタカと同世代の赤派の子供たちの中でも、ずば抜けて高い能力を持っているアッタカの親友だ。
三人兄弟の長男で面倒見がよく、いつも笑顔を絶やさない優しい少年だが、本気で怒るとかなり怖い――青派の子供たちからから最も恐れられている一人である。
「ニシニくん、ありがとう……あなたが来てくれて助かったわ」
アッタカの傷の具合を確かめながら、アッキナが申し訳なさそうに言う。
「たまたま通ったら、なんかけんかしてたみたいだったから来たんだぞー」
相変わらずの笑顔を浮かべるニシニを見ていると、妙に安心する。
いつもそうだ。自分は姉や弟、そしてこの気の優しい友人に助けられてばかり……
「アッタカー? どっか痛いのかぁ?」
「やだ泣いてるの?」
気が付けば、大粒の涙がアッタカの頬を濡らす。
「ちがっ……あ、あせが目に入ったんだ!!」
そういいわけしてゴシゴシと目をこするも、涙はとめどなくあふれてくる。
申し訳なさ、悔しさ、そしてなにより自分の情けなさ……
「兄しゃま……」
「アッタカ……」
アッツキとアッキナが、アッタカを抱き締める。
「大丈夫、私があなたを助けてあげるわ。心配しないで……」
その日の午後。
ふて寝したアッタカと昼寝の時間になったアッツキを残し、アッキナはニシニをつれてある人物を探しに出かけた。
「アッキナ姉さん、だれさがしてるんだー?」
「そうねぇ……私たちに協力してくれる人」
「きょーりょく?」
しばらく歩くと、先程とは反対方向の広場に人影がいくつか見えてきた。
「だーからーあんたくれー足速い人じゃねーと楽しくないんだってー!!」
「るせぇなっ! 誰がそんなガキの遊びなんかするかよっ?!」
「あんただってガキのくせにー」
「くしぇにー」
その光景を見て、アッキナはにっこりほほえんだ。
「あら、しかもさらに強力な助っ人達までそろってるわ」
「すけっと?」
アッキナはニシニとともに、ちびっ子たちに囲まれてキレかけているひょろりとした少年に歩み寄った。
「チダユゥ!」
「ああっ?! あ、なんだアッキナか」
チダユゥ・キンビア――シャマイの子供たちのなかでもずば抜けた脚力を誇る一つ年上の少年は、うんざりした顔でアッキナを眺めた。
「ニシニまで連れて何の用だよ? つかこいつらどーにかしてくれ」
こいつら、とチダユゥが指し示すのは、子供ながらすでにシャマイの未来を担うと期待されている仲良し3人組――
「ア・ヤカ、レラッカ、それにタクも、こんにちは!」
「こんにちわーアッキナおねぃちゃーん」
「アッキナさんだー! あ、ニシニも!!」
「ちわっ」
レラッカと、その幼なじみタクは、今年で4歳になるア・ヤカを妹のようにかわいがっている。
「おー! ちわー! 何してんだー?」
笑顔で尋ねるニシニに、ア・ヤカが答える。
「あにょねーおにごっこー!」
「ああ、だからあなたが呼ばれたのね」
シャマイ1の俊足が鬼になれば、そりゃ楽しいだろう。
「ったく……で、お前は何か用事か?」
「あのね、あなたに……いえ、あなたたちにお願いがあるの」
「お願い?」
三人組とチダユゥ、ニシニは、揃って首を傾げた。
[続く]