許した覚えなどない
学校からの帰り道の途中、ある店の前を通った。
かつて、僕が生き恥を晴らした店。
言わずと知れた、至高のスイーツ店。
そうヴェロナだ。
そして、思い返す、あの絶望の瞬間。
あの瞬間、僕は天国から地獄へとまっさかさまとなった。
「もしかして、まだ、あの時の事怒ってる?」
不意に、隣から話しかけられた。
とはいえ、隣にいるのは、もちろんあの悪魔。
そして、その悪魔が言う『あの時の事』とは、もちろん……
「当然。誰が許すものか。末代までたたってくれる」
カフェロワイヤルを奪った事だ。
あの事は、何があっても許さない。
誰が許してやるものか。
「あはは、ごめんね?そのお詫びと言ったら、なんだけど……はい」
そんな中、彼女はそう言って、僕に包みを手渡す。
それは、ヴェロナの包装紙にくるまれている。
僕は、それを受け取り、中身を見る。
けれど、それと同時に驚きが隠せなかった。
なんとそこには
「これって、カフェロワイヤル~愛の賛歌~?」
そうそれがちょこんと置いてあった。
「うん。悪い事したと思ったから、許して欲しくて。でも、普通のじゃだめかな、と思ったから」
そんな僕の問いかけに彼女は気まずそうに答える。
『カフェロワイヤル~愛の賛歌~』
これは、ヴェロナにおける至高の中でも至高の一品。
年間限定生産数一という、完全に分けの分からない物なのだ。
けれど、その分、その味は、一口食べただけで、天国に行けるという。
まさしく、至高の中の至高なスイーツなのだ。
「けど、どうやって、これを手に入れたんだ?」
だけど、気になるのは、これの入手方法。
これは、完全に限定販売。
しかも、既に販売は終わっている。
「えっと、そのお願いしたの。そしたら、作ってくれたの」
そんな僕の疑問に、答えると、てへりと笑う。
背筋が一気に冷える。
なんと言う事だ。
彼女は、色仕掛けでこれを手に入れたのだ。
なんと、おぞましい事を。
なんと、罪深き事を。
これでは、真面目に手に入れようとしている人達に失礼ではないか。
「僕は……僕は、こんな事をしてもらっても、嬉しくない!!」
僕は、今にも泣き出しそうな声で、彼女に詰め寄る。
とりあえず、謝らせなければ。
世界中の全ての人に。
「とかいいつつ、しっかりと食べてる」
と思うのもつかの間、彼女の一声で我に変える。
そして、自分の手を見る。
そこには、しっかりとかけている愛の賛歌が握られている。
なんていう事だ。
僕はなんて事をしてしまったんだ。
僕も、ついにこの手を汚す事になってしまうとは。
「これで、共犯者だね。でも、あたしは都君といられるならどこだっていいかな。例え、監獄の中だって」
けれど、彼女はそんな僕の苦悩に気付かず、頭の中を桃色にしている。
僕は、その場に崩れ落ちる。
そして、絶望。
「うん、まずは、その前に、二人の愛を確かめ合わないとね。とりあえず、ホテルに」
「なんでそうなる!!」
する暇は、どうやらないようだ。
と言うか、僕はまだ身体を許したつもりはありません。