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暖炉王子と婚約者の私

募集テーマのワードから、タイトルに『暖炉』を使用しています。

 私の婚約者は王子様。

 王位継承順位は、そこそこ低い。

 ご公務とかも、本当にそこそこ。

 殿下はいつも暇そうで、私は時々忘れてしまう。

 殿下が王子であることを。

 自分が王子の婚約者であることを。

 それでも。


「でんかーっ! 今日も婚約者の私が様子を見に来ましたよーっ!」


 今日も私は忘れない。

 殿下と私の研究室。

 暇人殿下はこの部屋でいつも何かをやっている。


「あれっ……。でんかー?」


 殿下の姿がない。


「でんかーっ! どこですー?」


 おかしいな、とは思うけど、こういうことは時々ある。


「でん——」

「——婚約者殿——」


 殿下の声がした……けど、なんだかはっきり聞こえない。


「——っちだ、婚約者殿。こっち——」


 部屋の奥。

 暖炉がある。

 その中から声がする。


「なっ、何をしておられるのです?」


 殿下の足だけが見える。


「自分を見詰め直そうと思ってな。こうして暗闇に身を置いてみた」

「はぁ」


 意味不明だけど、こういうことも時々ある……。


「危なくないですか」

「ここの暖炉は一度も使っていない。火の気もないし、よごれてもいない」


 この部屋には鉄のストーブもある。暖炉を使うところは見たことがない。


「ここは荷物が多いから、室内で直接火を扱う暖炉は危険なんだ」


 書類、薬品、おかしな機械など……色々な物がある。

 火事を出したら大変なことになる。


「それで暖炉は使わないんですね。よく分かりましたが……」


 ここまで、殿下は足だけだ。


「……自分を見詰め直す? その効果はありましたか?」

「婚約者殿」


 足だけの殿下が、真面目な調子で返してきた。


「例えばの話だが……俺が王子ではないとしよう。それでも君は俺と婚約してくれるだろうか」


 よく分からないことを言い出した。


「どういうことですか? 殿下は王子で、私は殿下の婚約者で——」

「例えば、俺が煙突掃除人だったら、君はどうする」


 それは……婚約しないかも知れない。

 だけど、殿下の求める答えは、きっとそうじゃない。


「殿下」

「な、何かな、婚約者殿」


 正直……正直に言うばかりが愛じゃない。


「あなたは王子。私はその婚約者。それでいいじゃないですか」


  *


「————でっ、出られない! 暖炉から出られない!」

「どうしましょう!? 穴でも——」

「あっ、待て、出られる!」

「——良かったです……。うわっ、汚い!」

「ああ……使っていないから、掃除もしていない……」


 暖炉の中から現れた、別人みたいによごれた殿下。

 それでも。


「本当に煙突掃除人にでもなるか……」


 私の婚約者。

これにて完結です!

ご愛読ありがとうございました!

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