文化祭王子と婚約者の私
募集テーマのワードから、タイトルに『文化祭』を使用しています。
私の婚約者は王子様。
王位継承順位は、そこそこ低い。
ご公務とかも、本当にそこそこ。
殿下はいつも暇そうで、実際に暇で、暇人として有名だ。
正直どうかとは思うけど、これがかえって親しみやすいという意見もある。
「でんかーっ! 今日も婚約者の私が様子を見に来ましたよーっ!」
ここは殿下の研究室。
殿下、私、がらくた。
小さな世界。
「やあ婚約者殿」
殿下は書き物をしていた。
「それは……何かの原稿ですか?」
暇だからなのか……うちの殿下、ちょっとした用事をよく頼まれる。
「ああ。母校からの依頼でな、今年から『文化祭』というのをやるらしい。そこで挨拶するんだ」
「『文化祭』、ですか」
この辺りでは聞かない行事だ。
「文化的な活動の成果を発表するらしい。研究発表や展覧会、音楽や演劇、討論会などもあるとか」
「それは面白そうですね」
そう言ってから、気付く。
「きっと、この部屋みたいな行事なんでしょうね」
殿下の文化的な活動。
所狭しと並べられた荷物。
「一人で文化祭でもなんでもできますよ」
「そうだな。この部屋でそんなことはしないがな」
ここは二人だけの部屋。
だけど。
「今ちょっと思ったのですが……」
例えば、そこの棚の上。
「……あの人形とか。あれ要ります?」
「どういう意味だ。あれは俺が学生の頃に作ったオートマタ、『おしゃべり王子くん』だ」
機械で動く人形。殿下に似て……ない……こともない……。
「見た目が怖いんですけど……。捨てません?」
「捨てない! 急に何を言い出すんだ」
「あれが動いてるところ、見たことがないですよ」
殿下は、棚の前まで行って、人形を手に戻ってきた。
「壊れていなければ、動くはず……」
そう言って、ごそごそ……。
「ピオ……ヤア……コンヤクシャドノ。ヤア」
「うわっ、しゃべった!?」
不細工な人形が、ガクガクと動く。
怖い。
「どうだ婚約者殿。すごいだろう」
なんて殿下は言うけれど。
「いやいや、怖過ぎですよ。捨てましょう!」
「いやいや、捨てない。そうだ!」
「スゴイダロウ、コンヤクシャドノ、スゴイダロウ」
「文化祭で王子くんが俺の代わりに挨拶したら、学生たちは喜ぶぞ」
「ええっ。怖がりますよ……」
*
後日。
殿下は本当に人形を連れていった。
反応は賛否両論。
だけど、この出し物は評判となり、殿下は引っ張りだこに。
「コンヤクシャドノ、アイシテル、コンヤクシャドノ」
「俺はもう駄目だ……忙し過ぎる……恨めしや……」
これが怪談『文化祭王子』の由来だ。