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第10話『特に問題はなかった』
その日は、
最初から最後まで、
説明できる一日だった。
朝、
彼はいつも通り家を出た。
電車は遅れていない。
乗り換えも滞りない。
校門をくぐり、
昇降口で靴を替える。
掲示板に新しい紙はない。
教室では、
誰も騒いでいなかった。
席も、
昨日と同じ配置だ。
授業が始まり、
教師が板書をする。
質問は出ない。
挙手もない。
彼はノートを取り、
必要なところだけを写した。
昼休み、
決まった場所で昼食を取る。
誰かが笑い、
誰かが黙る。
それ以上でも、
それ以下でもない。
午後の授業が終わり、
放課後になる。
委員会室に寄る必要はなかった。
連絡も、
作業もない。
それでも、
彼は一度だけ、
廊下の先を見る。
扉は開いている。
中は静かだ。
入らなかった。
理由は、
特にない。
帰り道、
掲示板を開く。
新しい書き込みは、
なかった。
更新がないことを確認し、
アプリを閉じる。
家に着く。
鞄を置き、
制服を脱ぐ。
机に向かい、
ノートを開く。
何も書かれていないページ。
彼はそこに、
何も書かない。
書く必要がない。
今日の出来事は、
どれも処理済みだ。
処理した記憶は、
ない。
だが、
処理されていないものも、
ない。
夜になり、
明日の予定を確認する。
特記事項はない。
問題が起きていない一日として、
今日も終わった。
彼は、
その判断を疑わなかった。
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