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親愛なる、

Dear my love.

「ずるいわね」

 ゆるゆると微笑みながら、メルカナ・クルエルズは一人呟いた。

 茜色に染まる部屋の窓際に立ち、彼女は城の中庭を見下ろしていた。その視線の先では、二人の男女が額を寄せ合っている。

 今が盛りと咲き乱れる花々の隙間で仲睦まじく寄り添うその情景は、一枚の絵のように麗しい。

 落日に映える金の髪と、黒の髪。

 そのどちらもを、メルカナはよく知っていた。

 当然のことだった。男はこの国の王、女はその花嫁であるのだから。

「裏切ることなんてできやしないって、分かってるくせに」

 幸せそうに笑う彼らから視線をはずさぬまま、彼女はぽつりと言う。

 感情など込めずに、ただ言葉を落とす。

「愛していると、言ったくせにね」

 少しだけ照れたようなその表情がくすぐったくて、とても嬉しかった。

 顔が朱に染まるのが自分でも分かったから、目を合わせずにあたしも、と返した。

 幸せだった。

 そんな折、城仕えの友人が恋をしたと言ってきた。頬を染めて、その経緯を語るその姿はいかにも恋する乙女といった風に可愛らしく、微笑ましかった。相手の名は聞かなかったが、普段は物静かな友人がそんな風になるのだから余程の男なのだろうと思っていた。初めての恋に一喜一憂する彼女をつついて、からかって、拗ねたら助言をして。

 そんな賑やかな日々が、いつまでも続けばいいと、メルカナはそう願っていた。

 幸せ、だった。

 恋した人と結ばれて、愛すべき友人を見守って。

 その日常はある日、実にあっさりと崩れ去ったけれど。

「ずるい、わ」

 眼下で二人が笑っている。笑っている。一点の曇りもなく、ただ朗らかに、楽しげに。

 自身の笑みはいつの間にか消えていた。外界を拒むように、彼女は目を閉じる。

 明確な裏切りに、心が震える。ざわざわと、揺れる。

 彼と婚約をしたと話す友人の、その幸せそうな表情が脳裏から離れない。消えてくれない。そのときメルカナが抱いた感情は紛れもなく嫉妬だった。裏切られたという悲哀だった。

 それなのに反転させることもできない恋情が、友愛が今、メルカナを苦しめる。

 ―――なぜ、愛しさが消えないの。

 ――――なぜ、憎むこともできないの。

 メルカナは、ゆっくりと瞼を開く。

 視界には口付けを交わす二人の人間が映る。メルカナにとって恋人であった男と、友人であった女。この国の王と、その花嫁。

 顔を歪めて、彼女は再び笑う。先程とはまるで異なった泣きそうな目で、けれど涙は浮かべずに、わらう。

 答えなんて見つかりはしないけれど、ただ、嗤う。

 見つかろうと見つかるまいと、彼女の行動はきっと同じだから。

 魔術師の長として、国のために、王のために、民のために、力を振るうだけなのだから。

 メルカナは静かに窓辺を離れ、その場を後にした。


 窓の外では、若き国王と侯爵家の姫君が逢瀬を重ねている。

 暗い部屋には、誰もいない。

多分、その内続きを書くと思います。

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