紙片の五 (詩の仮置場より)
あなたへ
みこころにあふれる言葉が、ふりそそぐ桜の花びらのようであればよいと思う 青空や澄んだ水面を彩る桜はとても美しい
朝ひっそりとしていて、遠くかすかな蝉と鳥の鳴き声で満ちた涼風にすっと目覚めるような日々であればよいとおもう
昼間あたたかい陽気とすこし冷たい金木犀の香る風にさらした毛布のなかで、夜、穏やかな寝息を立てている猫を撫でるような心地で眠りにつけるとよいとおもう
清々しい青空を優雅に旋回する鳶のように、世界の厳しい寒さに負けず、意志ある自由な生活のなかを歩んでゆければよいとおもう
どうかあなたの瞳に映る世界が、穏やかで優しいものでありますように
── 祈り、囁くような、節介染みた
あなたを見ていると、なにも考えられない
話そうと思っていたこと、見てもらおうと思っていた写真、なにもかも なにもかもが空気に溶けだして散ってゆく あなたを見ている時間は 周りが騒がしくとも、ただただ静的な宇宙を形成する やわらかい陽射しが雪を溶かすように 季節の匂いが大気に溶けるように やさしさにつつまれるような心地
あなたは不思議に思っているかもしれない 僕が碌に喋らないことを どう感じているだろう 特に気にしていないかもしれない それなら良い 自意識過剰は僕の悪い癖だ
ただ僕はあなたに会いたいだけだ 〔それから〕をなにも用意できないまま、ただ僕はあなたの前にいる それだけだ いつも
あなたが笑っているのを眺めているだけで充分なんだ それがなにより大切だから
── グラス、氷の音




