莫迦みたい
「また、逃げられちゃった。」
あたしは、ため息混じりそうつぶやく。
もう既に、視界には、彼の姿はない。
いつも、そうだ。
あたしが近づくと彼は逃げる。
一緒に居る事すら嫌そうな顔をする。
まぁ、ヴェロナのカフェロワイヤルを食べたのがいけないんだろう。
なんて、そんな事言ったところで、本当の事は分かっている。
彼は、あたしの事を好きじゃない。
だから、距離を置くのだ。
期待させないように。
あたしが傷ついたりしないように。
彼は、本当に変なところで優しい。
あまり優しい言葉とか投げかけたりしないし、冷たく切り捨てるような事を言う。
だけど、時々、ふと感じる。
彼の穏やかな優しさを。
彼も、それに気付いているんだろう。
そんなときはいつも皮肉気に笑う。
そんな彼を見て、あたしはいつも胸がしめつけられるようだった。
まるで、自分の事のように切なく思えた。
そして、あたしは彼にいつしか恋心を抱いていた。
目に追っている間に気がついたら、好きになっていた。
だから、何が何でも手に入れたかった。
彼を幸せにしてあげたかった。
もう、そんな笑みをさせたくなかった。
だけど、そんな気持ちとは裏腹に、彼をどんどん追い詰めていく。
彼を幸せにしたい。
そんな名目の下で、彼の全てを手に入れようとしている。
彼の気持ちなんて考えずに。
だから、時々思う。
あぁ、なんてあたしはばかなんだろうと。
恋をしたら人はまともじゃなくなる。
友達は皆そう言っていた。
あたしは、そんな事話半分に聞いていたけど、今になって理解できた。
理屈で行動が出来なくなる。
自分の今まで見た事ない一面を垣間見る事になる。
だから、あたしはばかなことをしてしまう。
止まらない。
止まれない。
止まるすべを知らないから。
止めるすべを知らないから。
こんな想いを抱いた事なんてない。
だから、あたしは、彼を追い続ける。
彼を求め続ける。
それは好きだから。
恋をしているから。
恋は下心。
相手の気持ちなんて関係ない。
あたしは、彼を手に入れる。
それが、今のあたしの生きる意味だから。