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帽子王子と婚約者の私

募集テーマのワードから、タイトルに『帽子』を使用しています。

 私の婚約者は王子様。

 王位継承順位は、そこそこ低い。

 ご公務とかも、本当にそこそこ。

 殿下はいつも暇そうで、だから、今日も私はここに。


「でんかーっ! 今日も婚約者の私が……様子を……」


 だって、暇人を放っておくと。


「……見に……」


 時にとんでもないことを。


「……来ました……よ……?」


 ここは殿下の研究室。

 いつもと変わらないこの部屋に。


「やあ婚約者殿」


 いつもと変わらない殿下。

 だけど。


「んんー……?」


 何かがおかしい。


「どうかしたのか、婚約者殿」


 殿下は落ち着き払ってこちらを見ている。

 そのこと自体はおかしくない。

 おかしくはないのだけれど————


「あっ、帽子?」


 殿下の頭に帽子。

 室内なのに、ちょっと不自然だ。


「ああ、帽子だな。夏だからな」


 この言い方も……おかしい。

 私の知っている殿下なら。


——かぶると頭が良くなる帽子だ! すごいだろう!


 とか。


——君の分はないぞ。君の頭が俺のよりも良くなったら、俺の立場がないからな!


 とか。

 必ず言ってくる。


「これは君のだ。日射ひざしが強いからな」

「えっ……と。ありがとうございます?」


 手渡された帽子。

 殿下とおそろいだ。

 正直……分からない。

 何がおかしいんだろう。

 殿下の頭を……じっと見る。

 クリーム色の帽子が白く光る、夏の日射ひざし。


「殿下……」


 無彩色の部屋は色付いて。

 私の声は吸い込まれ。

 そうだ。

 最初に感じたのは、声が響かないことで。

 帽子のつばを握り締めると、不意に熱を感じた。


「んんんー……」


 私は殿下から視線を外し……ちょっと上に目を向けた。


「……はっ!?」


 天井がない。

 天井が青い。

 白い雲が天井だ。


「えっ、殿下、えっ……これはどうなっているのです?」

「うむ、すごいだろう。いながらにして星を見ようと思ってな、屋根を外してみた」

「そんなの……えっ、大丈夫なんですか?」


 後で問題が起きたりしないのだろうか。


「ああ、ここの屋根は元々取り外し可能なんだ」


 ええー……。


「それでだ、婚約者殿。屋根を外したはいいが、やはり季節だ」


 私は帽子を頭に載せた。


「星を……太陽も星ではあるが……夜までこれでは少し暑い」

「ええ」

「屋根というのは、言わば大きな帽子だ」

「はぁ」

「俺の帽子は小さいなぁ。これが星の帽子なら————」


  *


 夜になった。

 殿下は。


「この星空を君に贈ろう」


 とかなんとか言ってたけど。

 私は、自分の帽子に手を当てて、殿下の帽子に目をやって。


「ちょっと曲がってますねそれ。直しますから、殿下」


 星にだって手が届く。

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