とけてゆく
「よし、いけ、いけ、いけぇぇぇぇ!!」
大声を上げての応援。
ただいま、僕は、絶賛応援中です。
なので、邪魔しないでください。
「よし、いったぁ!!それでこそ、漢だぁ!!」
そして、僕の応援甲斐あって、男を見せてくれた。
とりあえず、これで僕の賭けは勝ちだろう。
くくく。
隣では悔しそうにしている友の姿がある。
とりあえず、登場が少ないとごやくので、登場させてあげようと思い、賭けに誘ったのだ。
もちろん、数少ない機会なのだ。
友は、喜んで、二つ返事をした。
それを罠とは知らずに。
とりあえず、この僕が最初から負けると分かっている賭けなんてしない。
なので、確実に、僕が勝利の美酒に酔う事は決まっている。
そして、遠くで、ゲームセットと声高々に叫ぶ主審の声。
もちろん、賭けは僕の勝ち。
今回の賭けは、野球部の練習試合でどちらが勝つかと言うもの。
我が野球部は甲子園常連校で、それなりに名が通っている。
そして、相手の高校はほとんど名の知られてない高校。
そこで、僕は賭けを申し出たのだ。
もちろん、僕が賭けたのは、相手高校の勝ち。
つまり、我が野球部の負けだ。
そして、その予想通りに負けた。
最後の最後にさよならで。
しかも、スコアは1-0で。
もちろん、以前対戦した時は、負けていた。
だけど、その時には、賭けていたものがあったのだ。
それは四番だった。
ちょうど、そのとき、怪我をして、出場できなかった。
その結果、引き分けのままでもつれこみ、投手のスタミナが切れ、失投を運良く、スタンドに放り込めただけの事。
それがなければ、負けていた。
けれど、それを知らず、ただ、一度やって勝った事しかしらず、おまけに自分の高校は強いと思っている、このおばかさんはあっさりと向こうにかけた。
おかげで、かなりの額をもうけさせてもらった。
「ちくしょう、ほらよ!!」
友は、自分の負けに腹を立てながらも、僕に約束どおりに賭けの負け分を渡す。
いや、実に愉快痛快だ。
とりあえず、これでしばらくは、美味しい物が食べられる。
いや、まさしく、これからめくるめくる夢の日々が過ぎるのだろう。
まぁ、とりあえず一日二日だろうけど。
さて、さっさと帰ろう。
とりあえず、これを隠し金庫にのけておかないと……
「へぇ、賭けで勝ったんだ。んじゃ、そのお金でデートに行こう」
そんな矢先、また捕まった。
またお約束だ。
本当にお約束だ。
まるで、はかったかのように僕の手を抱きしめ、そんな事をのたまう。
とりあえず、あんな豪邸を持っているんだから、僕にたからなくてもいいと思うんだけど。
思うんだけど、きっとどうしようもないんだろうな。
とりあえず、僕の夢はツユと消えて、とけていっちゃうんだろう。