9. ーー知らないこと
街はいつも通りの光景が広がっていた。
「おばちゃん! なにか無かった?」
「あらぁティファちゃん。こっちは大丈夫よ。ティファちゃんが守ってくれたおかげで、魔法のひとつも飛んで来なかったわ」
「おう、ティファ! おめぇさん、魔族を追い払ってくれたんだってなぁ!」
「今晩は広場でパーティー開くからぜひ来てくれ! もちろん、食べ放題だぜ!」
「ほんと!?」
さっきまで脅威が迫っていたというのに、街のみんなは呑気なものでした。やれやれです。でも、パーティーを開く判断はグッジョブだと思います。
「とりあえず、何も無かった、ってことでいいんだよね?」
「ええ。大きな騒ぎなんてなかったわ。心配してくれてありがとうねぇ」
「そっか、よかったー」
「ティファ、早く神父様に顔を見せてやんな! きっと心配してるぜ!」
肉屋のおじさんがそう促してきます。
そうです。心配性なルシアンさんのことですから、きっと教会の中でぐるぐると回っていることでしょう。
「そうだね。うん、じゃあわたし行くね! パーティー、楽しみにしてる!」
「おうとも! 神父様も一緒に連れてきてくれ!」
「任せて! あ、あと、パーティー中の料理、全部食べるから沢山用意していてね!」
「ほ、ほどほどに頼むぜ」
☆ □ ☆ □ ☆
たったったとわたしは走ります。
教会はちょっとした丘の上にあります。だから、街からちょっとだけ歩かないといけません。
ちりっ。
「うわぁ!」
教会が見えてきた頃、わたしは何かを踏んでしまいました。わたしは驚いて、後ろに跳びます。
「……びっくりしたぁ。なにこれ、金属の欠片……鈴かな」
鈴は割れてしまっていました。……わたしが踏んだからではないと信じたいです。
「どうしよう、これ。埋めちゃおうかな……」「どうしたの?」
「うひゃあ!?」
肩越しに声が聞こえてきて、わたしは大きな声を出しました。
振り返ると、そこには丸い目をしたセレスさんの姿。わたしは咄嗟に鈴をポケットの中に隠します。
「そ、そんなにビックリする?」
「油断していたから。あ、ほら、戦いも終わったばかりだし――あ! 魔族、追い払ったよ!」
わたしは重要な情報を伝える。
きっと、さっきのわたしに負けない良い反応が返ってくるものだと思ってましたが……。
「うん。そうみたいだね。お疲れ様」
「あれ? ……知ってたの?」
「ティファさんがこうして無事に帰っていることが、何よりの証拠だよ」
驚かせるのに失敗しました。
「……」
「あれ、どうしたのその顔。もしかして私、何かやった?」
「ルシアンさんなら、もうちょっと面白い反応をしてくれたのになーって思って」
飛び上がること間違いないでしょう。
「そうかな。でも、私ってあんまりおもしろい反応とか出来ないから、求められても応えられないかも」
「え?」
「え?」
……残念なことに、この場に鏡はありませんでした。
「ま、まあいいや。これから教会に戻るの?」
「そうそう。ルシアンさんにちゃんと報告しないとって思って。セレスさんは……なに、してたの?」
明らかに教会から出てきたであろうセレスさん。
緊急時に、教会で二人っきり。……尋問案件だ。
「な、なにもしてないよ!?」
「嘘、下手だね」
「な、何を言ってるのかわからないかな? かなぁ!」
仕方ありません。ここは大人なレディとして、流しておいてあげましょう。後でたっぷりと聞きますが。
「それよりも無事だと知らせる方が先です」
「……それよりもって、なに?」
「なんでもないです」
そうして、わたしはセレスさんと別れて教会に向かいました。
「ただいまー」
寂れた扉を音を立てながら開きながら、わたしはルシアンさんを探します。――いました。
「おかえりなさい」
「無事に、街を守れたよ!」
「そのようですね。おめでとうございます」
セレスさん同様、知ってましたよ感のある態度。
それにわたしはムッと頬を膨らませる。
「もうちょっと驚いてもいいと思うんだけど?」
「ティファさんなら心配ないと思ってましたから」
「うぐっ……その言葉は卑怯だよ、卑怯。それ言われたら何も言えなくなるじゃん」
「本当にお疲れ様です。クッキー、焼いたのですが食べますか?」
「食べるぅ!」
わたしの中にはさっきまで燻っていた不満はなくなっていました。
「では、手を洗ってきてください」
「はぁーい!」
…………は! ちょっと待って。これじゃあわたしがお手軽女みたいじゃん!
「……ねぇ、なんかさ。もっとないの? ほら、褒めるとか何か」
「さすがティファさんです。魔族の軍勢を退けるなんて、強くなりましたね。これでこの街も安心です」
「ふふん、そうかな。ま、それほどでもあると思うんだけどねぇ」
ルシアンさんの言葉に気を良くしたわたしは、鼻歌混じりに洗面台に向かって――……ちょっと待って。
「……ねぇ、今、退けるって言った? 倒すでも討ち取るでもなくて?」
「……はい。そうですね」
ルシアンさんの目が一瞬だけ揺れた――気がする。
「わたし、街を守ったとしか言ってなかったよね?」
「大量の魔族が攻めてくるのですから、多少は逃げられたかなと思いまして。気を悪くさせてしまったのなら、すみません」
――謝った。
ルシアンさんが謝る時は、煙に巻こうとした時だ。
彼は探られたくない何かを隠す時にしか謝らない。
「……ルシアンさんって、街のことなんでも知ってるよね」
「神はすべてを知ってますから。何かあれば、私に知らせてくれるんです」
「だったらさ、この街に魔族が侵入してたことも、知ってた?」
「……そうだったのですね。そこまでは知ら」
「本当かな?」
ポケットの中から、わたしは鈴だったものを取り出した。見つけた時は何かわからなかったけど、これはきっとあの時聞いた鈴だと思う。
「これ、教会の前に落ちていたよ」
責めるつもりはない。
ただ、わたしは気になった。ずっとずっと隠している、触れることの出来ない何かを。
「……最近、空き巣が流行ってましたよね」
「うん? ……そうだね。それがどうかしたの?」
「それが、魔族の仕業だったのです」
「え!?」
気づかなかった。
だけど、言われてみれば確かに腑に落ちる。
空き巣が流行った時期、そし空き巣をするて動機。そのどちらも魔族が犯人というだけで説明がついてしまう。
でも、それなら。
「じゃあ、あの時の、何かあれば教会に訪ねて来てくださいっていうのは――!」
ただの注意喚起だと思っていたそれが、前提条件が加わったせいで意味が変わる。
それだとあの時の言葉はまるで、まるで――。
「一番最初にここを襲いに来いって言ってるようなものじゃん!」
「そのつもりで、言いましたから」
激昂するわたしに、彼はいつもと変わらない笑みを向けてくる。
「それで、実際に襲いに来て、返り討ちにしたの? どうやって!?」
ルシアンさんは神父だ。魔族と戦えるような力は無い。
セレスさんに手伝ってもらったのかも、と考えたけど、セレスさんも一般人。到底、魔族を倒す力があるようには思えない。
「ティファさんには一から話しましょう」
と、その前に。と、彼はそう言って、ちらりとクッキーの入ったバスケットを見た。
「話せば長くなるので、食べながらにしましょうか。それでいいですよね?」
「…………うん」
別に尋問しようとしているわけじゃない。ずっと隠していたことを、教えて欲しいだけ。
だからわたしは、その提案に小さな声を返した。
それを見てルシアンさんは満足そうに頷いた。
そして、
「では、手を洗ってきてください」
「……わかった」
「ああ、そうだ」
そして、彼は言うのだ。
さも今思いつきましたよ、という顔をしながら。
「それと、ミルクも一杯どうぞ」
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