1.ひまわり
「戦争を無くすには、ご飯を皆で食べる事が一番だと思います!」
日下部 ひまわり は、幼少期に不思議な夢を見た。
日本ではない西洋風の世界に一度だけ迷い込み、三人のシェフと出逢ったのだ。
然し、シェフにしては格好が料理する感じではない"軍服"姿で───それでもその"シェフ"達は、木の実や卵や野菜を使って美味しいサンドイッチを作ってくれた。ハーブと輪切りにしたレモンが入った水に、温かいじゃがいものポタージュ────
どれも個性と真心がこもっていて、また食べたくなるような、幸せな気持ち。
『慌てなくても、料理は逃げないよ。ちゃんとゆっくり噛んで食べてね』
ライムグリーン色の髪の毛がふわっと風で揺れた。
その青年は優しく微笑んで、少女の頭を撫でる。
幼いながらに"この人と結婚したい"と思ってしまうくらい、"やすらぎ"という言葉がピッタリな人。
『ねぇねぇ、おにいちゃんたちは、おりょうり作る人なの?。』
『……うん、そうだよ。戦いが終わったらね、自分たちのレストランを出店する予定なんだ』
『たたかい~?』
『僕はね、戦争を無くしたいんだ。ひまわりのような良い子が……───世界中の人々が平和に暮らせるような世界を……』
寂しそうに笑う青年。
幼い少女・ひまわりは、青年の手を掴んでこう言った。
『じゃあ、ひまわりもきょうりょくする!!。ひまわりね、保育園でならったよ!。ケンカしちゃったら、おたがいに、ごめんなさいってするって』
バリボリと、ひまわりは白く透明な実を頬張る。
『あーーーー!!!?お、お、お、お、お、お前ッ!!!その実……』
『……食べて、しまわれたのですか』
『へ?…』
『…ふふ、そうだね───素敵だね、ひまわりは』
カチカチと時計の針が回る音が耳許に響いた。
ひまわりが振り返ると、そこはいつもの見慣れた町の商店街。
「ひまわり、大きくなったら───またおいで」
優しい声はそこで途切れてしまった。
もう姿も見えない。
。
。
。
戦争はくだらない争いだ。
互いの思いが拗れた結果が、争いに発展する。
あの夢を見てから、ひまわりは二度と戦争が起きないような世界を作りたいと思うようになった。
日本はもう二度と戦争を起こす事はないと言われているが、それは100%とは言いきれないグレーゾーンな部分があるのは確かで。
現に他の国では、普通に戦争をしているからだ。
大体は国の頂点に立つ者同士のいざこざが原因で発展する事が多いらしい。
(あんな物騒な武器とかより、ご飯食べながら喧嘩する方が物凄い平和だよねぇ~…。なんならお互いの料理で競い合うのも…───)
「あーー!!もう、やっと見つけたわッ!!怒」
ぱさぱさぱさ──と、可愛らしい音。
今あたしの目の前には、緑色のワンピースに白いフリルのエプロンを付けた妖精が険しい表情を浮かべながら飛んでいたのだ。音の正体はこれだったのか。
「…………!?───えええええ!!?よ、よ、よ、妖精!?」
「ねぇねぇ…、アモネ…そんな風に高圧的に言ったら失礼だよ?」
「そうですわ、ソウ様に嫌われてしまいますわよ」
「わ!…また別の妖精……────きゃ、きゃわいいいいいッ!!!!!!」
突如現れた可愛らしいミニサイズの妖精3匹……ぎゅうっと抱き締めると小さな悲鳴が……。
アモネと呼ばれた妖精と同じワンピース(色違い・赤色と青色)とエプロンを付けた2匹の妖精は、赤色の子が「サンゴ」青色の子が「カメリア」と名乗ってくれた。
(はわあ……、妖精って本当に居たんだぁ…)
学校からの帰宅途中でまさか妖精に遭遇するなんて……
「本当に腹立たしいけど……───ソウ様がアンタを呼んでるわ。」
「ソウ…?────って、誰?」
「あなたが小さい頃に出会った三人の軍士を覚えてるかな?。その中の内の、髪の色がライムグリーンのお方が、ソウ様だよ」
サンゴはおっとりとした口調で説明をしてくれた。
ライムグリーン色の髪……
(あ!……あれって…夢じゃ、なかったの?)
「ひまわり様……、どうかワタクシ達を───三銃士をお助け下さい。」
「三銃士?」
「わたし達の主です。そして…マナ王国を救う伝説の軍士なんです。」
聞いた事のない国名にひまわりは困惑する事しか出来なかったが、あの夢だと思っていた事が夢じゃない事に歓喜する。
「そういえば、ソウって人に…大きくなったら、またおいでって言われたの!。」
「…今がその時なのよ……。アンタは十分に成長したわ……────きっと、今度こそ止められるわよね?」
「え……"止められる"って……────」
アモネはフォークを、サンゴはスプーンを、カメリアはナイフを……───それが自然と一つに合わさり、レストランでよく見かけるような扉が現れた。
扉には"OPEN"と札がぶら下がっており、無意識に扉を開けていた。
(なんだろう……なんだか───懐かしい……)
夢で見たからじゃなくて……、前にも……───
いや、何度も───────
「いらっしゃいませ───レストラン・エルピスへようこそ──女神様」
ライムグリーン色の髪がふわりと揺れた───
優しくひまわりの手を取り……、その青年は手の甲に唇を落とした。
日下部 ひまわり 15歳……
初キッスは手の甲にされました。