第2話
‡第二話‡
「兄しゃま! あそぼあそぼ!!」
「うん、わかったから!」
「ふふ、仲良しね!」
まだ5才のアッツキに手をひかれ、アッタカとアッキナは村の小さな広場に来ていた。
「すなあしょびしよ!」
無邪気に指差すアッツキの視線の先には、これまた小さな砂場がある。
しかし。
「あ……」
「兄しゃまー?」
砂場には、アッタカが一番キライなやつが、子分たちとともに陣取っていた。
子供ながらに端正な顔。
どちらかと言えば小柄な体をつつむ、青チェック。
「クホ……」
青派リーダーの家系・スマム家の長男クホは、何かとアッタカにつっかかり、病弱なことをネタにしてはとりまきとともにアッタカを集中攻撃して楽しんでいた。
「アッタカ……大丈夫? 私が追い払ってあげるわよ?」
あからさまにげんなりした顔をする弟に、アッキナが心配気に囁く。
「……いや」
しかし、姉の申し出に、アッタカはゆるゆると首を振った。
いつまでも姉に頼っているわけにはいかない。自分だって、モランなのだから。
「俺が、おっぱらう」
「ア、アッタカ?!」
アッキナの呼び掛けには答えず、アッツキの頭を一撫ですると、アッタカは大股に砂場へと歩きだした。
「あ! アッタカだ!!」
クホの腰巾着その1が、アッタカが歩み寄ってくるのを見てわざとらしく声をあげた。
「うわっ、何しに来たんだよー」
「やめろよなー病気うつる!」
いつも通りの腰巾着たちの罵声に内心沸々と怒りながらも、アッタカはクホを真っすぐみつめた。
「なぁ、この砂場、お前たちだけのじゃないんだ。ちょっと場所をあけてよ」
怒りとほんの少しの怖さに震える声を絞りだす。
「…なに、お前、ここで遊びたいの?」
しかしクホはそれに気付いていないのか、いつもどおり情を感じさせない、しかしやけに芝居がかった声で答える。
「だ、だったら何?」
「ゆずってほしいんなら、俺と勝負しよーよ。モランなんだから、ほしいものは力ずくで手に入れなきゃさー」
それを聞いた腰巾着たちは、いやな笑い声をあげてはやしたてる。
クホは確かにむかつくガキだが、その実力は長老たちも一目置くほどだ。
腰巾着にすら勝ったことのない自分が、その親玉に勝てるわけがない。
「いいぞーやれやれ!」
「クホくんに勝てるわけねーよ病弱!!」
でも。
「……おい、今何ていった?」
「うわっ! 出た!! 最後の悪あがき!!」
「ブラックアッタカだー!!」
喧嘩に負けるたびに悲しそうな顔をする姉。
擦り傷だらけの自分を心配してくれる弟。
「ぎゃははは! じょうとーじゃねーか!! 受けてたつぜ!!」
こいつに勝てば、俺は強くなれる。
家族を心配させない、強いモランに――
「だははは! だっせー!!」
「口だけかよ!!」
「クホくんさいきょー!!」
結果は惨敗だった。
「まぁまぁ、負けたヤツをののしるもんじゃないぜ。こいつもこいつなりに力をつくしたんだ……けいいをはらえ、モランなら」
「……っくしょぉ……」
クホの大げさな台詞に怒る気力も体力も、もう残っていない。
「おいアッタカ! これでわかっただろ! クホくんにちゅーせーをちかえよ!!」
「……っ……」
後ろの方から、姉と弟の視線を感じる。
俺はまた……
「こらあああああ!!」
その時、どこからともなくどこか間の抜けた声が響いてきた。
ついでに、ドタドタと走る足音も。
「あ! やっべニシニだ!!」
「クホくん、逃げようぜ!!」
「ふん、ニシニか……」
残念そうにアッタカを一瞥すると、クホ一味はさっさと公園をあとにした。
[続く]