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第12話『連鎖しない空白』


それ以降、

彼は特別な意識を持って

記録を見るようになったわけではなかった。


仕事量も、

判断基準も、

変わっていない。


ただ、

以前よりも

「何も書かれていない箇所」に

目が留まるようになった。


空白は、

珍しいものではない。


むしろ、

全体の中では

多数派だ。


だが、

自分が書かなかった空白を

一度参照されてから、

それらは少しだけ

形を持って見えるようになった。


別の担当者の記録。


処理済み。

特記事項なし。


その下に、

記録自体が存在しない日付。


理由は不明。

だが、

不備として扱われていない。


彼はそれを、

修正しなかった。


補足も、

追記も、

しない。


空白は、

そのままで成立している。


それが制度の前提だからだ。


だが、

その日の判断で、

彼は一つだけ

いつもと違う行動を取った。


書けることが、

あった。


説明もできたし、

手順にも沿っていた。


「特記事項」として

残しても、

問題はなかった。


だが彼は、

その欄を

空白のままにした。


理由は、

ない。


書かなかった理由を

言語化する必要がないことを、

彼は知っていた。


用紙を提出すると、

特に指摘はなかった。


顧問も、

他の委員も、

何も言わない。


問題は起きていない。


それだけで、

処理は完了する。


数日後、

確認作業の中で、

彼は気づいた。


同じ日に、

別の担当者も

特記事項を書いていない。


偶然かもしれない。


示し合わせたわけでも、

影響を与えたわけでもない。


ただ、

その日には

二つの空白が並んでいた。


連続してはいない。

強調もされない。


だが、

確かに増えている。


彼は、

それを「傾向」とは呼ばなかった。


呼んだ瞬間に、

分析対象になってしまう。


分析されれば、

対処が必要になる。


対処は、

生成を伴う。


それは、

この制度が

求めていないものだった。


だから、

何も起きていない。


空白は、

増えたが、

連鎖はしていない。


意図も、

共有も、

存在しない。


彼はそのことを、

誰にも話さなかった。


話す理由がない。


帰り道、

彼はふと考えた。


空白が、

空白を呼んだ。


だがそれは、

波紋ではない。


伝播ではなく、

重なりだ。


重なった空白は、

意味を持たない。


意味を持たないからこそ、

制度の中に

留まり続ける。


家に着き、

ノートを開く。


何かを書くつもりはない。


白いページを見て、

そのまま閉じた。


書かなかったことは、

また一つ増えた。


それでも、

今日も問題は起きていない。


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