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働いてください、神父様! 〜かつて滅ぼされた邪神、百年後の世界で他宗教の神父となって再起を狙う〜  作者: 彼方こなた


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4. ポルカノアは平和な街



 国の辺境にある街、ポルカノア。

 今日は教会を離れ、街道を歩いていた。


「……ねぇ」


 ギロリ、と俺の隣を歩いているティファが睨む。


「なんでいるの?」


「なんでって言われても……前から買い物を手伝うって約束をしてたから、かな」


 ティファとは逆の方を歩いているセレスが、困ったように頬をかく。


「ふぅん。二人きりで買い物にって、まるでデートみたいだね」


「でっ……!? ち、違うよ!? そ、そんなつもりはな……っ」


「そうですよ。セレスさんは毎回大荷物になってしまう私を見かねて、こうして荷物運びを手伝ってくれているだけです」


 両隣でバチバチされるのは勘弁なので、フォローをいれる。だが、なぜかセレスが俺を睨んできた。


「……なんですか?」


「なんでもない」


 なんでもないことは無いだろう。

 ただ、こうなった以上聞き出すことは無理なのでスルーすることにした。


「それじゃあ、わたしが手伝うんだからセレスさんがいる必要は無いってことだよね?」


「確かに、そうかもだけど……。え、もしかして帰れって言ってるの!?」


「うん。気をつけてね」


「私、そこまでティファちゃんに嫌われるようなことしたかなぁ? かなぁ!」


 セレスが涙目になってティファに縋り付く。

 国教までなった女神様は、誰かに嫌われた経験があまりないらしい。


 愉快なのでこのまま眺めているのもいいのだが、そろそろ周囲の視線が痛くなってくる頃。またフォローをいれてやるかと口を開く。


「ティファさん。セレスさんが居るからといって、貴方のご褒美が減ることはありませんよ」


「あ、そうなの? じゃ、セレスさん、一緒に行こっか」


「え、え?」


「今日の買い物を手伝う代わりに、食べ歩きをしてみたいと言われまして。おそらく、セレスさんがいることで自分の取り分が減ると思ったのでしょう」


「私、食べ歩きに負けたの!?」


 ガーンと、ショックを受けたような顔をするセレス。

 そんなセレスの気持ちも知らず、ティファは嬉しそうに笑った。


「えへへ。セレスさんとも遊びに出かけたいなって思ってたから、今日はよろしくね」


「え、あ、うん。……素直に喜びにくいな」


「では、セレスさんからもご褒美を貰いましょうか」


「えぇ!?」


「ねぇねぇセレスさん、わたし、この前会った時からセレスさん綺麗になったなぁって思ってたの! いやぁ、今日はセレスさんと一緒にお出かけできて嬉しいなぁ!」


「え、そ、そう? なんだか照れるね。……よーし、今日は私に任せて! なんでも買ってあげる!」


「やったぁ!」


 チョロいなぁ、この女神。

 彼女の将来が不安になるが、今はセレスが自腹を切るだけ俺への負担が減るので何も言わない。そう思っていると、セレスがぽしょりと囁いてきた。


「……なんだか、嬉しそうだね。やっぱりキミ、ティファちゃんのこと好きなの?」


 やっぱりとは何だ、やっぱりとは。勘違いをしているようだから、しっかりと訂正してやろう。

 

 とはいえ、これは誰かに聞かせるわけにはいかない内容なので、仕返しとばかりにセレスの耳に囁きかける。


「ティファは自分の欲望に素直だからな。そういう意味では、俺は好きだぞ」


「ひゃうっ!?」


 セレスが変な声をあげてサッと離れた。

 彼女はトマトのように顔を真っ赤にして、わなわなと震えている。


「す、すすすすす……!」


「……どうかしましたか?」


「すっ! …………私、耳が弱いからぁ!」


 変なカミングアウトをされてしまった。

 このエロ女神め、街中でなんてこと言ってやがる。周囲の視線がいっせいに集まってきたぞ。


「……驚かせてしまったようですね、すみません。少し落ち着いてください」


「おち、オチついてるよ!?」


「まだオチでは無いです」


 錯乱状態のセレスには何を言っても無駄なようだ。

 とりあえず邪魔にならないように道の端により、一休みをする。まだ何も買っていないのに、随分と疲れた。


「ティファさん、いったんここで休むとしま――何を食べてるんですか?」


「きゅふりはよ」


「……食べてる最中に話しかけてすみません。きゅうりを食べてるんですね。そのきゅうりは、どこから持ってきたのですか?」


「ごくんっ。もらった」


 そう言って、ティファは彼女の後ろの店を指さした。

 確かここは。


「よう、神父さま! 両手に花で羨ましいねぇ!」


「ダートリアさんの店でしたか。すみません、お騒がせししまって。それに、きゅうりまで……おいくらですか?」


 カバンから財布を取り出そうとした俺の手を、待った待ったとダートリアが止めてくる。


「いいのいいの! これは日頃のお礼だから!」


「ですが……」


「それにきゅうり一本だなんてケチなことは言わねぇよ。ほれ、果物の盛り合わせだ。持ってってくれ!」


 そう言って差し出してきたのは、バスケットいっぱいの色とりどりの果物。これを買おうと思えば、俺の二週間分の食費にはなるだろう。


「こんなに貰うのは――」


「じゅるり」


「……ありがとうございます。代わりと言っては何ですが、旬の野菜をいくつか購入させてください」


「まいどありぃ!」



 

 ☆ ☆ ☆




 セレスが落ち着いたことで、ようやく俺たちは動き出した。


「そういえば、見ない顔がちらほら居ますね」


 歩きながら、ふと気づいたことを呟いた。

 ポルカノアはあまり大きくない街なので、大体は顔と名前を知っている。でも、先程からすれ違うのは知らない顔ばかりだ。


「最近、この街に訪れる冒険者が増えたって聞くね。宿屋なんてもう一杯なんだってさ」


「珍しいですね。特にお祭りがある時期ではありませんから……ティファさんは何か知っていますか?」


 俺は隣で両手にバナナを持っているティファに水を向ける。


「……ごくんっ。わたしの溢れ出るオーラがほかの冒険者たちを引き寄せたんじゃないかな」


「心当たりはありませんか……」


「今、わたし言ったよね!?」


 寝言じゃなかったのか。

 怒りに任せてバナナを二本同時に食べるティファ。それを何か言いたげな目で見ているセレスを横目に、ふと考えに耽ける。


 と、その時だった。


「……っ、あ、すみません」


 トンっと誰かにぶつかってしまう。

 反射的に謝るが、ぶつかった男は俺に一瞥もくれずに一目散に走り出した。


 ――俺が手に持っていた、果物の山が載っているバスケットを持って。


「――引ったくりだ!」


 

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