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消える魔球

「ねぇねぇ、何してるの?」


悪魔の声が背後から聞こえた。


なので、とりあえず、無視。


たぶん、きっと後ろを振り向いた瞬間に魂を抜かれる。


そう言うタイプの悪魔だと思われる。


「くらえ!!必殺消える魔球!!」


「あ、汚ぇ!!反則球だろう、それ」


「言い訳はそれだけかい?くくく、さぁ、チェンジだ」


それに、今はそんな事をしている場合ではない。


男と男の対決。


まさしく、男の中の漢を決める戦なのだ。


周りに気を取られている場合ではない。


「くそ、覚えてろよ」


友人がそう言いながら、席を立つ。


僕もそれに合わせて、攻守のチェンジ。


ここまでくれば、分かるだろうけど、今僕達は野球ボードをやっている。


なぜか、家の物置にあったので、持って来たのだ。


とりあえず、校則違反とかは関係ない。


盟友である菅原教諭から、許可は取ってある。


その代わり、後で彼に貸す事になっている。


どうやら、昔の血が沸くらしい。


とりあえず、さすがは僕の盟友なだけはある。


「くらえ、消える魔球!!」


「甘い、必殺魔球返し!!」


「な、何!?」


さて、それよりも、男同士の対決。


けれど、既に結果は分かったような物。


我が友は、この満塁と言うときに、間抜けな事にしょっぱなから、魔球を投げてきた。


けれど、既にその魔球の弱点など、白日の下。


そんなものは僕には通用しない。


とりあえず、満塁ホームランを打ってやる。


目の前に居る友人は、絶望に打ちひしがれ、某ボクシング漫画風に燃え尽きて、真っ白になっている。


「ふ、いつの世も、闘いとはむなしいものだな」


哀れだと思いつつ、最後のきめ台詞。


これで、僕の勝利だ。


だいたい、このゲームで僕に勝とうと言うのがまず甘いのだ。


僕が持ってきたものだ。


とりあえず、細工されてられている事ぐらい感づかないようではまだまだだ。


「友よ、安らかに眠るがいい。僕は、そのお前に代わって、これを持って、オアシスへと旅立つ」


そして、そんな哀れな友人を見下ろしつつ、席を立ち、教室を飛び出す。


目的地は既に決まっている。


オアシスだ。


靴を履き替え、学校を出る。


いつになく、颯爽と風を切る自分が切なくなるほど美しく思える。


否、美しいに決まっている。


きっと、今なら、この姿で万人の女性のハートを射抜く事が出来る。


出会った瞬間フォーリンラブだ。


さぁ、そして、目的地にたどり着いた。


着いたと同時に、僕は、


「カフェロワイヤル一つ!!引き換え券は、これです!!」


秋葉系男の男心を鷲づかみにするようなエプロンドレス姿をした女性に券を渡す。


「はい、確かに引き換え券の方はいただきました。どうぞ、こちらがカフェロワイヤルになります」


それを受け取った彼女は、確認すると、カフェロワイヤルを手渡す。


途端に、上品な香りが鼻腔をかすめる。


我らがオアシス、洋菓子店ヴェロナの超プレミアムスイーツ。


一日限定生産数5つの至高のスイーツ。


これを買うために、人生をかけるという人すらいると言われるスイーツだ。


それを、今日、我らが、盟友菅原教諭に、野球ボード貸与の謝礼としていただいたのだ。


彼は、スイーツには興味がないから。


さらに、あげる相手も昨日振られたから。


だから、それを賭けて、我らは戦った。


そして、僕は勝ったのだ。


さぁ、今こそ、この超プレミアムスイーツとの優雅な一時を過ごさん!!


「いただ――ぬぁ!?」


いざ、尋常に食そう。


そう思って、手を伸ばしたときには、既にそこには何もなかった。


絶望的なほど何もなかった。


その代わりに、目の前には


「へぇ、さすがはヴェロナのカフェロワイヤルねぇ。五つ星レベル」


悪魔がいた。


しかも、口のはたにクリームがついているところからして、彼女が奪い取ったのだろう。


これもいわゆる消える魔球と言うものだろうか。


て、全然うまくないわ!!


「く、くそぉ!!ぼ、僕の――僕の夢を返せ!!」


それが余計に悔しい。


僕は、彼女から惨劇にあったカフェロワイヤルの亡骸を奪い取る。


せめてもの慈悲を。


亡骸に付いたクリームを指で取り、それを舐める。


ああ、かなり美味しいはずなのに、なんだろう、この敗北感は。


この絶望感は。


ちくしょう、これじゃあ、足りない。


僕の悲しみは消えない。


僕の飢えは、まだ消えない。


どこだ、どこにいる!?


僕の夢は!?


そして、僕はついに見つけた。


まだ、残っている夢のかけらを。


もう、指で取るのは煩わしい。


直接舐める。


ぺろりと舐めてやる!!


そして、全て舐め取ったところでようやく気が付いた。


そのクリームはどこについていたのかと言う事を。


さらには、ここがいったいどこなのかと言う事を。


周囲からは切なくなるほどはやし立てるような声が聞こえた。


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