愛し子よ
今、僕は、かなりの瀬戸際に立っている。
我前の獅子に後門の虎。
まさしく絶体絶命のピンチ。
「にゃ~ん」
そして、その最強最悪の力の主が鳴く。
本当はそんな鳴き声じゃないくせに鳴く。
というよりも、鳴かないくせに鳴く。
いや、あれの時に鳴くには鳴くらしいが……
て、そんな下ネタはいい。
とりあえず、目の前にいるのはあの悪魔。
その悪魔が鳴いているのだ。
しかも、猫の格好をして。
正直に言おう。
僕は可愛い物が大好きだ。
しかも、小動物系は大好きだ。
そんなわけで、猫も大好きだ。
そして、目の前にいる猫も大好きなんだよぉ
いや、もちろん、特別な趣味があるわけじゃない。
あるわけじゃないんだが
そんな垣根など越えてしまいたいほど可愛いのだ。
とりあえず、可愛すぎるのだ。
あのゆらゆら揺れる尻尾が特に。
「にゃ~ん」
そして、再度彼女が鳴く。
それと同時に、僕に擦り寄ってくる。
僕は、それを拒絶できない。
むしろ、喜んで受け入れ、抱きしめると頬にほお擦りする。
あぁ、なんて幸せなんだろう。
そんなふうに思って、更に顔を緩める。
もう、既に限界を超えている。
とりあえず、どうにでもなれと言ったレベルに近づいている。
「うなぁ」
そして、さらに彼女は可愛く鳴く。
それと同時に、ごそごそと音がする。
ほとんと陶然としている頭で必死に考えて見る。
すると、そこで下半身に違和感を感じた。
何かに触られているような気がする。
その瞬間、ようやく理解できた。
それと同時に、どこかにいきかけていた頭をはっきりとなった。
「あ、あぶない……もう少しで貞操が奪われるところだった。」
そうごそごとしていた音はあの悪魔が、僕のズボンを脱がそうとしていたのだ。
なんという奴だ。
まさか、そこまでするとは。
僕は額に浮かぶ汗をぬぐう。
本当にぎりぎりだった。
もし、完全に思考を奪われていたら、きっと手遅れだっただろう。
けれど、それもなんとか耐え抜いた。
とはいえ、それも一度で限界だろう。
「悪いけど、帰らせてもらうよ!!」
ならば、帰るしかない。
僕は、しゅたっと手をあげると、その場を去る。
とりあえず、置き土産に、投げキッス。
これで、ある程度、時間は稼げる。
そして、予想通り、腰を砕けさせた彼女は、その場にへたり込む。
にしても、あの姿はまさしく恐ろしかった。
あそこまで、あの悪魔を愛しく思えるとは
次からは気を付けないと。