2.三銃士
「いや~~!!ソウ様やめてぇぇぇ!!」
「他の子にキスしないでーーーッ!!」
"ソウ様"と呼ばれた青年は、ひまわりの手の甲に口付けをしたのだ。
端正な顔立ちから滲み出るのは無意識の人垂らしフェロモンか
「大きくなったね~、ひまわりっ」
「え、えーと……も、もしかして」
「あんなに小さかったのに……こんなに立派なレディになって……」
「よく分からないけど、お久しぶりです!。無事にお店出せたんですね!」
幼い頃の記憶を辿ると……────そう…、戦争を無くしたいとか言ってたけど……どうなったんだろ?。
あれ……────でも……どうして、このソウって人は歳をとってないの?。
出会った時と変わらない……────え、年重ねるごとに若くなるタイプ!?
「おい、お前ら!!。ギャーギャーうるせぇんだよ!!、料理に集中できないだろうが!」
厨房からドスドスと足音を立てて現れたのは、なんとも「短気」&「熱血」という言葉がピッタリな、炎のように真っ赤な髪の色をした青年。序に顔も同じ色をしていた。(頭に血が上って)
「頭から、湯気が出てる…」
「なんだとーーーッ!?───…って、お前……ひまわりか?」
「え、は…はい!」
「オレの事…覚えてるか?」
「え、えーと……確か───…一人だけ喧しいのが居たような……」
「ぶっ…!、喧しいってエンジの事かい?」
「え!?決してそういう意味で言った訳じゃなくてーーーーっ!!」
「…別に良い。お前、物覚え悪そ────」
バシャンッ!!────
「レディに対して、そのような発言は許しません。」
エンジの真上から大量の水が降り掛かり、正に"頭を冷やす"とはこの事。
「本当に喧しくて申し訳御座いません」
ハーブと輪切りにしたレモンが入ったグラスの水をトレイに乗せて片手で運び、気品溢れる笑みを浮かべ頭を垂れるその青年は、人差し指をクイッと動かしてエンジに降り掛かった水を、再び空中に浮かせたのだ。透明で汚れていない水───その"水"はまるで生きてるようだった。
「す、すごーい!なんかの手品?!」
ちょん…っと、水に触れると、その水は少し温かくなった。
「…おや、貴女に触れられて照れているようですね。」
「水が?」
「水は生きてますから───人間と同じように…」
水のように透明感のある青年は「スイ」と名乗った。
(そういえば……、凄く上品そうな軍人さんもいたっけ……。)
「ねえ、ひまわりは料理はできるかい?」
「え……りょ、料理……ですか」
"料理"と聞いて胸の奥がズキっと痛くなる。
食べるのは好きだけど、作るのは好きじゃない───
……好きだったのに、作れなくなってしまったのだ。
その"きっかけ"を思い出そうとすればする程、調理器具を見ただけで過呼吸を起こしそうになる。
「ごめんなさい…───料理、苦手なんだよね~……、前は…作ってたんだけど……その…」
「……そっかぁ~、残念だな……。───じゃあ僕とキスをしてくれるかな?」
「…………は?」
素早く腰に手を回し、ソウはひまわりの顎をぐいっと持ち上げた。
「キミが食べた女神実は、人の心を動かす事ができる特別な実なんだ。…戦争を無くすには……その実が必要だから。……だから、ボクの料理力を分けてあげるよっ」
唇が近付き、少し動いてしまえば触れてしまいそうな距離────
「い………いやあぁぁぁっ!!!変態ッ!!!怒」
ぱんっ!!!─────と、乾いた音が響き、周りは騒然とした。
「…りょ……料理なんか…したくない───あたしはできないの!!!」
もう二度としたくない。あんな思いはしたくない。……でも、皆が幸せそうにご飯を食べていると、作りたいと思ってしまうのは
「嫌………───嫌だ!!もう帰るっ!!!」
ひまわりは外に飛び出し、無我夢中で森の方へと走り去ってしまった。
「焦る気持ちは分かりますが……──何も説明せず、あのような行動に走るのは如何なものかと…」
「普通するか?」
「………泣いていた───」
「は?」
「誰がです?(どちらかと言うと…怒っていたような…)」
「……ひまわりの心が、泣いていた。」
ポツ……ポツ─────
窓の外を見ると雨が降り始め、スイは女性客全員に傘を持たせて帰るように促す。
「スイ様の紅茶…飲みたかったのにぃ~」
「もう……っ、あの子のせいで全部台無しよ!」
「申し訳御座いません…、またの御来店をお待ちしております。」
渋々帰って行く女性客を丁寧に見送りながら、スイは、ポツリと吐露をする。
「…やはり、彼女を此方へ呼ぶべきではなかったのかもしれませんね…。」
「僕は……そうは思わないよ。だって、あの子に救われたから僕達───まだ…希望を持って戦おうって…」
「だから、迎えに行くよ」…と、そう言って──緑色の傘を拡げソウはひまわりを追いかけた。