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詩&短編集

冬の夜空

作者: 木下 碧

一応残酷描写には入らないと思うんですが…

入りそうだったら言ってくださると助かります。

 冬の冷たい風が傍を通り抜け、余りの寒さに僕はその場で身震いした。


 吐き出す息は白くなり、クリスマス後のツリーやお正月のバーゲンのチラシの残骸が今年も無事一年が過ごせた事を感じさせる。


 町の風景をボンヤリと見つめていると、不意に後ろから聞きなれた声が聞こえた。


 「なにしてるの?」


 振り返るとそこには愛しい恋人が立っていた。彼女はにこっと笑って僕の腕に手を絡ませてくる。


 僕はその可愛らしい行動に思わず頬を緩めながら答えた。


 「ううん、なんでもないよ」

 「ふ~ん」

 「ところで、それ新しく買ったの?」


 僕は頭に見慣れないものが付いているのに気付きそう尋ねた。それは白と青といういかにも彼女がすきそうな色をしている。


 「あ、うん。このヘッドフォン前から欲しかったんだ~」

 「似合ってるよ、色がピッタリだ」

 「ほんと?ありがと」


 「えへへ」と照れくさそうに笑うと、彼女は更に体を寄せてきた。外の気温は寒いのに、体を寄せ合っているのでとても暖かく感じ、「ああ、自分は今幸せなんだ」と実感する事ができる。


 「あ、信号青になったよ!」

 「はいはい」


 信号が赤から青へと変り、僕はゆっくりと歩き出した。せっかちな彼女は僕の歩みが遅いからか、腕を離してパタパタと駆け出す。



 その時だった。



 「プーーーーーー!!!!!!」



 けたたましいクラクション音が響き、一台のトラックが信号を無視して横断歩道に突っ込んできた。

 ほかの者はそれに気付きすぐさま避けたが、彼女…彼女だけはヘッドフォンのせいで音が聞こえにくいのか気付くのに遅れ、その場に立ち竦んでいる。


 「えっ…あっ」

 「危ない!!」


 僕はすぐさま彼女を突き飛ばそうとした

 …がもうそれは既に手遅れだった。

 



 それからはまるでスローモーションのように時が過ぎるのを感じた。





 視界いっぱいに広がる鮮やかな赤。

 目の前をゆっくりと過ぎていくトラック。

 周りの人々の悲鳴や叫び声。

 ゴムの焦げた匂い。

 トラックに跳ね飛ばされ、丁度僕の足元に振ってきた彼女の体。

 そして投げ出された青と白色だったはずのヘッドフォン。





 僕は自分の足元にある彼女を見つめた。


 彼女はさっきまでの笑顔をなくし、人形のように無造作にそこに置いてあった。


 「ねぇ…ねぇ嘘だよね?死ぬなんて…そんな事ないに決まってるよね……?」


 答えなど当に分かりきっている問いを足元の彼女を抱き上げながらした。


 

 当然彼女は答えるはずも無く、その体はみるみる熱を失っていく。


 「お願いだから…お願いだから返事してよ…」


 頬を撫で胸に手をやると、心臓は音を立てておらず、急いで口元に耳を当てても、もはや息などするはずも無かった。


視界がぼやけ、目から涙が零れ落ちた。



 「う、嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」




 冬の夜空に僕の絶叫が響き渡った。


 そして道端に落ちている青と白色だったはずのヘッドフォンは、彼女の血で深い赤へと染まりあがっていた。


感想&評価いただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ショッキングな内容ですが、素直な文体だと感じました。
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