自己流
今日の家庭科の授業は、調理実習だった。
メニューは決まっていない。
適当に自分達が好きなように決めろ、との事だった。
とはいえ、ちゃんと予算は決まっている。
まぁ、予算を無制限にして、目玉が飛び出るような額にでもされたら困るだろう。
実際、最初の内予算の事何も言わなかったら、馬鹿みたいに高い額にした奴もいたそうだし。
もちろん、それが誰なのかは言わなくても分かるだろう。
金銭感覚のずれた人間なんてこの学校にそうはいない。
もちろん、クラスが別だから、その様子は見れなかったけど。
まぁ、見たいとも思わないけど。
さて、それはいいとして、さっさと調理を進める。
僕の班は僕と瀬川の二人だけ。
本当なら、もう二人ほど女子がいたのだけれども、いなくなってしまった。
まぁ、理由はある程度予測が付く。
あの悪魔だろう。
あの悪魔が、女子は何人たりとも僕に近づけないために、教師にまで根回ししたのだろう。
よく、そこまでやるといった感じだ。
とはいえ、そのおかげで仕事は倍増。
なので、間に合うかどうかは、微妙。
というのが、普通なのだが、残念ながら、僕は違う。
極悪母の下、生きてきた十数年間。
そのおかげで、料理を覚えた。
なので、時間短縮なんてお手の物。
とりあえず、朝食なんて作ってくれなかったから、時間短縮の技を覚えないと、作っているうちに、登校時間になったりする。
「いくぞ、瀬川一兵卒」
「いつのまに、そこまで、位が下がる?!」
「うるさい、下士官は上官の命令に忠実に従えばいいのだ。」
だいたい、下がって、当然なのだ。
全く役に立たない、それどころか害毒にしかならない男など。
僕だって、何度か降格の憂き目に会ってきたのだ。
それをなんとか越えて来たからこそ、今もまだ大佐でいられるのだ。
いつかは、議長にまで上り詰めるつもりだから、何が何でも降格なんてしていられない。
もちろん、今回のミッションだって、査定に入る。
「とりあえず、僕の言う通りに動け!!」
なので、ここは華麗に事を進めないといけない。
自分の作業をしつつ、我が友に指示を出す。
しかし、意外と、と言うべきか、手先が器用なのもあって、なかなか役に立つ。
これなら、三等兵ぐらいにあげてやってもいいかもしれない。
そんな事を思いつつも、僕も手早く下ごしらえをしていく。
料理で一番大事なのはやはり下ごしらえ。
もちろん、味付けだって大事だけど、ある程度、それはしっかりと分量どおりにすればどうにかなる。
むしろ、下ごしらえなんかは本人の技量によって変わるから、一番気を付けないといけない。
それに、今回のように人員が少ない場合は、それが顕著になる。
とりあえず、手早く済まさないと時間が間に合わなくなる。
その分、調理自体にはさほど時間がかからないから、やはり下ごしらえで決まる。
とはいえ、それも、思った以上に使える我が友のおかげでどうにかなりそうだったけど。
最初から期待していなかった。
というよりも、邪魔にしかならないだろうと予想しての時間配分で、考えていた分、余裕ができそうだ。
これなら、あまった材料でいろいろとできそうだ。
元々、四人分で頼んでいたから、量があまったのだ。
「ふははははは!!」
思わず哄笑をあげてしまう。
周りが奇異の目で見てくるが、関係ない。
やはり料理は楽しい。
しかも、自由自在に動いてくれる手足がいるとなれば、さらに倍増。
とりあえず、奴隷のように働かせてしまおう。
そして、それから、しばらくして、全部完成した。
周りはまだあわただしく調理中。
「すごいなぁ。全く、お前の腕には驚いたよ」
目の前にいる我が友が出来上がった料理を見て、そう感慨深げに言う。
まぁ、その気持ちも分かる。
とりあえず、時間短縮のためにいろいろとやった。
普通のやりかたではない。
完全に我流で作った。
それが、普通のやり方しか知らない瀬川には驚きだったのだろう。
だが、これぐらいやれなきゃ我が家では生きていけない。
それに、味だってやはり普通レベル。
日本人の舌が誇る妙味レベルには達していない。
そこらへんが、やはり僕の限界だ。
「さぁ、さっさと食うぞ」
「あぁ、そうだな」
「えへへ、都君の手料理」
それはさておき、さっさと食べてしまおう。
冷えてしまったら、おいしくないし。
まぁ、ハーフエンジェルの彼なら、冷えてもおいしいものを作れるかもしれないが。
僕は、目の前にある料理に次々と皿によそい、食べて行く。
瀬川三等兵も、飢えた獣よろしくがつがつ食べている。
そして、隣にいる少女は、昇天しそうなほど幸せそうな顔をして食べている。
隣の少女?
そこまで、考えて疑問が起きた。
ここは、僕と我が友の二人のはず。
なので、もう一人いるなんておかしい。
だから、隣には誰もいないはず。
いや、もういい。
また、きっとお約束だ。
読者もいい加減飽きてくるお約束だ。
だから、気にする必要もないだろう。
隣にいる少女の事を完全に無視して、僕はさらに箸を進めたのだった。