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金魚王子と婚約者の私

募集テーマのワードから、タイトルに『金魚』を使用しています。

 私の婚約者は王子様。

 王位継承順位は、そこそこ低い。

 ご公務とかも、本当にそこそこ。

 殿下はいつも暇そうで、少なくとも私よりは暇で。


「でんかーっ! 今日も婚約者の私が様子を見に……じゃなかった……」


 今日は様子を見に来たわけではない。

 私よりも暇な殿下は、暇さえあればここにいる。

 殿下の研究室。


「……見てくださいこれ。今シーズンのトレンドです」


 その殿下はテーブルに突っ伏していた。

 まるで死んだ魚。


「いかがされたのですか、殿下」


 まさか……本当に死んでる!?


「殿下、殿下」


 殿下はのろのろと顔を上げた。

 死んだ魚の目で、一言ひとこと


「海に行きたい……」


 こちらを見もしない。


「急に何をおっしゃるのです。今夜は海ではなく川ですよ」


 殿下と私はとある夜会に招待されていた。

 川沿いの会場で夜景を楽しむ、らしい。


「私はいつでも出られます。殿下も早くしてください」


 そこでやっと殿下がこちらを向いた。


「む、婚約者殿。それは……」

「かわいいでしょう! 金魚柄です! 今って、こういう生き物モチーフが人気なんですよ」


 新しいドレス。

 私は! 服よりも食事だけど。

 殿下の反応をうかがう。


「ふっ」


 鼻で笑われた。

 正直真顔になった。


「婚約者殿。そんなものは金魚ではない」


 そう言って立ち上がると、部屋の隅へ向かう。


「生き物がどうとかは俺も聞いている……金魚のこともな……」


 金魚柄のドレスを作ったことは、殿下には話していないはず……。


「……君の好みなどお見通し……それで今回作ったのが……これだ」


 また嵩張かさばる物が出てきた。


「『金魚スーツ』だ! 今回は俺と君の分、二着ある!」


 金魚の着ぐるみ。

 なんだか無駄にリアルだ。


「なんですかそれ。そんなの着ていけるわけないじゃないですか」


 私がそう言っても、殿下は澄ました顔で。


「そう早まるな。これはすごいんだ」


 殿下が着ぐるみの中に入った。

 金魚の腹から足が、脇から手が生えてきた。


「陸を歩き、海を泳ぎ、空を飛ぶんだ」


 ブオーン……と音がして、金魚が天井まで浮かび上がる————


「どうだ婚約者殿! すごいだろう!」

「ええすごいですね。だけどそんな姿で夜会になんて行けません」


 金魚が降りてきた。


「知っているさ。だから二人で人目のない海に行きたい、とな」


 海に淡水魚。


「行こうか、婚約者殿。かわいいドレスに嫉妬した愚かな俺を笑ってくれ」


  *


 夜会。

 殿下は着ぐるみ、私はドレス。

 どちらも意外と好評で。

 調子に乗った殿下が海まで流されたりして。

 金魚色の思い出。

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