3. こちらは気にせず続きをどうぞ
「そっかそっか。わたしが死力を尽くして魔族たちと戦ってる間、ルシアンさんは教会で女狐のイチャコラねぇ。へぇ、いいよ、続けて? どうぞ?」
面倒なタイミングでこれまた面倒な人が帰ってきた。
言葉の意味を理解したセレスは顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を横に振る。
「ち、違うよ!? ティファちゃん、その、これはなんというか、流れっていうか! その、とにかく違うから!」
「へー、胸を触る流れなんてあるんだぁ。知らなかったなぁ。詳しく教えてもらえないかなぁ?」
「え、と。そ、それは、――ねぇ、キミからも何か言ってよ!」
こいつ事態を悪化させるだけ悪化させてパス投げてきやがった。
だが、パス自体は成功したようでやさぐれた狩人の目が俺に向く。
「ルシアンさんから何か申し開きが」
「先日、立派なエビを貰いまして。エビフライにしようと思っていたのですが、ティファさんもご一緒にいかがですか?」
「食べるぅ!」
「えぇ……」
一瞬で機嫌が良くなったティファの様子を見て、若干引いている様子のセレス。その反応を見て、ティファは怒りを思い出したのジトッとした目で見てきた。
「……ハンバーグ」
「はい?」
「ハンバーグがついてきたらさっき見た事、忘れるかもなー」
ひゅるひゅると、全然吹けていない口笛を吹きながらティファはそう言った。
「そうですね。せっかくティファさんが帰ってきたことですから、ハンバーグもつけましょう」
「やったぁ!」
万歳と手を挙げて喜びを表現するティファ。
いくつ歳を重ねても変わらない子供っぽさに、俺はついつい頬が緩んでしまう。
「旗もつけましょうか」
ふと昔を思い出して、そう提案するとティファの動きがピタリと止まった。
「……ねぇ」
ぶすっと頬を膨らませながら、不満げに睨んでくる。
「わたし、もう子供じゃないんだけど。大人のレディなんだよ?」
「そうでしたね。それでは、今日のご飯は大盛りにしましょうか」
「分かればよろしい。どんぶりでお願いね」
ティファの中では、大人になる=いっぱい食べるということらしい。それならとっくの昔に大人になってるじゃん、という言葉は今回は飲み込む。
ティファはルンルンと謎の踊りを披露していると、俺たちの会話を困惑しながら眺めていたセレスと目が合った。そして、存在を思い出したとばかりに「あ」と声を漏らす。
「セレスさん居たんだ。もう帰ってもいいよ。エビフライ、セレスさんの分まで食べといてあげるから」
「えぇ!? 私も食べたいんだけど!」
「あのね、セレスさん。大人のレディがご飯に対してがっついてはダメだよ?」
おそらく、俺とセレスの心の声はこの時ばかりは一致した。
お前が言うな。
「どんなにお腹が空いていても、その辺を歩いていた獣を狩って丸焼きにして食べたらドン引きされるから、さ」
「それ、もしかしてティファちゃんの実体験?」
「例え話ですけどぉ!?」
随分と実感の籠った例え話だな。
とはいえ、このままだとグタグタと話をしている間に夜になってしまう。さっさと会話を終わらせるか。
「セレスさん、申し訳ありませんがエビの数はあまりないので……。またの機会にご馳走させてもらえないでしょうか?」
「い、いや、そこまでして食べたいってわけじゃ……あれ? でも貰ってたエビ、結構な数なかった?」
なんで知ってんだこいつ。まさか、今日来たのもそれ目当てだったのでは――。
「なんで知って――ごほんっ。ティファさんが帰ってきた時点で、百の位より下は切り捨てられますから」
「ああ、なるほどね」
「そこまで大食いってわけじゃないよ!?」
「ははは。ご冗談を」
「本当だよ!」
冗談ばっかりと言って怒っているが、自覚無しだとしたら相当やばいぞ。
「お店じゃないんだから。三十尾ぐらいでいいよ」
「エビフライだよね?」
「そだよ?」
「……ねぇ、キミの分のエビフライ残る?」
「……どうでしょうかね」
一応は、自分用としてエビフライを作りはするが多分奪われるだろう。
セレスは俺を不憫なものを見るかのような目で見たあと、「さてと」と言って踵を返した。
「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。またね、二人とも」
「はい。暗いですから、道中にお気をつけて」
「またね、セレスさん。今度エビフライを食べた感想、教えたげるよ」
「あはは……うん、楽しみにしてるね」
と、まったくそう思ってない声色でそう言った。
そうして彼女はそのまま教会を出ていき――最後に一度、俺――否、ティファの方を見る。けれど、だからといって何かを言うわけでもなく、そのままパタンと扉が閉められた。
「さてさて。ルシアンさん、エビフライを作りに行こうか!」
「ティファさんも手伝ってくれるのですか?」
「あったり前だよ。皿洗いなら任せておいて!」
「助かります」
スキップをしながら教会の奥に向かうティファ。
その背中に、「そういえば」と声をかけた。
「今日はどうして帰ってきたのですか?」
その問いかけに、彼女はピクリと肩を跳ねた。
そして、こちらを向いた目には微かに躊躇いの色がある。しかし、一度の瞬きの間にその色は掻き消された。
「最近、お金が無くなったからね。ご飯食べに来たんだよ」
「ティファさん、お店で手当り次第に注文するのはやめましょう」
「……ルシアンさん、わたしのこと腹ぺこキャラだと思ってない?」
「違うのですか?」
「…………違わないけどさぁ」
乙女心がまったくわかってないね、と叱られた。
「ま、いいや。ルシアンさん、さっさとご飯の準備しよう。エビが逃げちゃうからね!」
ふふん、と胸を張るティファ。
少し強引に話を逸らされたように感じるが、きっと気の所為ではないだろう。でも、彼女が言わないと判断したのだから、俺はそれに気付かないふりをすることにした。
「エビは逃げませんよ」
「え? でも、ちょっと目を離すといなくなったりしない?」
「それ、食べてませんか……?」
――今はまだ。




