4.スイ
『いやああああああ!!!』
『うああああッ!!!止めてくれッ!!!』
ザシュッ!!!……ザシュッ!!!と、胴体が貫かれる生々しい音。
マナ国は炎に包まれ、国中の人々の屍が道に転がっては、隣国の兵隊に踏み潰され、兵隊達のやり場のない怒りをぶつけられる始末。原型をとどめてない死体が、ソウ達の眼には腐る程焼き付いていた。
『ッ……どうして───』
『ソウ……!、もうすぐそこにまで…隣国の兵隊が来ちまってる!!』
『このままでは……、此処に避難している人々の身の安全が保証出来ません…。』
『大丈夫──まだ、勝てないと決まった訳じゃない』
脅える子供達やその家族───老人達全員に優しく微笑みかけ、何度もソウは「大丈夫」と呟いた。
それは仲間にも、自分にも言い聞かせていたのかもしれない。
『僕達には授かったそれぞれの武器と使命があるじゃないか』
軍服に身を包んだ三銃士は、この世に誕生したのと同時に授かった、己の魂と呼べる武器という名の"食器"を、天に掲げる。
『我等は三銃士』
『いついかなる時も』
『人々を幸せに導き、守り抜く』
キィンッ…───と、食器の重なり合う音が響いた。
バンッ!!!─────
『まだこんな所に隠れていやがったか』
『女以外は殺せ!!!』
隣国の兵隊にエルピスの看板は燃やされ、店の扉は乱暴に破壊された。
店内に悲鳴が飛び交い、それでも冷静に
三銃士は立ち向かう。
『──スイ、エンジ……、必ず生きて…また人々が喜ぶ料理を作ろう。』
『ええ……』
『分かってるよ』
スイはナイフを───
エンジはスプーンを───
ソウはフォークを───
振り翳す─────守り抜き、生き抜く為に……
ザシュッ!!!……
。
。
。
「ッ……駄目ッ!!!!」
三人に手を伸ばそうとしても届かない─────
「っと……───大丈夫ですか?」
伸ばした手は、ニコリと優しく微笑むスイに掴まれた。
「あ……、え……と」
まるで、恋人繋ぎのように指を絡められた。
「顔が火照っていますね…」
スイはひまわりの額と己の額をくっつける。
「良かった…───熱、下がりましたね」
「ひまわり様~、良かったですわ~!。ソウ様が運んで来た時、凄い熱だったから……」
「カ、カメリアちゃん!?」
スイの頭部からちょこんと現れた妖精のカメリアは、安堵の笑みを浮かべていた。
あのまま気絶してしまったひまわりは、ソウに運ばれて、再びエルピスへと戻ってきたのだ。
「あ、あれ!?制服は!?」
「……気付かれてしまいましたか…」
「ひいぃぃぃぃ!?ぬ、脱がせたの!?」
「嫌ですわ!スイ様ったら……、ワタクシ達が着替えさせましたでしょ?」
「そ…そうなの?」
「ふふふ…、ええ───カメリア達が着替えさせたので、御安心下さい…レディ」
「よ…良かったぁ~……」
「…ひまわり様……本当にごめんなさい───ワタクシ達が、この世界に連れてきてしまったから…こんな事に…」
「気にしないで!!……この世界に来た事が…原因じゃないから────」
"料理"と聞いて、過去の事を思い出して取り乱してしまった事だ。
(そういえば…ソウが、三銃士の誰かとキスをすれば…体内にある女神実を取り出せるって……)
スイの顔をチラッと見ると、優しい眼差しを向けられた。思わず顔が紅潮してしまう。
(そ、そりゃあ……こんなイケメンとキス出来たら嬉しいけど……────で、でも!!好きでもない人となんて…───)
《だから、僕は食戦争で、戦おうと決めたんだ》
「食……戦争」
そのワードを思わず口にすると、スイは絡めた手を引っ張って、ひまわりを押し倒した。
「…レディ───私に女神実を渡して下さい」
透明感のある唇が迫る────
「きゃ、きゃあぁ~!?ス、スイ様!?…はわわ…意識が…」
刺激が強すぎたのかカメリアは顔を紅潮させて、へなへなと床にパタリと倒れてしまった。
完全にこの空間は、ひまわりとスイだけしか居ない
「っ……」
甘い吐息が唇にかかった




