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第2話:相棒と昔馴染み

「お腹すいたー!」


 帰ってきたのは自分用に用意された寮の部屋。玄関に入るなり突撃してくるのは彼岸花の刺繍が施された黒い着物姿の刀に宿るおにの幽霊。条件反射で避けると、その勢いのままカグヤは扉にぶつかって、少し大きめのたんこぶを額に作った。


「ねぇなんで避けるの?」

「命の危機を感じたからな」


 俺は子供の頃に何度もカグヤに突撃されて重傷を負っている。

 それらの経験から反射的に避けてしまったのだが、カグヤの若干だけど泣きそうな顔を見ると悪手だったかもしれないと思った。


「酷いよ、たんこぶ出来たじゃん!」

「冷やすから部屋に戻れ、確か冷えピタあっただろ? ちょっと高いやつ」

「あれ嫌いだからやだ。多分アイスを食べたら治るとおもうの」

「思うの? じゃないだろ自分の事だろ」

「あははー、それよりごっはんっ」

「やけにテンション高いがどうした?」

「玲とやっと話せるからだよ?」

「……お前が朝寝てたのが悪いだろ」


 そんなやり取りを交わし部屋に入った俺は玄関に鞄を放置して、手を洗い作り置きしていた晩飯を温め始める。


「今日学校どうだった?」

「変わりは……なかったぞ?」

「へぇ、何かあったんだ」

「……今日鎮凪と話したな」


 晩ご飯の最中、今日あった事を誤魔化せばすぐにバレたのでそう伝えるとカグヤは驚いた表情を浮かべた。


「珍しいね、玲はあの子の事を避けてたでしょ」

「偶然だ偶然、まあクラスメイトだしいつかは話してただろうし、別にいいだろ」

「……玲も頑固だよねーその本筋? っての気にせず生きれば良いのに」

「いやだって……色々あったし」


 この学園に来るまで本当に沢山のことがあり、色々疲れた俺からするとこんな物語みたいな世界でもう何かを頑張るのは勘弁。

 だから主要人物っぽい彼女とはあまり関わりたくない。


 別の理由としては、俺があんな綺麗な奴と話にくいという事もあるんだが……それをカグヤに伝えればからかわれるのは分かっているので口には出さないが……。


「まあ玲はヘタレだしね」

「……誰がヘタレだよ」

「あはは、誰だろうね」


 茶目っ気溢れる相棒は目を合わせてこようとせず、最後に残った鮭を食べきりご馳走様と言って宙に浮き出した。


「でも今のところ平和だし大丈夫じゃ無い?」

「……この世界だぞ? いつ事件が起きてもおかしくないだろ」

「それ否定できないのかなしいねー。でも、最初はビックリしたよね、玲がこの学校に通う事になるなんて」

「まあな、俺も今更学校に通うなんて思わなかった」


 昔は妖殺しなんて呼ばれて、日々暴れる妖怪や異種族を退治してきた俺が、今更普通に学校に通うなんてまじで思わなかった。

 昔の俺にもしも今の状況を伝えれば何の冗談だって言われそうだ。


「どう学校は楽しい?」

「楽しいぞ、友達も出来たしな」


 まだ二人しか作れていないが、それでもあいつらと過ごすのはかなり楽しい。

 本の趣味も合うし、何かと話題が尽きないのだ……多娥の奴が俺で遊ぶのは許せないが。


「よかったね、私は玲が笑えてて嬉しいよ」

「お前は母親か……」


 ツッコんで、妙に嬉しそうな相棒の様子に少し気恥ずかしかった俺は残っていた白飯をかきこんで、この場から離れることにした。


「とりあえずだカグヤ、今日はおっさんに報告があるから静かにしてろよ」

「はいはい、じゃあ私はゲームでもしてるね」


 ゲームを始めるカグヤを横目に俺は寮の寝室に戻り、支給されているもう一つのスマホを取り出しそのまま世話になっている人に連絡を入れる。


『俺だ……久しぶりだな玲』

「久しぶりおっさん」

『源さんと呼べ源さんと。で、どうだ?』


 書けてきたのは俺の保護者、今頃書類仕事してるだろう彼は……はしょってそう言ってくる。


「転入してから一ヶ月経ったが、すっごく平和だぞ」


 俺はここ最近の状況を報告しながら、安心して欲しいがためにちゃんと仕事をしているという事を伝えたのだが、電話越しのおっさんは不服そうだった。


『いやそうじゃなくてな、友達は出来たのか? クラスに馴染めてるか?』

「専用の回線を使って聞く事じゃないだろそれ……」

『仕方ないだろ、お前小学校から殆ど学校に行ってないんだし、かつての部下を思っての事だ』

「余計なお世話だ、それに俺だってちゃんと学生してるぞ」

「嘘だよ、友達は二人できたけどそれ以外はずっとぼっちだよ」

「おいカグヤ、急に入ってきて人のプライベートを暴露するな……本当に大丈夫だから部隊の奴とか送るなよ絶対、そこまでやる必要ないからな」


 おっさんのことだ俺が普段ぼっちで過ごしているという事をしれば、自分の権限で昔の部隊の奴を送りかねない。ただでさえ、前の仲間が二人も一緒にこの学校に潜入しているのだしこれ以上は過剰だ。


『分かってる……まあ順調ならよかったよ、またな玲』

「おう、またなおっさん」

『だから源さんと呼べって』

「はいはい」


 それで通話は終了、この後は特にやることもなかったのでベッドに横になり俺はそのまま目を閉じた。


――――――

――――

――


 そして翌日、夕暮れ時に一羽の(からす)に睨まれて襲われ飛びかかられた所で目が覚めた俺は、複雑な気分で今日はカグヤと一緒に登校していた。


「夢って馬鹿に出来ないし、なんか起こるのか?」


 夢に関係する種族や呪いというのは意外と多く馬鹿に出来ない。

 だから変な夢を見た時、それも覚えているという時などは気を付けた方がいいとうろ覚えだが、おっさんが言っていた気がするし、気を付けておいて損はないだろう。

 教室にやってくれば、そこにはいつものように大半の生徒が揃っていた。

 席に座ってまだ残る眠気に従う様にうつ伏せになると、誰かが声をかけてくる。

「おっす玲、眠そうだが昨日もカグヤの姉御に付き合ってゲームか?」

「……朝から元気だなお前」


 うつ伏せの俺を見下ろす形で前にいるのは、俺と同じ部隊に所属している仲間の一人。狸の耳が生えたそいつは何が面白いのか笑っている。

 隠神裕也(いぬがみゆうや)という名を持つその男子生徒は、そのまま俺の前に立って何やらポケットに手を突っ込んだ。


「何してんだ?」

「ちょっとな……っと、これこれ」


 そう言って俺の目の前に何かを置く裕也、気になって見てみればそれは袋に包まれたいくつかの飴だった。


「とりあえず糖分でも取れよ、また説教されるぞ?」

「余計なお世話だ……まぁ貰っとくけどさ」

「遠慮なく食ってくれ、玲が好きなコーラ味もあるぞ」


 そう言われ黒い包みの飴を口に入れた俺は、しばらく味わうように舐めてから飽きたところで噛み砕いた。


「で、何かあったのかよ」

「いや、変な夢を見ただけだ」

「内容は?」

「悪夢っぽい何か」

「それは災難だなお祓い行くか?」

「別に良い、最悪自分でお祓いするから大丈夫だ」


 だから心配すんなという意味を込めてそう伝え、俺達はそのまま他愛ない会話を続けることにした。あ、でもその前に

「そうだ裕也」

「なんだ?」

「鎮凪って……」

「大将、俺は嬉しいぞ!」


 俺が内容を伝える前にガタッと立ち上がり、裕也は言葉を遮り涙を流すふりをする。それどころか、お祝いだとか言いだして、追加で飴を渡してきた。


「……急にどうしたんだ?」

「そりゃあ玲が積極的に人と関わろうとしたからな。お前は俺ら以外には殆ど無関心だろ」

「……最近は違うぞ。多娥とか先輩とかいるし」

「でも少ないだろ? いやぁ本当にめでたいな、もっと大々的にお祝いでもするか?」

「話が進まん、本題に入るが鎮凪ってどんな奴なんだ?」

「そりゃあ文武両道才色兼備の完璧超人。あと凄い有名人?」

「いや、そうじゃなくてさ」


 そういう面は知っている――というか、クラスで嫌でも目に付くし分かる。 


「なんだ普段の様子か、それならまあ優等生って感じじゃないか?」


 それはまさに俺のイメージ通りの回答。

 鎮凪を思い浮かべれば出てくる優等生という言葉、クラスで全然関わっていないが何故かそれを想像出来るのだ。


「あーでもあれだな、結構一人なことが多いな」

「……鎮凪がか?」

「他に誰がいるんだよ、お前がふった話題だろ?」

「いや、想像出来なくて」


 昨日も他の生徒と戦ってたの知ってるし、何より彼女が一人でいる光景が想像出来ない。 だってあれだぞ? 本来なら関わることが出来ないであろう存在であり、噂に事欠かない彼女だ。勝手なイメージだがいつも人に囲まれているだろうし、性格も嫌われるようなものではないだろう。まあ一人が好きなら話は別だが……。


「で、何で急に興味を持ったんだ? 昨日までは関わろうとしてなかっただろ」

 気になった理由といえば、昨日地雷を踏んでしまった気がしたからで、謝りたかったからなのだが……。


「……いや、なんとなく?」


 自分から女子の地雷を踏んだなんて言えないのでここは誤魔化すことにした。

「知ってるか玲、お前誤魔化すとき少し視線がずれるんだぞ」

「……まじか?」


 初めて言われたが、いつもカグヤに対して誤魔化すときに全部バレるのはそれのせいなのかもしれない。今度から気を付けないといけないな。


「まあいい、とりあえず俺が知ってるのはそのぐらいだ」

「助かる。というか思ったより詳しくてびっくりしたぞ」

「まあ、仮にも仕事だしな……てか、気になるなら影にも聞いたらどうだ?」

「それは……遠慮しとく。とにかくまたなんかあったら聞かせて貰うわ」

「そっか、また遠慮なく頼ってくれよな」


 眩しく笑う頼りになる仲間はそのまま授業の準備を始めた。

 話し終えたので授業準備をしていれば教室に入ってくる誰かの姿が目に入る。それは昨日帰りに出会った鎮凪紅羽。

 彼女はそのまま席に座りそのまま小物などを取り出し始めた。

 直前の様子と裕也の話が頭の中を巡る。

 一人だという仲間の話と今の様子、一面だけで判断しても意味ないかもしれないが……。


「なんか、妙に気になるんだよな……」


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