彼は異端児
「どうも〜、出てきて早々なんですが。そこの最前管理かな? 僕のオタクじゃないよね。下がってね〜、僕が歌う時は僕のオタクに最前にいて欲しいから変わってね」
何だこの人は。
「変わって貰えないと僕歌えないんだけど〜。どんどん時間押すから早くして〜」
童顔で可愛い顔をしてるのに、視線の圧が本当にすごい。目が笑ってない。圧が凄すぎて最前管理の地雷系たちがそそくさと後ろに下がっていく。すると、後ろからターコイズブルーの髪飾りをつけた人達が最前に出てきた。彼の言う『僕のオタク』なんだろう。
2列目にいるのも良くないのかもしれない、と後ろに下がろうとするとターコイズブルーのリボンを付けた優しげな女性がにこやかに声をかけてくれる。
「私、今日知り合いがいないんです。良かったら一緒に2列目で見ませんか?」
「……いいんですか?」
「? 先に2列目にいたの、あなたですし」
何を当たり前のことを、というように首を傾げられた。だってさっき、貴方の推しが言ってましたよね?
「え、でもさっき」
「大丈夫!」
人のいい笑顔に絆されて2列目で見ることになった。
一言で言うと、彼は本当に歌だけでなくパフォーマンスも凄かった。オタクでは無い私にもお手振りしてくれた。私の推しより歌が上手いと思う。後で交流会に絶対行こう。
「さくらさんの推しさん、凄いですね。歌だけじゃなくてパフォーマンス力が本当に凄い」
「ふふ、でしょー?! 私もライブで彼を見て推したんだよ」
お互いの目当ての人のパフォーマンスが終わり、交流会まで夜風に当たって休憩することにした。さくらさんの推しさんの後が、私の推しの出番だったので二人であのまま2列目で堪能した。
「そらさんの推しさんもかっこいいね、私も交流会行こうかな」
「ほんとに?! 嬉しい、あの人も喜びます!」
「ねえ、あんたのオタクどうにかしてくんない?」
「え……。あの、なにかあの子たちがしましたか?」
「最前管理! やめさせて」
これは聞いてはいけないのではないだろうか。声的にどう考えても、さくらさんの推しさん。つまりは先程の「最前管理は下がってね」の彼と最前管理の方々の推しさんである。後者は、色んな意味で有名なのである。色んな意味で。
「あとさあ、運営からも荷物は床に置くなって指示あったじゃん。あんたのオタク達だけ守らずに置いちゃって。他の客、誰も置いてないんだけど?」
「ほ、他の人でも見えてないだけでしてるかもしれ……」
「あ? 今から客席行ってきなよ、そんで見てきたら? 皆してないから」
確かに彼の言う通りではある。ぶっちゃけ邪魔だなーとは思ってた。言ってしまうと何倍にもなって帰ってきそうなので、皆思ってても言わないのだ。怖いとかではなく、まあ面倒くさいだけなのだが。
「あんたさ、ライブ出て現地でパフォーマンス見て初めて交流会で声掛けられるとかしたことないんじゃない?」
「えっ……」
言ったー! この人みんなが思ってるけど言わないこと全部本人に言った! 相手めっちゃ泣きそうじゃん、出番いつか知らないけど歌えるのか、今日?
「はあ、男の涙目ほどそそらないものは無いねえ。ね? 盗み聞きガールズ?」
「えっえっ、いつから……」
「最初からでしょう、どうせ。いるの知っててお説教したくせに」
「せいかーい。さすが、俺のオタク」
「ねえ、君。そらさんでしょ?」
「え、なんで名前……」
「君の推しさんがね、嬉しそうに話してたんだよ。初期から見てくれてるリスナーちゃんが、やっと最近成人して遠征してきてくれるんだって。ところで、2列目からの推しくんは堪能できたかな?」
「えっ?」
2人が微笑みながら私を見ている。と、いうことは。演目前のあの言葉は。さくらさんが一緒に2列目で見てくれたのは。
「「20歳おめでとう」」




