第1話
‡第一話‡
「や〜い! 病弱〜!!」
「地鼠も捕まえれないもんな〜お前なら!」
「そんなんじゃモランになんかなれねーやぃ!!」
生まれ付き、体が丈夫な方ではなかった。
医術師である父にも完全には治せず、しょっちゅう気管支を患っていたし、どんなに鍛練しようと思っても体力は続かず、体付きも貧弱だった。
「おれは……」
アッタカ・マウアは、そんな自分が大嫌いだった。
――13年前、ある日。
「アッタカ〜、朝ですよ〜!」
昨晩からまた体調を崩し臥せっていたアッタカの耳に、優しい声が届く。
「……う……もう朝……?」
窓にかかった簾の間から差し込む柔らかな光に、アッタカは目をしょぼしょぼさせる。
「具合はどう、アッタカ?」
心配そうに部屋に入ってきたのは、2才年上の姉、アッキナだ。その手には薬の乗ったお盆を抱えている。
アッタカの父は医術師で、母もその手伝いをしており仕事が忙しく、二人ともほとんど家にいない。だからアッタカと弟アッツキにとっては、アッキナが母親のようなものだった。
「おはよう、姉さま……ぐあいはもういいよ」
ぐっすり眠ったおかげで、昨日よりはだいぶん体が軽い。
「そう? アッタカはすぐ無理するんだから……はい、これお薬。」
差し出された薬を一息に飲み干す。
「ふぇ……にが……」
「これくらい我慢しないと。男の子でしょ!」
陽気にそう言うと、アッキナは簾を巻き上げた。
「ほらアッタカみてみなさい、今日はすごくいい天気!」
「ほんとだ……」
雲一つない青空が眩しい。
「そうだ、たまにはお外に遊びにいきましょう! 気分転換にもなるし、良いと思わない? アッツキとあなたと私で!」
名案、とばかりに手を打ち、うれしそうに提案する姉。しかし……
「いやだ……」
外に出れば、また皆にからかわれるに決まってる。
いつもそうだった。
一緒に狩り遊びに行っても体力のないアッタカは皆についていけず、お荷物扱いされた。
ムラナッカ塾(シャマイの学校だ)では、心ない子供たちにずる休みなんじゃないかと陰口をたたかれているのも知っている。
クホには、体の弱い自分はシャマイ失格だとまで言われたこともある。
そうやって言われ続けて、卑屈になって……いつしかアッタカはすぐにキレる軽い二重人格の子供になっていた。
だから、極力人とは会いたくない。ひどい事を言われるのも嫌だし、何よりキレてしまう自分が……
鬱々と押し黙ったアッタカが、ふと頭にぬくもりを感じた瞬間。
「ぎゃあああっ!!! いてぇぇええええええっ!!!」
「てめぇあたしのナイスアイディアが気に食わないとでもゆーのか、ぁ〜ん?!」
先程までの穏やかさはどこへやら、弟の頭を絞り潰さんばかりに握りしめたアッキナが、地獄の底から響くような声を出す。
「いえ!! まったく!! 全然さんせいっす!!」
「そぉだよな?! 行くよなぁ、ぁあ?!」
「はいいいい!!!」
ほとんど悲鳴に近いような声でがくがくと頷くアッタカ。
するとそれを見て満足したのか、アッキナは弟の頭から手を放し、にっこり笑った。
「ふふっ、そうよね、外の空気を吸えばきっと元気になるわよね! じゃあ、はやく支度なさい♪ 私はアッツキをつれてくるわ!」
「……」
ずきずきと痛む頭を抑え、アッタカはただただ頷いた。
[続く]