第7話『判断が遅れた理由』
それに気づいたのは、
後からだった。
放課後、
委員会室での確認作業が、
いつもより少しだけ長引いた。
理由ははっきりしている。
一件の対応に、
余分な時間がかかった。
内容は単純だった。
掲示物の貼り替えが遅れている、
という報告。
対象も明確で、
手順も決まっている。
通常なら、
すぐに処理される案件だ。
だが、
その日は違った。
担当者が、
判断を一度止めた。
「これ、どこに分類する?」
その問いは、
少しだけ宙に浮いた。
誰も答えなかったわけではない。
ただ、
即答がなかった。
分類自体は、
既存の項目に当てはめられる。
問題はない。
前例もある。
それでも、
一拍だけ間が空いた。
理由を探すほどのことではない。
だが、
確かに遅れた。
彼はそのやり取りを、
横で見ていた。
誰も迷っているようには見えなかった。
声のトーンも、
表情も、
いつもと同じだ。
それでも、
判断が一瞬だけ遅れた。
最終的には、
通常どおり処理された。
赤でも、
黄でもない。
青。
それで終わりだ。
作業後、
顧問が軽く言った。
「最近、空白が多いからね」
それは、
注意でも、
指摘でもなかった。
事実確認に近い。
誰も返事をしなかった。
返事をする必要が、
なかったからだ。
空白が多い、
という状態自体が、
問題として定義されていない。
だから、
改善案も出ない。
帰り道、
彼はその「一拍」を思い出した。
ほんのわずかな遅れ。
誰の責任でもない。
もし、
遅れがなければ、
結果は変わっただろうか。
変わらない。
掲示物は貼り替えられ、
影響は出ていない。
つまり、
問題は起きていない。
家に着き、
机に向かう。
ノートを開き、
いつものページを見る。
彼はそこに、
「遅れた」という言葉を書きかけた。
だが、
止めた。
遅れた、
という評価は、
基準が必要だ。
基準が共有されていない以上、
それはただの感覚になる。
感覚は、
記録の対象外だ。
彼はペンを置き、
ノートを閉じた。
判断が遅れても、
結果が同じなら、
問題ではない。
その考えは、
誰にも教わっていない。
だが、
いつの間にか、
共有されていた。
今日も、
特に問題はなかった。
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