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働いてください、神父様! 〜かつて滅ぼされた邪神、百年後の世界で他宗教の神父となって再起を狙う〜  作者: 彼方こなた


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7. 開戦の前に



 広場にて。


「あー、あー。聞こえてる?」


「ちゃんと聞こえますよ」


 緊張した面持ちでティファは大勢の前に立つ。

 広場にいるのは、この街のほとんどの大人たち。皆、どうして集められたのか分からず不安そうな顔をしている。


「みんなに聞いて欲しいことがあります」


 ぎゅっと拡声器を持って、いつも通りの様子を意識して振る舞っている。

 自分の不安が周囲に伝播しないようにするためだろう。


「――今、この街に魔族が進行してきています」


 けれど、たった一言でいとも容易く暗い影が広がる。

 

 彼女の視線の先には、人々の暗い表情が見えているだろう。ティファの瞳が揺れる。


「でも、大丈夫です!」


 キィィンと拡声器のノイズが走る。

 それでも、そのノイズに負けないティファの力強い声が皆の心に届いた。


「わたしが、わたし達がこの街を守ります!」


 ザッ。ティファの後ろに控えていた冒険者たちが一歩前に出る。


「彼らはわたしが冒険者をやっていく中で出会った、心強い仲間たちです。今回、この街を守ることに協力してくれると申し出てくれました」


 ティファが言うには、王都の騎士団は動いてくれなかったそうだ。

 言葉を選ばずに言うのなら、見捨てられたと言える。辺境の小さな街よりも、激化している前線の強化を選んだのだろう。


 だから、彼女たちで動くしか無かった。


「騎士団でもないわたし達では不安だという人もいるでしょう。ですがっ――」


「そんなことねぇよ!」


 野太い声がティファの声を遮った。


「そうそう! ティファちゃんのお仲間なら何の心配もないね!」


「詳しくは知らんが、出世したんだろ? あーんなに小さかったのによ!」


 その声に追従するように彼女を見知った人達が声をあげる。


「オレらを助けてくれ! ティファちゃん!」


 小さな街で長年暮らしてきたティファ。

 そんな彼女を知らない者はこの街にはいない。当然、彼女の活躍も周知の事実だ。


「ティファちゃんに任せて!」


 だからきっと、騎士団なんかよりも彼女たちの方が適任だ。


 ……さて。俺もお仕事をしますか。


「――ちょっとだけ、借りますよ」


 ティファの手から拡声器を奪って、俺は一歩前に出る。

 街の人たちの視線が一様に俺に集まった。なんだなんだと、不思議そうな目だ。


「もしも身の危険を感じることがあったら、教会に避難してください。神の御加護が皆さんを護ってくださいます」


 こういう時は神という名は便利だ。

 根拠の無いはずのハリボテに、力を与えてくれる。


「もちろん、相談がある時、怪我をした時でも教会に訪ねて来てください」


 場の空気に流され、仮初の安心感から目が覚めた時のための保険。

 それが今、俺が神父としてやるべきことだった。




 ☆ □ ☆ □ ☆




 街に続く門を守るように、集まった冒険者たちは正面を見据える。


 とある筋からの情報では、もう少しで魔族の集団が攻めてくるそうだ。


「にしても、姐さん、よっぽど信頼されてたんすね」


「普通は取り乱すものなのに、笑顔を浮かべるやつまでいましたぜ」


「ふぉふぇふぁふぁふぁふぃの――」


「食べるか喋るかどっちかにしてください」


「ムシャムシャムシャムシャ」


「「「やっぱりそっちを選ぶのか!?」」」


 ごくんと喉に流し込み、ティファはやれやれと肩をすくめる。


「まったく。もう少しで戦いが始まるってのに、みんな緊張感が無さすぎじゃない?」


「それ、姐さんが言うんすか」


「呑気に野菜スティック食べてる時点で一番緊張感がないのは姐さんですよ」


「……これは栄養補給だから。ほら、言うでしょ? 腹が減っては戦がなんとかって」


「言いませんけど。どこの国の言葉ですか?」


「さあ?」


「じゃあ言わないんじゃないんすか」


緊張感の欠片もない会話が繰り広げられていたその時だった。


 ーー瞬間、冒険者の間に緊張が走る。

 自分たちでは無い異質な魔力を感じ取ったのだ。けれど、誰一人として戸惑う者はいない。彼らもまた、歴戦の冒険者なのだから。


「さて、と。みんな、準備はいい?」


 ペロリと指についたソースを舐め取り、自分の呼び掛けに応えてくれた冒険者の顔を順番に見る。


 そのどれもが自信に満ちた顔をしており、不安の色なんて一切ない。


 そんな頼もしい彼らの様子にティファはふふん、と笑いこう言った。


「それじゃ――さくっとやろっか!」


 こうして、防衛戦は開幕する。

 それは戦いとも呼べない、一方的な蹂躙が――。


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