転んだ先の杖
「今日こそは、今日こそは一つに!!」
「なるかぁ!!」
そんな至極日常的な会話を繰り広げつつ、僕は逃げていた。
こんな日常的な会話なんて、かなり嫌だけど、もう慣れた。
それに慣れるのも嫌だけど、もう諦めた。
やっぱり人間諦めが大事だ。
とはいえ、だからと言って、人身御供になるつもりは毛頭ないけど。
とりあえず、好きでもない人とはそう言う事は出来ません。
もう少し、男心と言う物を勉強して欲しいものだ。
誰でもいいって分けじゃないし。
それにそれに、やっぱり初めてのときなんかは、お互い緊張しちゃって。
『い、いい?』
なんて、声をどもらせたりとかして、初々しくないと。
その時に、恥ずかしげで、だけどちょっとはにかむように
『う、うん』
そう言う受け答えがいいんだ。
もう、なんというか、甘酸っぱさ100%なのがいいんだ。
あんな、もう獣同士の交尾みたいなものは即刻お断りだ。
まぁ、極論で言えば、所詮は生殖行為なのだから、それはそれでありなんだろうけど、僕としてはとりあえずやだ。
何が何でもやだ。
やっぱり、男はロマンチストじゃないと!!
と、それはいいとして、校門を出ると、すぐそばに隠して置いた自転車に乗り込む。
とりあえず、最近、彼女はもう有無を言わせないと言うか、やりたい放題なのだ。
なので、とりあえず、これぐらいやっておかないと、すぐに捕まる。
男子高校生平均並みの僕。
女子高校生平均以上の彼女。
それでも、僕の方がまだ上なんだけど、周りが邪魔するから、あっさりと捕まってしまう。
なので、そのためにも、自転車が必要なのだ。
とりあえず、備えあれば憂いなし。
転んだ先の杖と言う奴だ。
これなら、確実に逃げ切れる。
ぶんぶん言わせて、走り抜ける。
そして、商店街を抜けきり、後もう少しで家だ。
そう思ったところで、いきなり黒塗りのベンツ。
しかも、リムジン仕様。
それが目の前に止まると
「捕まえました」
そう言って、悪魔が出てきた。
備えあれば憂いなし。
転んだ先の杖。
その事とは、どうやら、彼女の事だったようだ。
ぐすん。