二人残されて
『ピクニックに行こう!!』
全てはその言葉から始まった。
隣を見て見る。
嬉しそうにしっかりと僕の腕を抱きしめている悪魔の姿がある。
そして、次に周りを見回してみる。
けれど、そこには、誰の姿もない。
あるのは、ごつごつとした岩の壁だけ。
とりあえず、今僕と悪魔は二人きり。
どうして、こんな事になってしまったんだろう。
まぁ、雨が降り出して、ここに避難してきたんだけど。
とりあえず、そう言う事じゃない。
最初は、六人だった。
ピクニックに行こうという、突然の彼女の提案を最初は却下した。
だが、あまりにもしつこかったので、条件をつけて、六人で行くということだったはずだ。
二人きりだと貞操が危ない。
そう思っての事だった。
だけど、気がつくと二人きりだった。
我が友瀬川と我が盟友の菅原教諭。
とりあえず、一番の友人のくせに、ようやく名前が登場だ。
そして、その二人の狙っている女性。
その四人が忽然と姿を消したのだ。
いや、もうここまで来れば、全て分かっている。
きっと、騙されたのだ。
はかられたのだ。
我が友達は裏切り、悪魔の牙城に落ちたのだろう。
とりあえず、条件はそれぞれの思い人と二人きりにさせると言う事だろう。
くそ、僕とした事がなんとうかつだったのだろう。
もう少し考えておけばよかった。
とりあえず、保険をかけていればよかったのだ。
偶数がいけなかったのだ。
奇数にしておけばこんな事態にはならなかった。
「ねぇ、こんな薄暗いところに二人きりだとどきどきするよねぇ」
そして、彼女はさらに身体を摺り寄せる。
おまけに、胸を腕に押し付けてくる。
どうやら、ここらへんで誘惑しておくつもりなのだろう。
これは困った。
とりあえず、色仕掛けに落ちるほど、愚かではないが、それでも貞操の危機には違いない。
いつ、押し倒されるか分かった物ではない。
男として生まれてきた以上、女に押し倒されるなんて屈辱でしかない。
それに、やはりこういう事はお互い好きで、合意の下でやるのが一番だ。
こんなのは、やはり正しくない。
よし、ここはとりあえず、
「雨止みそうもないから、急いで戻ろう?」
この場所から退避するのが一番。
「ええ、でも、濡れるよ?風邪引いたら大変だし」
だけど、こちらの思惑なんて分かっているんだろう。
そう簡単にうんとは言わない。
「じゃあ、僕が一人で行くよ。これぐらいなら、多分大丈夫だし」
なら、一人で行けばいい。
とりあえず、彼女と二人きりじゃなければそれでいいのだ。
「う~」
そして、そんな僕の答えに彼女はうなる。
とりあえず、このままでいられない事は彼女とて分かっているんだろう。
ピクニックと言えば山。
山となればとりあえず通信手段の内携帯は使えない。
電波がところどころ届かない。
よって、いつまでもいたら、遭難の可能性とてある。
「あたしも一緒に行くよ」
とりあえず、諦めてくれたらしい。
彼女は不承不承にそう言うと、立ち上がる。
どうにか、一応貞操の危機を乗り越えたらしい。
「ただ、あたし足が遅いから、手を握っててね」
まぁ、まだしつこく食らい突いてくるが。