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5年王子と婚約者の私

募集テーマのワードから、タイトルに『5年』を使用しています。

 私の婚約者は王子様。

 王位継承順位は、そこそこ低い。

 ご公務とかも、本当にそこそこ。

 殿下はいつも暇そうで、それは晴れでも雨でも変わりなく。


「でんかーっ! 今日も婚約者の私が様子を見に来ましたよーっ!」


 お空の機嫌がどうであれ、私は声を張り上げる。

 今日は雨。

 ここは殿下と私の研究室。


「ああ、婚約者殿。いいところに来た」


 窓辺にたたずむ物憂げな貴公子。

 今日も暇そうだ。


「今から実験するところだったんだ。だが俺一人では不安でな……」


 そう告げる殿下の手には、怪しげな液体の入った試験管。

 これが殿下の暇潰し。


「なんですかそれ? やめてください、この前も大変だったじゃないですか」


 付き合わされる私は、そこそこ迷惑している。


「嫌だ! やめない!」


 殿下は子供みたいに叫んだ。


「あっ! 殿下!?」


 そして、液体を一気に飲み干した。

 どうなるのだろう……。


「……今回はなんです? また変な物に変身する薬ですか?」


 なんだか暇なので、質問してみた。


「いや、違う。『若返りの薬』だ。飲むと五歳児になる」


 何それ。


「そんなに若返って、どうなさるのです?」


 私がそう言うと、殿下はふっと遠い目をした。


「あれは俺が五歳の頃だ……」


 何やら語り始めた。


「……庭で友達と遊んでいたら、雨が降ってきた。今日みたいに」


 降り続く窓の外。


「すると大人たちが飛んできた」


 視線の先、くすんだ色。


「俺だけ大きな傘一つ、ほかの子らは適当だ」


 殿下はこちらへ向き直った。


「これが俺の最初の記憶、自分が王子であると自覚した瞬間だ」


 正直……よく分からない。


「それと薬となんの関係があるのですか?」

「関係はある。生まれて五年、この時、俺は本当の意味で王子になった」

「はぁ」

「言わば『五年王子』だな」

「言わされてませんかそれ」


 やっぱり分からない。


「そろそろ薬が効いてきたぞ……」


 見ると、殿下の体が縮んでいる。

 どんどん縮んで、本当に小さくなって————


「ここは……僕はどうしたのでしょう?」


 しゃべった。声が全然違う。


「お姉さんはどなたですか?」


 大人びた話し方。


「殿下、私はあなたの婚約者ですよ」


 五歳児に伝わるのだろうか、と思ったけど。


「婚約者ですか! こんなかわいらしい人が婚約者だなんて、僕は幸せ者ですね!」


 なんだろう。

 悪い気はしない。


  *


 数時間後。

 薬の効果が切れた。

 かわいらしい殿下は消え去って、暇人殿下が戻ってきた。


「婚約者殿……俺には記憶がないのだが……何があったんだ……」


 お空も私も上機嫌。

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