さん
「ご迷惑おかせました。それでは、失礼します。」
タロを受け取って、ママと珊瑚は山田さん家を出ました。
途中、庭をちらっと見ると、確かに大きな鳥小屋がありました。
「それにしても。立派な鳥小屋ですね。」
ママが、思わず、といったふうにつぶやきました。
「いえいえ、そんなことないですよ。」
山田さんと、鳥小屋について話し出したママを見ながら、珊瑚が、
「タロ、ねぇ、何がわかったの?」タロに話しかけました。
「…珊瑚、とにかく、あの鳥小屋を見に行け。」
「…?」
珊瑚は、ベビーカーの中で、とりあえず鳥小屋の方に手を伸ばし、ママに『鳥小屋見てみたいの』とアピールしてみました。
ママは、山田さんとの話に夢中で、なかなか珊瑚の行動に気付いてくれません。
「ママ!」
思い余って、珊瑚は泣き出しました。すると、やっとママが気付いてくれました。
「珊瑚?どうしたの?」
よしよし、と言いながら、ママが珊瑚を抱っこしてくれました。
山田さんも、珊瑚の顔を覗き込んで、
「おや、可愛い赤ちゃんだね。そんなに泣いてたらべっぴんさんが台無しだよ。」
なんて言っています。
珊瑚は、一生懸命、鳥小屋に向かって手を伸ばしました。
それに気づいたママが、珊瑚を抱っこしたまま、
「なぁに、珊瑚、鳥さん見たかったの?」
なんて言いながら、鳥小屋の方に連れて行ってくれました。
ママに抱っこされながら、鳥小屋の中をのぞいて見ると。
「ピィちゃん?」
ママが気づいたようです。
珊瑚も気づきました。あのちっちゃい黄色い小鳥。頭のてっぺんにだけ、白い毛が生えています。
「あの、山田さん?あの頭のてっぺんが白い黄色いインコ、って…?」
「あぁ、あの子ね、随分弱ってここの鳥小屋の前で倒れていたの。あの子を見つけたのも、うちの孫でね。」
そのあとも山田さんは、うちの孫がどういう風にピィちゃんを見つけて、どういう風にピィちゃんを捕まえたのか、そしてそれは、孫が小さな迷い鳥を心配してのことで、孫がどんなに優しい子か、ということを滔々(とうとう)と語ってくれました。
が、相づちを打ちながらも、ママは山田さんの話を聞いていませんでした。ただ、じっと珊瑚を見つめていました。
ピィちゃんが見つかった時、珊瑚がタロと目を合わせてにっこり笑ったように思ったからでした。
帰り道、疲れたのか、眠ってしまった珊瑚のベビーカーを押して歩きながら、ママは一人でつぶやきました。
「なんだか、珊瑚にいいように使われた感じよね。」
あのあと。あさちゃんのママに、ピィちゃんが見つかったかもしれない、と連絡して。そしたら、あさちゃんのママがその場で、山田さん家にピィちゃんを見に来る約束をして。
あれよあれよと言う間に、ピィちゃんは、あさちゃんのところに帰ることができそうです。
「珊瑚、あんた、ピィちゃんがここにいるって知ってたんでしょ?」
ママは眠っている珊瑚に話しかけます。
そして、やっぱり思うのです。
赤ちゃんって、私たちには見えないモノも見えているんじゃないのかなぁ。で、大人の話とかも、みんな聞いて理解してるんじゃないかな、っていっつも思うの。ただ、自分が理解していることを、まわりの大人に表現できないだけで。
ママはにっこり笑いました。
「ま、いっか。ピィちゃんもあさちゃんのお家に帰れそうだしね。きっと、珊瑚とタロのおかげだよね。」
暖かい春の日差しが、ご機嫌に眠る珊瑚に、静かに降り注いでいました。




