第3話『参照外』
その情報は、
正式な経路から入ってきたものではなかった。
彼が知ったのは、
偶然だった。
掲示板の一覧を流し見していると、
いつもと違う並びが一瞬だけ見えた。
すぐに更新が入り、
その行は画面から消えた。
内容は、
ほとんど覚えていない。
「分類できない」
という言葉だけが、
妙に引っかかった。
誰が、
何を、
どこで。
そういう要素は、
一切書かれていなかった。
彼は検索しなかった。
履歴を遡ることもしなかった。
参照可能な情報がないものは、
扱えない。
それは、
委員会で共有されている前提だった。
翌日、
学校はいつも通りだった。
出席も、
授業も、
放課後の活動も。
掲示板には、
例の文言は残っていなかった。
代わりに、
処理済みの話題が並んでいる。
誰かの遅刻。
備品の破損。
行事の連絡。
すべて、
分類可能なものだった。
彼はそれを確認し、
アプリを閉じた。
委員会室では、
顧問が珍しく席にいた。
短い打ち合わせがあり、
最近の傾向が共有された。
問題発生率は低下。
報告数も安定。
特筆すべき事項はない。
誰も、
掲示板の一文について触れなかった。
彼は、
そのことを不自然だとは思わなかった。
触れる理由が、
制度側にも、
個人側にも存在しなかったからだ。
打ち合わせのあと、
彼は用紙を一枚手に取った。
何かを書く予定はない。
ただ、
紙の重さを確かめただけだった。
白いままの用紙は、
軽かった。
帰宅途中、
駅前で人だかりができていた。
彼は足を止めなかった。
遠目に見て、
大事ではないと判断した。
誰かが転んだのかもしれない。
誰かが声を上げたのかもしれない。
だが、
確定情報はなかった。
確定しないものは、
判断の対象外だ。
家に着くと、
彼は机に向かった。
ノートを開き、
何も書かれていないページを眺める。
「分類できない」という言葉が、
再び浮かんだ。
それは、
どこにも属さない言葉だった。
項目に当てはめられず、
処理手順もなく、
記録欄も存在しない。
だから、
書く場所がない。
彼はノートを閉じた。
分類できないものは、
最初から存在しなかったことになる。
それは、
問題ではない。
今日も、
特に問題はなかった。
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