愛して愛して愛して
休日が、厄日に変わったそんな日の午後。
僕は、隣に悪魔を置いて、外出していた。
とりあえず、デートではない。
何があっても、それを認めるつもりはない。
目下のところは、誘拐と言うところだ。
いきなり、僕の家にやってきたと思ったら。
「デートしよ?」
そう言って、嫌がる僕を無理やり連れ出したのだから。
しかも、我が家族は、そんな僕を助けるどころか、手を振って見送ったのだ。
なんとも、血も涙もない家族だろうか。
とりあえず、帰ったら、くさやをお土産に買って帰ろう。
しかも、それを最後まで処理し終わるまで、寝静まったころあいを見計らって、布団に忍ばせて置いてやる。
誰もが、そこまでやるかと思うかもしれないが、こういうときに躊躇は無駄だ。
とりあえず、復讐は気が済むまでと言うのが、国際常識だ。
さて、復讐の画策はそれぐらいでいいとして、隣の悪魔との一時を乗り切るのかが、目下のところの最優先事項だ。
とりあえず、隙を見せるわけには行かない。
隙を見せたら最後、婚姻届にサインをされるかもしれない。
だがしかし、
「ぬ、ぬぁぁぁぁ!!か、可愛い」
恐ろしく犯罪級に可愛らしいエンジェルを目の前にして、僕は崩れ落ちた。
だめだ。僕には、この可愛らしさには打ち勝てない。
可愛すぎる。
もう、とりあえず、根こそぎ奪い取られるほど可愛すぎる。
ああ、なんか、あの目が僕に
『私を愛して。ねぇ、愛して、愛して』
そう訴えかけているようだ。
意識を朦朧と刺せながら、そっと手を伸ばす。
その愛くるしい瞳が、僕を誘惑する。
止められない。
後、もう少し。
そう、後もう少しで、手が届く。
けれど……
ガチ、という硬質な音が響き、儚くも虚しくショーウィンドウに阻まれる。
その事実が切ない。
このトイプードルの愛らしさと言ったら、犯罪級だったのに……
もし、触る事が出来たら、その日一日幸せだっただろうに。
あぁ、なんて事だ。
とりあえず、全て悪魔のせいにしておこう。
「へぇ、都君って、犬が好きなんだ。んじゃ、今度から犬のコスプレで攻めてみようかな」
……と思ったけど、やめて置こう。
しばらくの間は、この愛らしいトイプードルを眺めておこう。
きっと、しばらくしたら、犬が嫌いになってしまうと思うから。