恋せよ乙女
「そういや、ここ最近、お前の周りに竹原さんいないな」
今日一日の荒仕事を終えて、机の上でのべーと突っ伏していると友人が唐突に切り出した。
「そう言えば、そうだな」
その問いかけに、一瞬顔をしかめた。
まぁ、せっかくの安らぎの時間の時に、悪魔の名前を出すなと思ったのだ。
とはいえ、それもすぐになりを潜める。
友が言ったように、最近うれしい事に寄って来ないのだ。
とりあえず、今の生活は完全に平穏と化しており、気が抜ける状態なのだ。
何を考えているのかは知らないが、迷惑をかけてくれない分助かる。
「そういや、ここ最近、我が校の貴公子の周りに竹原さんがいるらしいな」
けれど、友の言葉を聴いた瞬間、スイッチが変わった。
我が校の貴公子。
一度だけ、その人物の名を聞いた事がある。
その名は伊集院久遠。
あの悪魔とまではいかないが、それに近い財力を持った家の御曹司。
そして、外見特徴は、日本人らしくない日本人。
色素の薄い肌とさらさらの髪を持ち、しかも、顔はまさしく美少年。
さらに言えば、あの悪魔と同じく第一世代レベルの能力を持つ。
つまり、頭脳明晰にして運動神経もいいと言う文武両道なのだ。
しかもしかも、さらに男からも好かれるような性格をしており、まさしく最強。
あのどこぞの大和撫子と同レベルなのだ。
しかし、その貴公子とは
「なんだ、ショックなのか?」
友の言葉を聞いて、うんうんとうなっていると、不意にそう問いかけてきた。
どうやら、僕が降られた事にショックを受けていると思っているのだろう。
だがしかし
「甘いな。命短しコスせよ……失敬。命短し恋せよ乙女。そういうだろう?僕は、そんな彼女を応援するぞ。と言うよりも、ぴったりじゃないか、あの二人なら。家柄、容姿、才能、性格。全てに置いてパーフェクト。いや、マーヴェラスだな、このレベルなら。それを応援しないで、何を応援すると言うのだ、瀬川三等兵」
なぜ、この僕が、ショックを受けなくてはいけないと言うのだ。
むしろ厄介ごとから逃れられるのだから、泣いて喜ぶべきだ。
とりあえず、まずは状況判断が先だ。
「よし、情報収集にいくぞ、瀬川三等兵!!」
そのためには、何よりも情報。
まず情報。
だから、偵察が必要だ。
「いや、別にかまわないけど、なぜに俺が三等兵?」
「うるさい、下士官は黙って付いてくればいいのだ!!」
「しかも、やっぱり、俺ってお前より下なのね。」
とりあえず、まだぐちぐち言っているが、この際無視だ。
話が進まないし。
ちなみに、僕は、大佐にまで昇進した。
以前の、悪魔の魔城から無事孤立無援で脱出をした功を取り立てて貰ったのだ。
今思うと、それに関しては素直に謝辞を言わねばならないのかもしれない。
とはいえ、それよりも、まずは
「貴公子の下へ!!」
その男の下へといざゆかん!!
そう心強く心内で叫んでから行った。