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雪、はちみつ、木曜日

作者: 柊木 深月

今日ののお題

?雪

?はちみつ

?木曜日

 

 「起きてください。お兄様」

優しく起こしてくれるのは、最近中学生になったばかりの妹だ。兄妹の中は人並みに仲がいいと思っている俺は、今日も妹に起こしてもらう。

「おはよう。千夏」

「おはようございます。今日もいい天気ですよ。お兄様」

「そのお兄様は、やめてくれないか。少し恥ずかしいのだが‥」

「うーんそうですねぇ…じゃぁお兄ちゃんとかのほうがいいのでしょうか」

「そうだなぁ兄としてはそのほうがたすかる」

寝起きでそんな会話をするなんて想いもしなかった。ご飯は何?と千夏に聞くとトーストと目玉焼きですよ。とニコッと笑ってくれた。俺達の両親は共働きでおうちに居ないことが多い。月に一度は家族で団欒するという決まりがある。それが、第三木曜日。つまり、今日を指す筈だ。

「そういや、今日は、父さんと母さん帰ってくるんだっけ?」

「そう……ですね。第三木曜日なので」

 別に、親が嫌いとかそういう訳ではないのだが、何か月に一度しか会えない人となると、毎回緊張する。

「じゃぁ、今日は、早く家に帰ってくるの?」

「そうですねぇ…特に用事がないのでいつもどおりですかね。」と、妹。淡々としてる。時々距離を置かれているのか俺が被害妄想七日は定かではない。朝食を食べ終え、それぞれの学校へと向かう。

 ♪


学校が少し遠いので俺は、いつも自転車通学だ。高校入学時に親に買ってもらった。最新型のマウンテンバイク。今じゃ俺の相棒だ。

どこに行くにも結構このマウンテンバイクにまたがる。学校への道のりは平坦な道で非常に楽なコースになっている。他の学生たちも自転車通学が多くて、自転車を止めるスペースが結構設けられている。いつも、教室付近のスペースは倍率が高い。特進の奴らがいつも独占している。奴らは、俺らよりも一時間早く授業が始まる。大学進学をメインとした学科だった。そんな俺は、平凡でなんとなく高校に、はいったくちだった。将来の夢なんてまだ全然決まっていないしとりあえず、中学の先生に進学だけはしとけと言われたのでとかそんなもん。成績は人並み。まさに、平凡な高校生だった。ただなんとなく学校に行って友達とつるんでわいわい楽しくやって。

もし、俺が小説の主人公ならば絶対に受けないしただ、平凡だ。なんて書かれているに違いない。俺から的外して今日は、青空が澄み渡っていて今日も綺麗だ。なんてフレーズが似合う。

 後ろから猛烈なスピードで俺に向かってくるやつがいた。俺の悪友というか、昔からのダチって言うか、幼馴染みというか。

「よう!おはよう」

「はいはい、おはよう」

「なんだよ、不機嫌そうだな」

「そうだな、朝からお前の顔をみたからかな」

「うそーん俺ってそんなにいらない子なのか……」

 こんなやつをかまってる暇があるなら俺は急いで学校へと向かう。後ろからまってよなんて声がきこえたような気もするが俺の空耳として無視と言う選択肢を決めた。

――教室。

「千夏ー!今日もかわいいよー」

「今日も元気がいいですね。ゆかさんは」

「あーもう、あたしら、友達だから敬語はよしてって言ってるじゃんかぁ」

「そんなこと言われましても…」

あたしの癖なんです。もちろん昔は敬語やタメ口を使い分けていたんですが、いつのまにか敬語だけを使っている自分に驚いているばかりです。私の両親が多忙で、月一回にしか、会えない環境がそうさせたのかはわかりません。私には、お兄様…お兄さんがいるのですがお兄さんは、普通にタメ口で両親と仲よさそうにしゃべるのであたしは少しお兄さんがうらやましかったりもします。

「あれぇ?何ふけっちゃってるの?あ、そっか今日はあの日か」

「はい…あの日です。やっぱり気恥ずかしいですよね。両親なのに緊張してしまうなんて」「まぁ、千夏のお父さんとお母さん忙しいもんねぇ…」

「はい…」

 彼女は、数少ない私の友人で一番親しくさせてもらっている。色々相談にのってもらったりのせられたりとあたしは仲がいいと思っています。

「まぁ。月一回なんだから楽しく過ごせるようにしなきゃね!」

 そう言って彼女はにこりと笑う。それと同時に授業開始のチャイムがなった。


今頃両親は俺達にあうのを楽しみにしてるのだろうか。ふと疑問を感じ始めていた高二の授業前。ほんとうは、めんどくさくて俺達に愛情はないのではないかと思わせられた。それも、俺の被害妄想なのだろうか。家族で集まるとずっしりと空気が重くなる。まるでこう、威嚇しあっているような感じで…妹が敬語をだけを使うようになったのはもしかしたらこれが原因なのかもしれないと一人で妄想する。すでに、授業は始まっているらしく先生が黒板に何かを板書しているがやる気が起きずに窓越しの風景を眺める。夏の空って感じで雲が大きく立ち上がっているようだった。授業は何事も無く進み、結局何も情報を得ること無く終わっていた。

「おつかれ。今日も先生は絶好調に一人で喋ってたね」

「お、おう。」

「なんだよ、お前の上の空か」

「おう…」

「つまんねーなー」

「別に…」

 別に今、お前と話す気になれないだけなんても言えなくて、ただ明後日の方向にボールを投げる。今誰とも話したくなそんな気分だった。

「しょうがないなぁ…」と、悪友はどこかへと消えていった。

 学校なんて早く終わればいい…退屈でしかたなかった。



「 今日の給食はなんと!あげぱんだぜ」

 なんてクラスの男の子達がはしゃいでいる傍らあたしは気分が上がらないのでした。こんな気持は初めてで、今日は…今日だけは、両親に会いたくないです…そんな気持が胸の内をよぎるのです。

「千夏?どしたー?今日はほんっと元気ないねぇ…」

「は、はい…今日は何か良くないことが起こりそうで…」

「ん?んん?たとえば?」

「そんなことはわからないですが…」

「んまぁ。そんなこと気にしてたらおいしい給食も美味しくなくなるよ!」

「そうですね。わかりました。あたしあげぱんはすきなんですよ。とくにはちみつがかかったあげぱんは…」と、あたしが宣言した通りにあげぱんのとなりにはちみつの入れ物があったのです。

「あl!千夏が大好きなあげぱんじゃん!」

「そーですね私の大好きなはちみつ付きのはちみつあげぱんです」

 先程まで悩んでいたことを忘れたかのように私は、給食にとりつかれていました。こうも好きな物がでると後先がどうでもよくなることがあるものですね…

「おいしいねーやっぱり、パンの中のバターとはちみつがあうんだよねー…」

 あたしは、彼女にうんうんとうなずいて、給食を美味しく頂いたのですが、その間にあたしの知らない間に大変なことがおこっていたらしいのです。


親から連絡があったのは、午後の授業の時だった。

「あ、はい…わかりました」

 突然の知らせだった。母親が倒れた…らしい。原因は多分一つしか無い。働きすぎだ。しかし、親ふたりとも仕事が生きがいな感じで一生懸命に働いていたのにそんな母さんがなぜ倒れたのだろうか…なんて疑問を感じてしまった。

「すいません。母親が倒れたらしいので早退します」俺は先生にそう告げ母親のいる病院へと向かった。妹にも連絡はいっているだろうか…なんて頭の片隅に思い浮かべながら。病院は意外と近く自転車を精一杯全力でこいで十五分くらいの場所だった。そこは、いかにも病院というところで病院独特の匂いを感じた。受付に母親の名前をつげ、どこの病室か尋ねた。

「三階の三一五号室です」

「ありがとうございます」

 俺は急いでそこへと向かった。

「母さん!」

「あら、あんたなんでここにいるの?」

「いや、母さんが倒れたって聞いたから」

「なるほどぁ私を心配してか…ありがとう」

「そういうことだ。千夏はしってるの?」

「あの子は知らないと思うわよー連絡してないから…」

「そう、なんだ・・・なんで?」

「いやぁ、弱い部分を見せたくないのよあの子に…」

「なんだそのワガママ。母さんってそんな人だったけ?」

「そうよ。私は、こんな人間」

「あ、父さんは?」

「あの人はまだ仕事中じゃないかしら?相変わらずよねぇ…妻が倒れたってのに…まぁいいんですけど」

「でも、二人って変わってるよねぇ」

「あらそう?上手くやっていると思うけど…?」

 本当にこの二人がなぜ結婚まで至ったのかさえ分からないくらい二人は顔を合わせない。

本当に月に一回。それで円満だと言う。

「俺は…俺はもっと家族といたいし話もしたんだけど…」

「めずらしいわね、あなたがこういってくるのは……」

「最近なんか妙に疑問を感じてしまって…元々離れているのに、さらに距離を置かれている感じがしてさ…」

「そう…あんたたちには苦労かけているのは承知なんだけどねぇ…特に千夏には…」

母さんにはやはり、千夏の事を気にしているようだった。なぜ千夏が普段から敬語を使っているのかを…母さんは私のせいだといった。なんでもかまってあげれなかった。だから、千夏は誰に対しても敬語を使いって一歩引いいた感じになってしまったと。だったら…なんでもうちょっと千夏を大事にしてあげれなかったのか…俺は母さんに問いた。

「仕方なかったのよ…あの時はさらに仕事が忙しくなってしまって貴方達の母親失格ね…」

 母さんが、そう言って沈黙が流れた。誰も悪くないと思いたかった。その希望が音を立てて崩れて言った。

 「そう…ちょうど、雪の時期だったわね彼女が生まれたのは…なぜ彼女に『千夏』という名前をつけたのか知りたい?」

俺は素直に頷いて母さんの言葉に耳を傾けた。

「なぜかと言うとね……そうあの時は本当に寒くてね。お父さんとどんな名前にしようかなんて病院で考えていたんだけれど…まぁ…単純に寒さをしのいで、千回夏を過ごせるようになんて素敵ねなんて私が言ったからって言うのもあるのだけれど…私には、妹がいたのよ…小さい頃になくなっちゃんだけど…その生まれ変わりなんじゃないかって勝手に思って妹の名前を借りたっていうのも本当だったりするんだ」

「へぇ…母さんに妹がいるなんて知らなかったなぁ…」

「そうね。お父さんにもこの話はしたことないわ。あなたが第一号ってわけ」

「そっか…ありがとう選んでくれて…」

「どういたしまして…」

 俺の名前の由来も聞こうとしたけれど、何か恥ずかしくなってあえて、聞かなかった。

「あ、今夜はどうするの?」

「そうねぇ。どうしましょうか?」

なんて、話をしていると父さんが慌ててこちらへと向かってきた。

「大丈夫かアキ?」

「あら、お父さんそんな急いでどうされたんですか?」

父さんも母さんが倒れたと連絡を受けて心配で仕方がなかったらしい…

「いやぁ仕事が終わらなくてさ…」

「いいのよ。それがあたしたちなんですもの」

「んーそうだな…」

 何か腑に落ちない様な感じが否めなかったのか首をかしげていた。

「まぁ大丈夫そうなら良かった。医者には外出の許可をもらったから家族で御飯食べに行くぞ」

 俺達は頷いて、どこでご飯をたべるか決めた。



「やっと、学校終わったねぇ」

「そうですね。今日は何か一段と疲れました…」

「まぁ。仕方ないこれから親にあうんでしょ?」

「そうでした…」

「あらら。本当に忘れてたとは…はつみつあげぱん恐るべし…」

 そうして、私は、学校をあとにして、家に向かった。多少緊張しながら…

「ただいま…って誰もいないか…」

 あまり好きではないです。このひとりだけの世界は…淋しいという感情が一気にこみ上げてしまう。早く帰って来ないかなお兄さんん。「こんな時は、どうしたらいいのですか」なんてひとりごちてみる。もちろん返答は帰ってこないわけですが…。一人は、窮屈で退屈で寂しくて一番嫌いな時間です。よりによって嫌な予感がするのです。そうこう考えているうちに時間がだいぶ過ぎたのかあたりが暗くなっていることに気がついたのでした。すると、玄関先からインターフォンがなり、誰かが帰ってきたようでした。

「ただいまーごめんおそくなったー」

「お兄ちゃんおかえりなさい。遅かったですね。今日は両親とあう日なんですから…」

「そうだな…じゃぁ早速いこうか」

「そうですね。出かけましょう…ってえ?」

「あ、もう場所は連絡いれたんだよ。久しぶりに、千夏の好きなお店いこうって」

「あたしの好きな食べ物屋さん…ですか」

あたしが好きな食べ物は、はちみつあげパン…他には…色々あるけれど…なんでしょうか…考えに考えたけど最後まで悩んでいました。あたしは、お兄さんについていくだけの形なってしまい。手を引かれながら付いていくのです。付いた先は、私が一度両親に連れて行ってもらった唯一の場所でした。

「ここは…」

「そう、母さんが白状してくれたんだ」

「そうでしたか…」

「そう。千夏が初めて連れていってもらった場所なんでしょ?」

「はい…」

 私は、うれしくて涙が出そうになりました。ここを覚えていてくれたのが…心の何処かで私は両親に見捨てられているなんて思ったりしていた。だから、余計に嬉しかったのです。

「あら、千夏…」

「あ、お母さん」

「一ヶ月振りかしら?」

「そうですね。一ヶ月ぶりです」

「大きくなったね」

「はい。大きくなりました。それに今日いだいていた不安なことが間違っていてよかったです」

「それは、よかったわね」

「おとーさんもわすれてるぞーちなつー……」

「お父さん!元気そうで」

「おいおい俺はそっちのけかよ」

 私たち、家族はこうやって賑やかに一ヶ月に一回家族と団欒する。それが普通。他の家族はどうなのかは知らないけれど…あたしにとっては、これが普通。この日をあたしは、楽しみに生きているのかもしれない。今そう思えた。だから、もっと…もっと今日は皆に甘えたい。そう思えた。

「お母さん。お父さんこれからもよろしくお願いしますね!」

「なんだよ、改まって」

「そうよー千夏は私たちの娘なんだから」

 あたしのなかで何かがはじけたきがした。いろんな物が吹っ切れて楽になったきがした。あたしはこの家族に支えられて生きているんだと…。

                END

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