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ある令嬢の起死回生

俺は気づいたら貴族の子になっていた、いわゆる転生をしたらしい。

ある日、この世界が前世の姉にやらされたゲームの世界にそっくりなことに気づいた。調べると、今世の妹である主人公が唯一のBADエンドに進んでいる。このままでは妹も、俺の最推しの悪役令嬢も死んでしまう!俺は、推しと妹を救うために奮起した。


今日は厄日だと思う。


朝、父から手ほどきを受けている仕事の書類にインク壺が落ちてきた。前日に婚約者が置きっぱなしにしたものらしい。そのせいでたくさん書き直して、家を出るのが20分遅れた。さらに、朝の馬車渋滞に巻き込まれた。

学園では、婚約者が前日に借りた教科書を返してくれず、恥ずかしい思いをした。


昼食時、件の教科書を返してもらおうと彼のクラスに行ったら。誰もいない教室で、婚約者がクラスメイトの教科書をニヤニヤしながら破り捨てているのを目撃してしまった。

そっとその場を離れ、見なかったことにしたかった。が、後ろから肩をたたかれた。恐る恐る後ろを見ると、腐れ縁であるラルド・ベリル伯爵子息だった。

「やぁラヴラール・オーソクレース伯爵令嬢。こんなところで会うとは奇遇だね。久しぶりに放課後勉強会でもどうかな?…()()について話がある。」

爽やかな声だが渋い顔の悪友をみて、本気で思った。

今日は厄日だ。






放課後、予約制の談話室へ呼び出されて行ってみると、ラルドとその侍従が待っていた。侍従が同席するのは、婚約者がいる私が男と2人きりでいたという悪評を立てられないようにするための配慮だろう。

こちらも、自分が一番信をおく侍女を連れてきている。


「早速で悪いんだけど、今ここで話すことは他言無用で頼むよ。ネタバレ、じゃなかった機密情報だから。」


「わかりましたわ。」


「2~3年程前に決まった君の婚約者であるスーモンク第2王子が先程奇行をしていたわけだが、婚約の経緯とか聞いているか?」


「ええ。王太子ご夫妻に王子がお生まれになったでしょう。ルチル第3王子殿下とスーモンク殿下は臣下降格して新公爵か、後継が娘一人の我が家に婿入りすることになりましたの。ただ、元はルチル殿下が婿入りする予定が、スーモンク殿下が横取りする形で婿入りすることになったと聞いておりますわ。」


「そうだったのか。“あの”スーモンク殿下には荷が重いだろうという配慮かと…。」


「もちろん殿下には交易の要所である我が伯爵家を継ぐのは荷が重いので、私が伯爵を継ぐのは決定事項ですわ。殿下は忘れていそうですけど。」


そう言いながら、今朝までのあれこれを思い出してため息が出てしまった。


「はっ、スーモンク殿下ならありえそうな話だ。ちなみに、私の妹マリーナが子爵家にいることは知っているかい?」


「半年前にあった王家主催のお茶会の後、彼女と連絡が取れなくなって。子爵家の養女になったと噂で聞きましたわ。確かあの子爵家は…」


「そう、妹はルチル殿下といい感じの仲になりそうなんだ。その関係で子爵家にいる。だが、スーモンク殿下が何やら妹に嫌がらせをしているんだ。しかも最悪の形で。」


「なぜそのような意味不明なことを…っまさか!」


「そう。嫌がらせをしているのが君になるように細工されている。先程も殿下は君があの時間にあそこに来るようにしていたはず。あいつは捏造した証拠をもって君を伯爵家から追い出し、妹には瑕疵をつけてルチル殿下から奪い、伯爵になる算段らしい。」


「なんてことを…!しかしそううまくいくものですか?」

現に先程の嫌がらせも、私とラルド様の2人が目撃したことで、証拠にならなくなっている。


「さぁ…。元は妹に対する嫌がらせがあって、軽く調べていたら、君の冤罪を作る殿下にぶちあたったんだ。ただ、相手は王族。場合によっては、権力でごり押し、なんて可能性もある。」

ラルド様はたまによくわからない言い回しをするが、かなりの切れ者である。その彼が、私にこの話をするということは…、


「このタイミングで私に頼みたいことは何ですの?マリーナの身辺の警戒とか?…ルチル殿下の婚約者候補として、王家の影をお借りできるかしら?」


「うえっ!?いいやあのそのえっと…それはありがたいけど…」


あら?いつものラルド様らしくないわね?

いつも飄々しているラルド様が、随分と言い淀んでいる。どうしたのかしら。

ラルド様はすっ、と真剣な顔をして私への頼みを告げた。


「君には運命に抗ってほしいんだ。」


「…え?それはどういう…」


「君はこのままいくと妹とともに破滅する。私、いや俺はラヴラールが好きなんだ!!出逢ったころからずっと!君に想いを告げる前に王命が出て、諦めて君を守る騎士になろうとした。だが、君が不幸や破滅に向かってゆくのは黙ってみていられない!」


「…え。ええっ!?そ、そんなことを急にいわれても…!」


「解っている。今は君とついでに妹の破滅を回避することが優先事項だ。どうか真剣に考えてほしい。」

それだけ言い残して、ラルド様はこちらの心を乱すだけ乱して、走り去った。侍女がいるとはいえ、私は一人残された談話室で考えることとなった。


落ち着いて考えるために、侍女にお茶を取りに行くよう頼み、ふと過去のことを思い出す。

私とラルド様、いや悪友ラルドは、婚約が決まるまで特に交流があった。もらったお菓子の量で喧嘩したり、学業の成績でどちらが上か競ったり、マリーナが喜ぶプレゼント選びで揉めて2人とも玉砕したりした。

ベリル伯爵家には後継となるラルドの兄がいる。そういう事実もあって、彼と婚約するんじゃないかと思っていたし、交流関係からも両家そのつもりだったろう。


しかし、王家からの要請によりその話は立ち消えになった。婿入りとはいえ相手は王族、周りの目は厳しくなる。スーモンク殿下も理想が高いのか私にいろいろ注文をつけてくる。

文句をつけられない完ぺきな後継になるため、感情を抑え、規範を守る。だいぶ融通の聞かない人間になった自覚はある。それでも殿下には会うたびに文句を言われる。そのうち、その枠からはみ出ることを怖がるようになってしまった。

先程の彼が言ったようなことが起こるなら、このままの私では殿下の罠から出ることはできない。

でも、枠からはみ出すこともどうしようもなくコワイ。…怖いが、ラルドの想いに答えないのはもっと嫌だと思ってしまった。マリーナを巻き添えにするのも嫌だ。私は、彼の勇気に応えたいと思った。



後日、私は殿下に立ち向かうことを、ラルドに伝えた。私の覚悟を聞いた彼はまるで未来がわかるかのように、効率よく偽証を潰していった。ただ、私の決意を聞いた彼が「覚悟を決めて、本当の笑顔をみせてくれた…推しが尊い…」と感極まっていたのはよくわからない。


私は、マリーナとの交友を再開しつつ、わざとスーモンク殿下がいる場で彼女を厳しく叱責した。枠を出るのはまだ少し怖くて、私にできたのはその程度。しかし、殿下だけは簡単に引っ掛かったようで、近日行われる学園の創立記念日の夜会で何かを仕掛けてくるという情報が入った。






「ラヴラール・オーソクレース伯爵令嬢!お前との婚約を破棄する!」


父親のエスコートで入場し、国王や高位貴族が入場する前の時間。喉が渇いたということで、父が飲み物を取りに行った間に事は起こりました。怒鳴るように言い放ったのはスーモンク殿下。緊張と恐怖で足が震える。でもここが正念場。私は出来るだけ優雅に見えるように微笑んだ。


「この婚約は王命によるものだと記憶しておりますが、どんな理由でしょう。どのような理由だとしても、この場ではだいぶ不適切な発言でしてよ。」

「うるさい!お前がマリーナ・ユクレス令嬢をいじめただろう。いじめなどするものは伯爵家に必要ない。即刻出ていくがいい!」


この人は本気で何を言っているんだろう?周りにいる人みんなぽかんとしてますよ?


「彼女は大事な友人ですし、いじめなどしておりません。そもそも出ていけとはどうゆうことですの?」


「俺は知っているんだぞ!お前が本当はルチル兄上を好いていること。だから兄上の想い人であるマリーナ嬢に嫉妬していること。そのために俺や彼女に嫌がらせをしていること!そのせいで彼女は心を病んでしまって、兄上と結婚できないことも。証拠もある!かわいそうな彼女のためにも、俺はオーソクレース伯爵家を継いで彼女と結婚する!」


あまりにもラルドの言っていた通りに話が進むものだから、思わずため息が出た。


「いえ、そもそも嫉妬って何のことですの?王族の方々を敬愛しておりますが、それだけです。マリーナ様には“殿下から”嫌がらせを受けたと相談されました。それに伯爵家は殿下のものではありませんよ?」


「はっ!?なっ、なんでそんなっ、は、伯爵家は俺が継ぐことになっていたはず…。」


「いえ伯爵家を継ぐのは私ですよ?王家ともその条件で婚約していましたし、そのために父から後継者教育を受けていたのですから。あなたがしていたのは私の補佐のための勉強ですよ。」


「え…」


「なるほど、殿下はわたしに冤罪をかけて、伯爵家を乗っ取るおつもりでしたの。」


「いや、違…」


「お前は何をやっておるのだ!!」


「ちt、陛下!?」


言い争っていている間に国王陛下が入場していた。息子が騒ぎを起こしているからと、慌ててきたのか。


「お前の勝手な行動で本日の夜会は台無しになるではないか!今日は吉報があったというのに!」


「も、申し訳ございません!しかし、吉報というのは…」


国王陛下は会場内の騎士にスーモンク殿下を抑えるよう指示を出すと、高らかに宣言した。


「みなのもの、本日も集まってもらい感謝しよう。また第2王子が騒がせてしまったこと、許してほしい。本日第3王子であるルチル・クォーツィアの婚約が成った。ベリル伯爵が娘、マリーナ嬢だ。」


「べ、ベリル伯爵!?あそこは娘などいなかったはずで…は…」


スーモンク殿下が騒ぐ中、1組の男女が入場する。ルチル殿下とマリーナ様だ。緊張しつつも微笑みお互いを気遣うような仕種に、仲のよさが覗える。


「ベリル伯爵令嬢は、前王弟の伴侶であるユクレス子爵のもとで公爵夫人となるため、学んでもらっていた。これからは、ルチルとともに次期王弟妃として励んでもらいたい。」


「ありがたき幸せに御座います。」

そう言って顔をあげたマリーナ様は、とても病んでいるようには見えない。その様子を目の当たりにしたスーモンク殿下は力なく項垂れていた。






その後、スーモンク殿下は夜会を台無しにしたことで騎士に連行された。彼は廃嫡され、国境警備隊に配属。あまりにひ弱なので、屈強な隊長に毎日しごかれているらしいです。


私は、「イベント乗り越えた!」とかいう悪友ラルドから猛アプローチを受け、「あなたと幸も不幸も分かち合いたい」の言葉に婚約。卒業後に結婚する予定です。

「幻の大団円エンドさいこー!!」とか叫んでる、愉快な旦那様と自領の為にさらに頑張ります。たぶん。


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