3.ソウ
『アンタ、パクリのレシピで大会に出ようとしたんだって~?』
『うっわあ~、さいてーい!』
『そんな人が"戦争は料理でなくせる"とか言ってんのマジウケんだけど』
「違う!!、あのレシピはあたしが作ったの!!」
『証拠は?───』
『嘘つき』
『嘘つき』
自分で書いたレシピは全部燃やした。
もう二度と、不正なんかが、争いなんかがおきないように
バシャ…!!───────
「……此処はどこなの…ッ!?…あたし──帰らなきゃ」
知らない森─────
ひたすら走るしかなかった。
でも……──────帰るって…何処へ?
帰っても……帰っても、もう……───────
「あ…ッ!」
バシャンッ!!───────
派手に転んでしまった。
どうして自分がこんな目に遭わなきゃいけないのか
なんで涙が勝手に零れるのか────
(全部……こんな所にいるせいだ…)
「見つけた」
「……なにしにきたのよ」
うつ伏せの状態なので、顔は見えないが…
ソウという青年が目の前に居ることは分かる。
「…ひまわり、ごめん───君の気持ちも考えないで…僕は────」
「……ソウ、だっけ……───あたしが…料理できなくてガッカリした?」
「……ガッカリしたら、君を追いかけたりしないよ。」
「じゃあ、なんであたしを追いかけたの?…」
「…泣いていたから───君の心が」
「っ…はあ!?泣いてないし!!」
ガバッと起き上がると、ソウの顔が至近距離に。
ソウは急に起き上がるとは思わなかったのか、その拍子でバランスを崩し、後ろ向きに倒れそうになった。
「ソウ…!」
ソウの腕を掴んで引っ張ろうとしたが、地面の泥濘に適うはずもなく、そのまま押し倒す形で泥水の地面に倒れる。
「あ……あーーー!?ご、ごめ─────」
謝ろうとしたが、視界が暗転していく。
華奢に見えたその身体は意外とガッチリとしていて、その胸板に閉じ込められるように、優しく抱き締められた。
(ハーブの香りがする…)
ゼラニウムのような…独特だけども優しい香り。
「…さっき、キスしようとしてごめんね───」
「~~~!!わ、忘れてたのになんで思い出させるのよっ!!!」
「…あはは、ごめんごめん。……でも、ひまわりには怖い目にあって欲しくないから…───ちゃんと伝えるね。……この国は、もう時期炎に包まれる」
「炎…?」
「戦争が始まろうとしているんだ────」
「戦争!?……」
「だからこそ、女神実は……その戦争を止める為に必要な実だった」
「…な、なんか……本当にごめんなさい」
「あはは、謝らなくて良いんだよ。あの実を食べた者が作った料理は、人の心を動かす事ができる───…でも、使い方を間違えれば…戦争よりも恐ろしい事が起きるだろう。」
「…それって」
「…だからね、正直…ひまわりが食べてくれて安心してしまったのが本音なんだ。君は心が凄く綺麗で優しくて…平和を願う事が出来る子だから。」
「…あたしは…、そんな人間じゃないよ───料理だって…怖くて逃げたんだもん」
「…でも、それは君が意志を持って食べたならの話だ───…誤って食べてしまったとしても、取り出せる方法は一つある。…凄く嫌かもしれないけど、僕を含めた三銃士の誰かとキスをして貰えれば…その実は僕らの誰かの体内に取り込める事ができる」
「どうしてそんなキスでなんでも解決しようとするの!?」
「ん~…あはは、僕にも分からないな~。…後は、僕らの力を与える事もできる。さっき言っていた料理力だね」
「…あたしが嫌だって言ったら……この国は…」
「……あまり口には出したくないけど……───そうだね…」
「……あたし……、そんなの嫌だ……───また、会えたのに!!」
料理をするのは怖い─────
でも、この国が戦争で滅んでいくのは、もっと怖いと思った。
「…実は僕ね、昔…自分で作った料理なのに、盗作だって言われた事があって────」
「え…」
「周りに"僕が作った"って言っても、誰にも信じて貰えなかった。…悔しくて、悔しくて───"ただの戦争の道具の為に軍人達を利用するお前の言う事を信じるか"…って…。利用なんて…戦争なんて起こしたいわけないのに」
自然と涙が零れた。
自分と重なる部分と、真実やソウの想いが伝わらない──冷えきってしまった世界に
「だから、僕は食戦争で、戦おうと決めたんだ」
「食…戦争?」
「うん…、料理で戦うんだ。誰にも文句を言わせない、誰が食べても幸せな気持ちになれる料理を……」
「…あたしも…、作り…たい」
もう一度────料理がしたい
食戦争は、ひまわりが無意識に望んでいた事だったのかもしれない。
ソウの腕に抱かれながら、ひまわりはそっと瞳を閉じた。